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朝鮮戦争がきっかけで認知された感染症―ハンタウイルス「ネズミの病気」がなぜ今、注目されるのか

2026年5月初旬、南大西洋を航行していたクルーズ船でハンタウイルス感染症の集団発生が報告されました。
世界保健機関(WHO)は3日、大西洋を航行中のクルーズ船で、ネズミなどに由来するハンタウイルスによると疑われる集団感染が発生し、3人が死亡と発表しました。これまでに1人はハンタウイルス感染と確認され、他の5人が調査中だとしています。航海途上に関与した南アフリカ保健省は、ハンタウイルス感染が確認された1人はイギリス国籍の69歳男性、ヨハネスブルクで集中治療を受けていると報じています。乗客乗員147人中、5月4日時点で確認と疑いを含むのは7名で、うち3人が亡くなっています。「まだ」集団感染の初期なのか、これで収まるのか・・・ですね。

カーボヴェルデの首都プライアの沖に停泊するホンディウス(BBC Newsより)

この集団感染は南米アルゼンチンからアフリカのカーボヴェルデへ向かっていたクルーズ船「ホンディウス」で派生しました。アルゼンチンは何となく場所が判っている・・・として、カーボヴェルデってどこ?ですかね。

カーボヴェルデ共和国、通称カーボヴェルデは大西洋の真ん中、北西アフリカの西方の沖合、マカロネシアとよばれる地域のバルラヴェントとソタヴェント両諸島からなる共和国、首都はプライアです。この国は群島からなる島国で中世までは無人、ポルトガル人探検家が発見し入植計画が生まれ、熱帯で最も古いヨーロッパ人居住地となりました。15世紀から1975年までポルトガル領、独立時にはアフリカ大陸のギニアビサウと連邦形成予定でしたが1980年のギニアビサウのクーデタでおじゃんになりました。が、カーボヴェルデは1990年代初頭以来、ポルトガル語を公用語とするアフリカ諸国加盟国であり、安定した代議制民主主義国家です。

カーボヴェルデ

ではハンタウイルス感染症です。この感染症は感染したげっ歯類(ネズミの類)の排泄物(オシッコやウンチ、唾液)と接すると発生しますが、ごく稀にヒト-ヒト感染し重い呼吸器疾患を引き起こします。

病名は韓国の河に由来します。
朝鮮戦争(1951〈昭26〉年6月25日に始まった半島を南北二分しての戦争。北の南下、アメリカの南支援、後の中国の北支援、1953年7月23日、北緯38度線で休戦協定成立。現在も休戦中、終戦ではありません)に従軍中の国連軍兵士、特に米兵に高熱、激しい頭痛、出血、急性腎不全を伴う病気が多発、最初は原因不明の韓国型出血熱と呼ばれました。総数約3,000人以上が罹り死亡率は5〜15%、漢灘江(Hantaan〈ハンタン〉河)周辺で多発しました。

その後、原因は野生のネズミ、特にセスジネズミ(striped field mouse)が関係すると判りました。兵士は野営地に暮らし、時に塹壕(ざんごう)にこもります。調理場や穀物置き場はネズミの尿や糞にまみれ、それらが乾燥し舞い上がる・・・それを吸い込んでの感染と考えられました。

1970年代後半、韓国のウイルス学者李鎬汪(Lee Ho-Wang)先生が患者発生地のネズミから原因ウイルスを分離され、病気の原因として認定されました。発生が多かった漢灘江(ハンタン河)にちなみ、「ハンタンウイルス(Hantaan virus)」と命名されました。河にとっては迷惑ですが・・・

今回の発生は、南米に分布するハンタウイルスの一種アンデスウイルスの可能性も問題視されていますが、研究者らは一般社会へのリスクは低いとしています。しかし、少数でも集団発生!死亡者!!ですが、恐らく、船という限られた閉鎖社会が関係しているとされていますし、WHOやCDC(アメリカ疾病予防対策センター)も基本的感染経路は「人-人」ではなく、「ネズミから人」だと説明しています。

ハンタウイルス感染症には二系統があり、アジア・欧州では発熱、腎障害、出血傾向を伴う腎症候性出血熱が多く、南北アメリカでは急速な呼吸不全を起こすハンタウイルス肺症候群が多いそうです。

オランダ アムステルダム空港で隔離される感染者(救急車に乗ろうとしている背の高い人)(BBC Newsより)

わが国では非常に稀、近年ほぼ報告なしですが、個人的にもハンタウイルス感染症を身近に感じたことがありました。1960年代後半から70年代のことで、当初、大学や研究施設での飼育ラットでの感染が起きました。70年代初頭、太ったネズミが徘徊していた大阪梅田周辺の飲食街で流行しました。恐らく、何百匹ものネズミが感染したとされ、都市型ネズミ問題とか云いました。近くの国立病院(当時)に勤務しており、日々、梅田界隈を歩いていましたので、とても身近でした。

清潔度の高い日本の一般市民生活では感染リスクは極めて低いでしょう。そもそもネズミを見ない日々ですが、感染症は未来永劫かからない保証はありません。この連休でも町々では日本人よりも外国人の姿を多くみました。人だけでなく物を含む国際移動の激しさ、それがなければ生きてい行けない日本です。輸入や訪日を完全にシャットアウトすることは不可能です。そしてますます進む気候変動・・・それによる自然の消滅と変化、野生生物分布変化・・です。

いずれにせよ、おかしいと思ったら、自己隔離して様子を見ること、適切な専門家への連絡でしょうか。ちなみに日本でのハンタウイルス肺症候群は四類感染症として、感染症法上、届出対象です。国内流行は恐らくないでしょうが、警戒はすべきです。今次のハンタウイルス感染は派手なパンデミックではありません。が気候変動、観光などヒトとモノの国際移動がはげしくなっていること、あまり接触の無かった生物との新たなめぐり合い・・・クマ騒ぎも含めて・・・今までなかった環境が未知の感染症をもたらします。すべて、人間がつくった、壊した社会変化かもしれませんが・・・

感染症情報提供サイトより(国立健康危機管理研究機構)

これ以上、ハンタウイルスとその感染症が広がらないことを祈ります。