JP / EN

Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

猫イメージ

微生物との闘い 検疫Quarantine

先週書いたハンタウイルスのその後です。

専門的ですが、ハンタウイルスとはハンタウイルス科オルソハンタウイルス属に属する一群のウイルスの総称で、大きくは「ユーラシア大陸型」と「南北アメリカ大陸型」に別れます。「ユーラシア型(ヨーロッパとアジアを一続きの大陸とみる呼び方)」は腎症候性出血熱を、「南北アメリカ大陸型」は肺症候群を引き起こすそうです。進行中の集団感染での死者はすべて呼吸器症状・・・肺炎ですが、その肺炎型の致死率は30〜50%と極めて高い。ハンタウイルスは新型コロナのようにヒト-ヒト感染はないとされていますが、例外的に進行している南米アンデス型ハンタウイルスでは人から人への報告があるそうです。はしかのような爆発的感染はないのですが、今回のように数名の人々の間の感染はヒト-ヒト感染の可能性を疑わせますが、クルーズ船という閉鎖空間に問題があるのかもしれません(この辺り、疫学〈感染症の広がりを研究する学問〉に詳しい感染症・地域医療専門家 高山義浩先生のご見解を参照しました)。また「致死率」はある病気に罹った人々の中で何人が亡くなるかの割合、「死亡率」は一般人口の中で何人が亡くなったかで原因は問いません。

ホンディウス号の英国人の移動経路(BBC Newsより)

さて細菌やウイルスといった微生物が人間にとりつく=感染を防ぐ対策、あくまで予防ですが、には三つあります。隔離、検疫、予防接種です。

まず「隔離(Isolation)」です。すでに感染している、あるいは感染が強く疑われる人をまだ感染していない多数の人々から切り離すことです。ソーシャルディスタンスもこの簡易版です。とにかく誰かにくっついている病的な微生物を他の人に移らせないこと!どんな感染症でも、最初のグジグジした風邪症状期の無理な出勤を止めて1、2日を自宅で様子を見ることで爆発的流行を防ぐことは可能です。解熱剤を使って無理に出勤すること・・・を止める決断です。

次は「検疫(Quarantine クアランティン)」です。これは感染しているかもしれないけれども、まだ症状が明確でない人や感染のもとになる微生物をもっていると思われる船、飛行機、物、動物などを一定期間移動させないことによって、病気が広がるのを防ぎます。後で詳しく・・・

ホンディウス号から下船した英国人への検疫操作(BBC Newsより)

三つめは「予防接種(Vaccination/Immunization)」です。まだ感染していない人(や動物)にある病原体の一部や弱毒化したものを人工的に移し、あらかじめその感染症に対する免疫を作ることです。感染を防げなくとも重症化は防げます。地球上から消滅した唯一の感染症天然痘や一掃されつつあるポリオ、復興しつつありますが往時のような子どもキラーではなくなった麻疹、新しい所では新型コロナ対策に効果を上げています。

その二つ目の検疫―外から病気を持ち込ませないことの語源はイタリア語の40日間(quaranta〈40の〉 giorni〈日々〉)にあります。

13、14世紀のユーラシア大陸はパクス・モンゴリカ・・・テムジン チンギス・ハン(1162年頃‐1227)が開いたモンゴル王国の支配下にありました。そして、後に書かれた『東方見聞録』の著者ヴェネツィアの商人マルコ・ポーロ(1254‐1324)らの東方への旅が当時の先進都市ヴェネツィアあたりの人々の関心をそそっていたでしょう。まだヨーロッパからアジアへの直行海路はなかった時代ですが、中東イスラム圏の商人経由の東方交易があったのです。その結果、海路でヴェネツィアあたりに持ち込まれたのがペスト(black death 黒死病)です。

1347年、シチリア島で始まったらしいペストは徐々に拡大し、当時のヨーロッパ人口の1/3を死に追いやったとされています。

ペストの拡大には色々な説がありますが、ネコオタクの私メは、魔女の仲間とされた黒猫を不吉な・・・と皆殺しにした結果、増えたネズミがペスト菌をまき散らした話に関心があります。が、そもそも地中海交易とともに東方からきた物品にネズミが紛れ込み、そのネズミがもっていたペスト菌が広がった・・・のです。外から病気がやってきた!ということです。

最初の船留めは1374年、ヴェネツィア港が病気流行地経由の船からの陸揚げを30日間保留し、その間に船で感染者が出なければ入港させました。1377年には現ドゥブロヴニク(ラグーザ共和国)も同様の処置をとり、ついでに陸上物品移送にもそのルールを適用させたそうです。その後、1383年に同規則を始めたマルセイユが40日間(quaranta〈40の〉 giorni〈日〉)とし、それが検疫の語源です。ついでにドゥブロヴニクで始まった陸上規制証・・・各城塞都市発行の衛生通行証がパスポートの原型とか。

ヴェネツィア検疫島(Lazzaretto Nuovo)の歴史図

30日か40日かは明確でなかったという説もあるそうですが、キリスト教での40は意味がある数字・・・旧約聖書のノアの洪水は40日40夜の雨、モーゼはシナイ山でお籠り断食40日後十戒を授かり、イスラエルの民は40年間荒野をさまよい、イエス・キリストは荒野で40日間の断食・・・

今のような科学知識のない時代にも、何だか病気は外からくる、人や物が移動すると病気がついてくることを経験的に知り対処した人々がいたのですね。

現在の私たちは、グローバル化時代すなわち大量のモノやヒトの移動の時代に生きています。

ペストは交易船で、1910年代のインフルエンザは大量移送されたアメリカ軍兵士がヨーロッパ、スペインに持ち込み、それが軍の移動でヨーロッパに、さらに鉄道と飛行機で世界に広まりました。ヒト-ヒト感染のエイズしかり、鳥インフルエンザしかりです。そして広がりの速さは加速しています。新型コロナは数十時間で地球規模に拡散しました。

私どもは、外国に行く時、行き先で病気をもらわないことに神経をとがらせますが、私たち自身が病気の種を持ち込まないことも大事なこと・・・と、その昔、国際保健稼業時代には若いスタッフに訓示!したものでした。感染症は不滅・・・ですが、私たちの叡智で対応したいものです。

検疫(厚生労働省HPより)