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果てしない感染症との闘い

今週、スイス・ジュネーブで第79回世界保健総会(WHA)が始まりました。毎年5月下旬の1週間、WHOメンバー国の保健医療分野の最高責任者―日本では厚生労働大臣―がジュネーブに集まり世界の健康とそれに関する諸問題を討議されます。

その2026年WHO総会の時期に合わせたかのように、そして先般のハンタウイルス騒ぎがまだすっかり終わっていないのに、アフリカ中央部の大国そしてこの厄介な感染症の原発地的でもあるコンゴ民主共和国でエボラ熱が発生しました。

第79回世界保健総会(WHO総会)(WHO HPより)

聞きなれませんがGPMB(Global Preparedness Monitoring Board 世界感染症危機準備モニタリング委員会。WHOと世界銀行が西アフリカのエボラウイルス流行などの対処のため2018年に共同設立した機関。「世界の人々の相互関連性を鑑みて、いつでも新たに発生しうる高致死性強感染性病原体は世界拡散するリスクを持つ」ことへの対応を目指す組織)が深刻な警告を発しています。その報告書“A World on the Edge: Priorities for a Pandemic-Resilient Future「崖っぷちの世界:パンデミックに強い未来への優先課題」”の冒頭には「世界はさらに大きなパンデミック被害の瀬戸際にある」とあります。 ムムム・・・です。が、単なる脅しではない事態なのであります。

10年ほどを振り返ってもエボラの発生、COVID-19の世界的大流行すなわちパンデミック、Mpox(エムポックス)、そしてわが国でも発生が報じられている麻疹のぶり返し、ハンタにエボラ・・・その間、マラリアやコレラも、世界の感染症蔓延状況は続いています。

中世のペストやコレラは一つの病気が世界人口を減らしました。しかし、19世紀後半以来の微生物学の発展、20世紀の抗生物質(抗菌剤)の発見やワクチン開発、上下水道整備や栄養改善をふくむ公衆衛生事業の成果・・・1980年代の予防接種拡大作戦などなど、20世紀は人類が感染症に対して劇的勝利を収めたような時代でした。

地球上から天然痘という病気が根絶されたとWHOが宣言したのは1980年、予防接種を含む母子保健の向上は多数国の乳幼児死亡率を急激に低下させました。「感染症の時代は終わった」とさえ云われ、多くの感染症は対処可能になりました。

エボラ熱発生地(BBC News参照)

が、21世紀に入り感染症の様相は変わりました。天然痘撲滅後に新たに出現してきた感染症を新興感染症といいます。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とその感染終末期のAIDSほか、次々と新たな微生物が見つかっています。鳥インフルエンザウイルスの人感染、重症急性呼吸器症候群(SARS・・・サーズと読みます)はSARS関連ウイルス初の人獣共通感染症でした。2002年11月の中国での最初の感染者から2004年にかけての世界的流行では総数8,422人が感染、783人が亡くなり(致死率約10%)ましたが、2004年以降の新規感染者はいません。完全に終わった、今のところは、です。アジアパームシベットというジャコウネコの一種を介し洞窟に住むキクガシラコウモリがウイルスを媒介したことが突き止められています。2019年、このウイルスの仲間SARS-CoV-2が世界的コロナ大流行、パンデミックを起こしました。似たようなウイルスには、中東で広がったMERS(中東呼吸器症候群)があります。その他、呼吸器系ウイルス以外には、今、コンゴ民主共和国で大流行が起こっているエボラウイルス、世界にジワジワと広がっているM-poxウイルスがあります。ウイルスたちは手を変え品を変え生き延びを図っている・・・種の保存でしょうか。

人間の側では、栄養や公衆衛生状態の改善、知識や対策が増え予防接種も行き渡ってきました。

では、なぜ、感染症が再度広がりやすくなってきたのでしょうか?
上記のGPMB報告書は感染症の拡大に関して、
① 地球規模の人や物の移動、
②生態系の破壊、
③世界の分断  が関与するとしています。

かつてのマゼランやコロンブス時代の大陸間移動は帆船でした。風を頼りに数か月以上もかかりました。現在の私たちは十数時間で地球上を移動します。感染者が病原体をもったまま発症以前に国から国に移動できます。移動の間、どれほどの人々と接するか。私たちの今回のフィンランド、デンマーク研修も羽田―ヘルシンキ間が12時間、以後、たくさんの人々とめぐり会っています。人と物が高速移動できることは経済を支える一方、私たちが意識せずに運んでいる病原体も高速移動しているのです。

そして開拓という名の自然破壊。原野を切り拓く。森林を伐採し街を造る。道路が通り自動車が走り回る。便利の裏で地球温暖化、気候変動が進行している・・・開発は、また、人間が野生動物の領域を侵すことでもあります。野生の生物は人間には未知のウイルスを持っていることが多く、それらと人間の接触も増えます。エボラ、ニパ、ハンタウイルス、鳥インフルエンザなどなどはほぼ動物由来とされています。自然との距離は未知の感染症病原体との距離であったかもしれません。

BBC Newsより

前記GPMB報告が最も深刻としているのは世界の分断!
報告書には「世界はCOVID-19の経験にもかかわらず、以前より協調が困難になっている・・・国家間対立、ワクチン・ナショナリズム(自国民だけというやり方)、科学への不信、ソーシャルメディア/SNSによる分断や陰暴論も指摘しています。COVID-19発生時のワクチン供給の不平等・・・どの国も自国民を優性しなければならない・・・仕方ないのですが、現在進行しつつあるMpoxは低所得国での流行が深刻、感染が広がっていないけど予防手段が余っている国からの支援が欲しい・・・コロナであれほどいったのに!という感もあります。科学は進歩していますが、その恩恵が平等に行き渡らない・・・

最後に、世界が不安定になっていることとパンデミック疲れとも呼ばれる事態です。現在多数国の感染症対策予算が縮小傾向だそうですが、病原体は人間の都合とは関係なくひたすら拡大したいのです・・・

世界感染症危機準備モニタリング委員会報告書(GPMB HPより)

ため息が出る状況ですが、私は、どんな感染症大流行も地域の叡智、人の知恵と協力が重要だと考えています。コロナパンデミックの際、受診できず自宅で不安を抱えた人々がいました。最終的には在宅/訪問看護師たちが動員されましたが、ことが起こる前、すなわち平時から顔が見える関係ができていたら・・・と思いました。

災害時しかり、感染症大流行時しかり、人々の健康と不安に対処できるのは、医療施設だけではない、特に弱者を支えるのは地域の看護力と私は思っています。