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子どもの死亡率を下げるための闘い

5月が終わります。
さわやかな新緑の季節、毎年4月末から5月5日の子どもの日前後までの連休は、年度初めに新入生、新採用者などなど「新」がつく人生を始めた人々がほっと一息つける時期でもあります。そして、毎年の5日の子どもの日には世界の子どもの状況がメディアにでます。今年、目に留まった二つについて、です。

ひとつは、わが国の子どもの数です。総務省の発表によると、2026年4月1日現在、わが国の15歳未満の人口は前年より35万人減少して1,329万人、45年連続で子どもの数は減少し、比較可能な1950年以来最低、総人口に占める割合は10.8%で前年比0.3ポイント低下しています。そして、です。3歳ごとに区切ると、12~14歳の309万人に対し、0~2歳は213万人と年齢が低いほど少ないとありました。(5月5日日経新聞朝刊)超高齢社会の問題は現在形ですが、少子化は将来の日本を左右する重要事項でもあります。なぜ、子どもが生まれないのかは、つまり、なぜ、女性が子どもを産まないのか、ですが、どうすれば良いのか・・・

もう一つは、世界の子どもの死についてです。毎年5月、WHO(世界保健機関)が世界の子どもの死(Child mortality)について発表しますが、(Child mortality (under 5 years)WHO)ここでは「貧困、病気、飢餓、気候変動、戦争、存亡の危機そして不平等など世界には多数の深刻な問題がある。これらの問題に対し、世界中の研究者が真摯に取り組んでいるお陰で、私たちは何とか対処出来ている。が、そのためには、既存の研究やデータを十分活用できねばならい。利用しにくいデータや経費を要したり専門的すぎるものでも誰もが利用し、理解できるよう研究やデータを公開する」とあります。
Our World in Dataの報告を見てみます。

「子ども過去最少 1329万人」(2026年5月5日の日経新聞朝刊)

さて、基礎的な保健医療指数には平均寿命、出生数、死亡率、妊産婦死亡とともに乳児死亡率が広く用いられてきました。乳児死亡率(Infant Mortality Rat IMR)とは1歳の誕生日までに赤ん坊がどれくらい死ぬか、例えば100人生まれて15人亡くなるとか3人とか・・・を示します。乳児死亡の原因は赤ん坊側の先天異常、出生時のトラブル、未熟性などとお母さん側の妊娠中の栄養や健康状態、出産時医療体制と誕生後のケア体制が関与します。各国が発展し母性や乳幼児ケアが整うと子ども死亡のほとんどが生後1年以内に集中するため、IMRが子どもとそのケア体制を示す指標となりますが、いわゆる開発途上国では1歳以後も下痢、栄養障害、肺炎や地域にまん延する感染症、マラリアで亡くなることが多く1歳までの指標に加え、1〜4歳の間の死亡実態も見なければならないと気づいたことから、1980年代にUNICEFが中心となって5歳未満児自防率(Under 5 Mortality Rate U5MR)が作られました。その後、U5MRは母性と乳幼児をめぐるある国の保健・衛生・社会環境を総合的に示すものとして活用されています。すなわちU5MRは単に医療技術レベルを示すだけでなく、母親の栄養状態や教育水準、予防接種普及率、安全な飲料水や基礎的衛生設備(トイレなど)の有無、さらに家族の所得や社会全体の福祉の普及状態をも含む指標として、ある国が子どもにとってどれほど生きやすいか、逆に生きにくいかを示す最高総合指標なのです。

1980年代、当時の世界の子どもの年間死亡数は1,000万人をはるかに上回っていましたので「5歳の誕生日を迎えるという奇跡!」みたいな言い方すらありました。現在の年間の5歳未満児の死亡数は500万人弱まで減少しています。個々の子どもの命を守る戦いはワクチン関係や栄養改善、安全な飲み水など公衆衛生的分野と安全な出産への医療保健的投資などなど、単に医師や看護師といった医療専門職だけでなく、膨大な範囲の膨大な数の関係者の努力によります。ただ、現在でも世界的では年間約500万の子どもが5歳の誕生日までに亡くなっているのです。この数字は、1日約13,698人、1時間に570人、1分に9.5人、6.3秒に1人の子どもが亡くなっていることを示します。

Five million children die every year — what do they die from?(Our World in Dataより)

では、子どもが亡くなる原因は何か、です。Our World in Dataの記事によれば、それは大きく二つに分かれています。一つは感染症で、肺炎、下痢、マラリア、麻疹など、他の一つは、まだ、出生時の問題です。早産、仮死、分娩時の合併症などなど、昔と変わっていません。これら二つだけで全体の8割以上なのです。そして栄養不良は単独死因以外に多数感染症死の背景にもあり、同記事は5歳未満児死亡の約半数に「母子の栄養不良」が関連すると指摘しています。結論的に申しますと、世界の子どもたちは特別な難病で亡くなっているのではなく、ごく普通の安全なお産ができないこと、母乳や赤ん坊に適切な栄養が足りないこと、清潔な水がないこと、ワクチンが届かないこと、肺炎治療の抗菌薬が利用できないこと、診療所まで遠すぎることなどなど、わが国では、問題にならないことで亡くなっているのです。

では、どうするか・・・
子どもたちを無為な死から救うことは実は「貧困」と「格差」との戦です。すなわち、子どもの死亡率はある国の医療レベルだけではなく、社会の格差を映す鏡でもあります。

Five million children die every year — what do they die from? What did children under 5 die from in 2023?(Our World in Dataより)

例えば、サハラ以南のアフリカの5歳未満の子どもが死ぬ危険性はわが国や西欧の十数倍です。紛争地ではワクチンが届かない、予防接種が順調に実践できない、安全な飲み水がない、そして医師や看護師も避難したり殺されていない、加えて気候変動の追い打ち、洪水や干ばつによって順調な農作業が滞り収穫は激減・・・結果として栄養障害から感染症が広がりやすいのです。

あまり言いたくないのは、世界の援助削減、援助疲れです。アメリカのWHO脱退や各国の援助縮小。その結果、「防げる子どもの死」が再び増えるのではないかと国連やUNICEFは警告しています。さらに1発何億円もの爆弾を使う戦争、貧困、教育や女性の地位対策、水や食料、衛生、栄養をめぐる対策・・・政治問題・・・人類は長い歴史をかけて、何を学んできたのでしょうか。

干ばつ飢餓難民の少年(スーダン 1990年代末)

ただ、希望はあります。子どもの命を最大限に救ってきたのは高度医療よりは、安全な出産介助や母乳育児、経口補水塩療法(Oral Rehydration Solution ORS. 食塩とブドウ糖を混合し適切な濃度で水に溶かした溶液で脱水治療や予防に用いる)、予防接種、栄養改善、清潔な水、抗菌剤など、どちらかと云えば地味で確実な対策でした。特にワクチン効果は大きく、麻疹、破傷風、肺炎球菌などの死亡は劇的に減少しています。つまり高度医療ではなくプライマリー・ヘルスケア(PHC)の範疇なのです。ですから地域に根差した保健活動、家庭訪問、母子保健、住民教育が子どもたちの命を守るのです。

笹川保健財団では、在宅を通じて、地域住民の皆さまにPHCの考えをご理解いただく努力をしています。わが国では、子どもの死亡率は超々低いのですが、少子化進行によって生じる別の問題も生まれかねません。つまり子ども同士の身体的精神的交流をも経験して「すべての子どもが安心して逞しく育つ社会」をどう維持するか・・・また、異なる問題が生まれています。

アフガン難民への栄養補給の様子(パキスタン 1990年頃)

過疎地では産科医がいなくなり、妊娠中の医療的ケアが難しい地域も増えています。しかし、問題は病院の存在だけではありません。地域住民が互いに連携し、地域の文化を創り、守り、継続する・・・それに関与するPHC活動を行う看護師、在宅ケアを担う看護師をふくめ、地域の人々と生活を護るPHC看護です。子どもの死亡率を下げる闘いとは「命を救う医療」だけでなく、「命が失われにくい社会」を作る戦いでもあるでしょう。