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健康を護る

健康とは「病気がないこと」ではない・・・というのは、1948年に設立された世界保健機関 WHOの憲章の前書きにあります。私ども笹川保健財団では、国内事業のひとつとして地域とそこで暮らす人々の健康を看護力によって護るための活動を繰り広げています。そのひとつ、目玉事業の「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業が今年もはじまりました。これはいずれ、詳しく報告します。

「健康ですか?」

そう尋ねられると、多くの人は「病気はありません」と答えるでしょう。しかし人生100年時代を迎えた今、健康の意味は変わりつつあります・・・というより変わったことに気付いていないことが多いです。
健康とは単に病気がないことではありません。穏やかに日々を過ごし、住み慣れたところで親しい人々とつながり、毎日、安心できること、基本的な衣食住が充足していること、周辺の環境が安定していること・・・そのような「暮らし」も健康の重要要素です。

さて、先般、WHOの“State of the World’s Nursing 2025”の日本語版「State of the World’s Nursing 2025(世界の看護 2025)」の完成を期して、世界と日本の看護の現状、課題、そして未来を考えることを目的としたシンポジウムが開催されました。私ども笹川保健財団も、日本語仮訳プロジェクトの一員として参画させて頂き、このシンポにもカルフォルニアに研修中のSasakawa看護フェローが発表の機会を頂きました。
少し・・・いえ、大いに私の独断が入っているかもしれませんが、要約させて頂きますと・・・
まず、世界の看護です。その現状は、①世界では依然として看護職不足が続いている。 ②特に低・中所得国の人材不足や偏在が深刻である。③高齢化、慢性疾患の増加、感染症、災害、気候変動など時々刻々変化する事象へのより迅速な対応が求められている・・・が、うまくいっていない。➃AIや遠隔医療といった新技術は今後のますます重要課題となってくる。

「世界の看護 2025」(国立健康危機管理研究機構 HPより)
“State of the World’s Nursing 2025”(WHO HPより)

さらに日本の看護の特徴と課題に関しては、看護師の皆さまは実感されていることかもしれませんが、看護師の数そのものは割合多いのに専門的に就労していない人が多く、①看護師の就職状況に地域偏在があること、そして②喫緊のニーズは高齢化対応である・・・など。いわゆる③2040年に向けての医療の需要は医療施設すなわち病院から地域・在宅へ移行すること、➃その対策は多職種連携の強化と⑤地域包括ケアの確実な実践と ⑥在宅ケアを担う人材育成の重要性でしょうか。

現状に手いっぱい!と云ってはいけません。未来志向の考えが必要ですが、それは①医療施設病院だけでなく、地域や在宅を支える地域の健康管理者すなわちリーダーとしての役割が大きくなるであろうことです。ここでは、私どもが常々申しているプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)の推進が中心になるかと思います。 そしてそれを基盤に②健康格差や社会的課題に対応すること・・・できることでしょうか、さらに③国際保健というか今や国際をこえてプラネタリー(地球規模の)健康への対応も看護師の役割に入っています。さらに➃わが国では自然災害ですが、世界的には紛争!!緊急事態への支援やその対策などなどのグローバル活動!そしてどの分野でも必要な⑤デジタル技術を活用した新しいケア・・・看護の創出でしょうか。

シンポジウム発表者のSasakawa看護フェロー 今井優佳さん(アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学中)

シンポジウムを通じて強く感じたことは、「看護は病気を治療する医療の補助職ではなく、人々の暮らしと健康を支える社会基盤である」という認識です。しかし、まだ世間一般では、看護師は病院で医師と一緒に病人を治療したり面倒を看たりしている人!との認識ですが、今後の看護師の役割は、病院での役割とともに、地域・在宅・予防・健康づくりに責任をもつ、より大きな社会的役割とリーダーシップを期待したいものです。

少し具体的なことを申しますと、高齢者が要介護状態になる原因は病気よりも孤立し地域社会や人々との交流が無くなることの方が多く、厄介です。最近では「社会的フレイル」という言葉も使われますが、人との交流がなく家庭や地域での役割を失い、外出しなくなることこそが心身機能をむしばむのです。高齢者に限りませんが、健康であるためには、よく食べ、よく動き、よく眠るという生理学的な基本だけでなく、人とよく話し、地域活動に参加し、どなたかのお役に立つという社会的疎通性が欠かせません。

日本は、1961年の国民皆保険の導入以来、実際に個人が払うのは比較的安い経費で、すぐれた医療を受けることができたために、病院=治療施設中心の健康維持体制が続いていました。そして人類が初めて経験する超高齢社会に突入しました。お年寄りが悪いのではないのですが、今や病院だけで私たちの健康を守ることができなくなっています。

高齢者はすべからく健康状態は低下しており、そしてそれは進行します。そして私たち生物は、どんなに頑張っても100%死にます。死を免れる人はいません。そのことを前提に、穏やかな老齢期間をすごすためには、病気治療の専門家よりも人間を丸ごとケアできる看護師が有用だと、私は考えています。

2014年に開始した「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業では、地域で活動する看護師を育成し、住民の暮らしに寄り添う在宅看護センターの設立を支援してきました。これまでに100名を超える看護師が研修を修了し、全国30都道府県に約140か所の在宅看護センターが開設され、200を超える事業が稼働しています。これらのセンターは単なる訪問看護師がたむろしている事業所ではありません。子どもから高齢者までの健康相談、介護予防、ACP(人生会議)、認知症支援、家族支援などを通じて、地域住民の「暮らし」を支えたいと願っています。

看護師が地域の最も身近な保健専門職として活動する、新しい地域保健の拠点なのです。

地域の文化や習慣、長老のご経験、住民の皆さまのお知恵を頂いて、医師やリハビリテーション専門家、薬剤師、栄養士、介護士そして行政の仕組みやボランティアの力も頂いて、それぞれの地域の特徴ある健康の仕組みを作りたい・・・昔風の向こう三軒両隣です。
この分野の先達秋山正子先生の「まちの保健室」体制の全国展開も目指したい・・・地域こそが健康の源泉である・・・のです。

私は、あつかましいことですが、もう一つ加えたい想いがあります。それはいくつになっても「希望=明るく見える未来のある暮らし」があることです。人は、必ず死ぬのです。が、病気があっても、自分の想うような生き方暮らし方、人とつながり住んでいる地域に居場所があること・・・そんな地域社会を看護師がつくれるように・・・