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世界の気候危機と私たちの健康

アッツイですねぇ・・・・

世界の気候は、もはや変化ではなく危機と呼ぶべき段階ですね。連日の酷暑で実感されている方も多いでしょう。世界気象機関(World Meteorological Organization. WMO. 1873年創立の政府間組織だった国際気象機関が改組され1951年国連専門機関に。気象、気候、水に関する科学情報を提供。本部ジュネーブ)の『世界の気候の現状2025』は、2015年から2025年までが観測史上もっとも暑い11年間だったとしています。去年2025年の世界平均気温は産業革命前より約1.43℃高く、観測史上2番目または3番目の暑さだそうです。そうでしょう!去年も暑かった・・・海は過去20年間、人類が1年間に使うエネルギーの約18倍に相当する熱を毎年吸収し続けています。

世界気象機関「世界の気候の現状2025」2026年3月17日
https://wmo.int/media/announcement/state-of-global-climate-2025-report

その結果、氷河は縮小し、海面は上昇し、熱波、洪水、干ばつ、山火事、巨大台風が私たちの暮らしを直撃しているのです。誰の責任?気候危機は、ホッキョクグマや南極だけの問題ではありません。私たち一人ひとりの健康に直結する問題です。猛暑は熱中症だけでなく、心臓病や腎臓病のある人や高齢者の健康を脅かしています。さらにしばしば発生する洪水後の感染症、蚊・ダニが媒介する感染症の発生、さらに食料不足や栄養不良、山火事の発生、そのための煙による呼吸器疾患も増えます。災害による不安、抑うつ、孤立は、身体的・精神的・社会的健康をも損なっています。

ウィキペディア「過去の気温変化」(2026年7月27日閲覧)から表を引用して作成https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%8E%E5%8E%BB%E3%81%AE%E6%B0%97%E6%B8%A9%E5%A4%89%E5%8C%96#

WHO(世界保健機関)によると、現在、世界人口の約44%に当たる36億人が、気候変動の影響を受けやすい地域に暮らしているとしています。さらに2030年以降には栄養不良、マラリア、下痢、熱ストレスによって、年間約25万人の過剰死亡が生じるとも推計しています(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/climate-change-and-health)。

気候問題についての興味深い論文「198か国の気候変動適応政策における健康の統合(https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S2542-5196%2826%2900039-2)」が、2026年5月の『The Lancet Planetary Health』に掲載されました。

198か国とEUの政策を分析した結果、対象国の88%は気候変動による健康への影響に言及はしていましたが、具体的な取り組みは十分ではないのです。多くの国が、女性、子ども、高齢者、障害者、低所得者は気候問題の影響を受けやすいと認識していますが、政策づくりにこれら当事者が参画している国はたった12%、健康分野の気候対策に十分な資金計画を示した国は6か国にすぎません。

感染症、水、食料問題は割合よく扱われていますが、精神保健、暴力、外傷、アレルギー、性と生殖に関する健康は不十分で約半数の国の目標や評価の仕組みも不十分でした。「気候変動は健康に悪い」と政策文書に書くだけで命は守れません。誰が、どこで、何を行い、いくら予算を使い、成果をどう測るのか。そこまで定めて、初めて政策になります。

ここで重要なのはプライマリ・ヘルスケア(PHC)だと申したい。PHCには三つの柱があります。第一は予防から治療、リハビリテーション、緩和ケアまでを切れ目なく提供する「包括的保健医療サービス」、第二は、水、食料、住居、教育、交通、エネルギー、労働、貧困など、健康を左右する社会的・環境的要因に多分野が連携すること、第三は、住民を保護されるだけの存在とせず、政策決定と実行に参加する主体として支える「個人・家族・地域社会のエンパワーメント」です。

今回の198か国の分析からは、とくに第二と第三の柱が弱いです。行政だけが計画を作り、完成した文書を住民に知らせるだけ・・・それでは地域の実情に合った対策は出来ません。PHCによる気候対策は、国際会議の宣言だけでなく、私たちが暮らす地域から始める必要があります。

何でもお上にしてもらう、して欲しい意識にどっぷり浸っていた私たちにはちょっとではなく、ものすごく難しいことです。が、私たちの健康と住む地域は、まず、自分たちがまもらねば誰もまもってくれません。ですから、市町村単位で独居高齢者、慢性疾患のある人、妊産婦、乳幼児、障害者、生活困窮者など、気候災害の影響を受けやすい人を把握しなければなりません。が、「要支援者名簿」作りが目的ではありません。停電時の在宅酸素療法や人工呼吸器の維持、安否確認、避難所への移動、本人、家族、近隣住民、保健医療関係者が平時から共に考えておかなければなりません。

気象情報と保健医療情報の連携把握も重要です。猛暑、豪雨、洪水、蚊の発生、感染症、救急搬送などの情報を地域が共有し、危険発生前に連絡、訪問、避難支援体制をとる、早期警戒は単に予報ではなく、「それを受けて誰が何をするか」まで決めることです。

医療、看護、介護だけでなく、防災、住宅、交通、水道、農業、学校、色々な民間団体も協働する必要があります。節約好きの高齢者に「冷房を使いましょう」と云っても、電気代を払えなければ実行できない・・・健康問題の後ろの状況を知ること、対策を立てることもPHC・・自分の問題は自分で考えることです。ここで重要なプレイヤーは在宅看護師です。住民の傍にいる在宅看護師は、入院では見えにくい住民の暮らしから、室温や飲水量、服薬、栄養、家族や交友関係、時には経済状態や社会的孤立なども把握できます。

出典:総務省消防庁ホームページ 熱中症情報「熱中症による救急搬送人員(令和8年7月13日~19日速報値)」https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html

猛暑時の訪問や電話、脱水の早期発見、災害時の医療機器や薬剤の確保、感染症の兆候の発見、避難後の精神的支援―在宅看護師は、気候変動が健康に及ぼす影響を最前線で捉えることができます。そして個々人の状況把握から地域の政策にも反映させられることもあるはずです。

そうはいっても、暑さや災害適応だけが大事というのではありません。根本は、温室効果ガスの排出を減らす対策こそ大事、同時に気候変動の原因対策を進めなければなりません。公共交通や徒歩、自転車を利用しやすい街は大気汚染を減らし、身体活動を増やします。再生可能エネルギーは、気候を守るだけでなく、呼吸器・循環器疾患の予防にもつながり、健康的で持続可能な食生活も生活習慣病を減らすでしょう。気候と健康の双方に利益があるのですが、言うは易く行うは難し・・ですね。

アメリカとイスラエルのイラク攻撃に端を発した中東の危機は、世界中のナフサ(原油を蒸留分離して得られる物質のうち、沸点が30~230℃の炭化水素混合物、日常生活品、医用消耗品の多くの原料)不足を引き起こしています。医療保健分野でも、エネルギー消費はもとより、薬品や医療消耗品の調達・使用などを見直す機運も出ています。何でもイッパイあるからといっても贅沢三昧医療が地球環境を悪化させてはなりません。

忘れてならないことは、気候変動は、その原因をほとんど作っていない人々、低所得国、小島嶼国、子ども、高齢者、貧困層、移民・避難民ほど大きな影響を受けています。したがって気候対策は、気温を何度下げればよいといった課題だけではなく、誰の健康が優先されるべきか、誰の意見が重要かとともに、誰が経費を負担するのかでもあり、そしてそれは公正な健康を維持するための基本問題です。「誰かが、誰かのために、何かをする」でもなく、「私のために、誰かが何かをしてくれる」でもありません。誰のためにではなく、私のために、意見も申して、計画作成に関与する・・・病気になって治療するではなく、日々の暮らしと環境から病気を防ぐ過程に私も関与する、のです。国の壮大な計画だけではなく、私の住んでいるここで具体的に行動する――実は、それがPHCです。

気候危機対策とは、将来の地球を救うことではなく、今日、明日の私と私の隣人の健康と命を守ることなのです。