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感染症との闘いに何が必要か?―アメリカの麻疹とコンゴ民主共和国のエボラ

気になる二つの感染症の記事を読みました。

一つはBBCが伝える、コンゴ民主共和国で猛威を振るうエボラ(“What is Ebola and why is stopping the latest outbreak so difficult?” Aug. 25, 2026 BBC)ですが、これは既に新たな感染勃発から6か月が経っています。もう一つはアメリカ疾病予防管理センターCDCが報告するアメリカの麻疹(“Measles Cases and Outbreaks” Aug. 21, 2026 CDC)です。

アフリカのエボラとアメリカの麻疹。一見、まったく違う話ですが、並べて眺めてみると、感染症との果てしない闘いについて考えさせられます。

まずアメリカの麻疹、CDCによれば、2026年8月20日までに2026年のアメリカで確認された麻疹患者が2,777人に上っているということ、すでに大変多いとされた昨年2025年の2,289人を上回っています。36の地域でのアウトブレイク(限られた地域や特定集団、学校などで通常予測される数以上の感染症が急激に発生し広がること)が発生しています。しかも発病者の94%・・・ほとんどがどれかの地域内なのです。

麻疹は、子どもではありふれた感染症でした。「でした」と過去形で書くのは、確かに今でも、感染しやすい病気ですが、よく知られていますし、何よりワクチン・・極めて有効なワクチンがあります。そしてアメリカでは、2000年に国内で持続する麻疹伝播は「排除」されたとも宣言されています。それなのに、四半世紀を経て、なぜ、麻疹がこれほど大きく戻ってきたのか、と思います。

アメリカ・ペンシルベニア州の麻疹 2026年度年齢別・発生月別(https://www.pa.gov/agencies/health/diseases-conditions/infectious-disease/measles

一方、アフリカでは別の感染症です。

コンゴ民主共和国(Democratic Republic of Congo, 以下DRC)がその昔の名前ザイール共和国から現在の国名に変えた時期、1997年頃にWHO緊急人道援助部勤務していたこともあって、毎月、この国に参りました。エボラ出血熱は1976年に現在の南スーダンのヌザラという町とDRCのヤンブクという町で同時に発生しました。そのヤンブクの傍のエボラ川から名前が取られています。この感染症は致死率(ある病気の患者の中で亡くなるなる人の割合。全人口中の死者の数である死亡率とは違います。)が異様に高く、滅多に発生しませんでしたが、新たに出現したこの感染症の致死率の高さ、80%とも90%(100人感染したら90人が亡くなる!)ともされたころは恐怖の的でもありました。少しずつ研究が進み、その頃のエボラに対するワクチンの使用もある程度進んでいますが、今回のエボラは、その古くからのザイール型とよばれるウイルスとは異種のブンディブギョ型という稀なウイルス型だそうです。これまでの大きなエボラ流行とはウイルスの型が異なるため、当初は既存の検査で捉えられず、他のマラリアや腸チフスと間違えられたそうですし、ワクチンもまだ開発・臨床試験の途上というより、実用には程遠いのです。

コンゴ民主共和国とウガンダのエボラ発生地(“What is Ebola and why is stopping the latest outbreak so difficult?” Aug. 25, 2026 BBC

イギリスの公共放送局BBCによれば、8月23日までに確認された患者は5,514人、死亡者は2,642人(致死率48%、感染し発病した人の半分が亡くなっている)。DRCがこれまで経験した17回のエボラ流行の中でも最も死者が多く、感染拡大の速度も記録的とされています。(上記同記事参照

悪いことに、流行の中心である東部は紛争地域です。約25万人の本来の居住地を追われた人々が国境を越えて、近隣のタンザニアやウガンダにも避難移動します。政府の支配地域と反政府勢力の支配地域があり、医療・公衆衛生活動の連携は平時から難しい・・・その状況は、90年代末の状況から変わっていないように思います。

今回アウトブレイクの最初に確認された患者は看護師でした。4月24日に症状を呈し、ほどなく亡くなりました。実際の感染の初発は2月頃とされており、前述のようにマラリアや腸チフスと診断されていた可能性があるといいます。往時も今も、現地では、亡くなった人を悼むために、遺体を抱きかかえたりする葬送習慣がありますが、今回もそれが感染拡大の一因とされています。

エボラはまだワクチンがありません。が、麻疹はワクチンがあるのに流行しています。たまたま、現在問題になっている二つを並べると感染症制御とはどういうことなのかを改めて考えさせられます。

エボラは、まだ、科学が十分な武器となりえていません。貧困に伴う街のインフラや教育の不備、紛争に伴う避難、そして古来の習慣や風習、なによりも医療レベルの不備が重なります。ところが麻疹はすでに強力な武器を持っているのに、その武器を社会全体で適切に使わないと感染症が戻ってくるのです。つまり、純粋な医学的技術の進歩と街の中での実践が重要な公衆衛生の効果は同じではないのです。ワクチンを開発するのは科学、しかし、それを必要な人に必要な時にきちんと届けるのは公衆、つまり社会に生きる私たちなのです。同じく、感染者を診断するのは医学の専門家ですが、アレ!なんか変?と感染者を早く見つけたり、自分が感染したらしい時にはウロウロせずに自己隔離したり、または接触した者を追跡したりという人々が自主的にすることと行政の役割への信頼も必要です。そして、行政がしっかりしていること、です。

COVID-19パンデミックからそれほど年月は経っていません。あの経験は、人類がワクチン、診断、治療法だけでなく、情報と信頼、地域社会と国境を越えた協力の重要性を学んだはずでした。大事なことは私たちの意識です。感染症から社会をまもるには、「私は大丈夫」ではなく、赤ちゃんやお年寄りなど体力=免疫力の弱者・・・自分以外の人をもまもるという共同体的意識が重用です。

現在のDRCのエボラやアメリカの麻疹から、感染症との闘いに終着点はないということが分かります・・・