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Chair's Blog 会長ブログ ネコの目

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国の形 3 日本の神話と人類学

チンパンジーと人間の遺伝子の98%は共通とされています。私は、あいにく、チンパンジーの友だちがいないので、彼我の違いや同一性を正確に申せませんが、一時、チンパンジーの「あいちゃん」の賢さを興味深く読んだこともありました。

そのチンパンジー属とわれらヒト属が共通祖先から分岐したのは200~1,000万年前で、そのヒト属では、現在の人類、私たちの祖先ホモ・サピエンス(賢いヒト)が今は絶滅してしまったホモ・エレクトス(直立するヒト)と分岐したのは20~180万年前だそうです。さらに、そのサピエンス族にあって、私たちに最も近いヒトでもあったホモ・サピエンス・ネアンデルタレンシス(ネアンデルタール人)は3万年前に滅亡しており、結局、地球上にはびこっているヒト属は、私たちだけ、正確にはホモ・サピエンス・サピエンス、つまり賢いかしこいヒトなのですが、ホントに賢いかしこい・・・のでしょうか?

何万年も前の人類や動物の遺伝子を解析できるようになったのは、考古学や遺跡発掘で見つかる化石からの超々微量資料からDNA判定が可能になったからですが、それは、PCR(Polymerase Chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)法という遺伝情報を持っているDNAの一部を切り取って増殖させる方法が開発されたからです。この方法の原理は、1993年のノーベル化学賞を受けたキャリー・マリスが発想したのですが、それが専門誌に掲載されるまでに、例えば先天性の血液疾患である鎌形赤血球症の診断などで実地使用されていたそうですから、とてもニーズの高い方法だったと申せます。その後、PCRは、沢山の病気診断に活用されていますが、もう一つ、これによって発展したのが、ジェノグラフィックプロジェクトとよばれるヒトの遺伝子情報を調べ、人類がどこで発祥し、どのように全世界へ拡散したか特定し、マップ化する学問、進化人類学です。これはスウェーデンの人類学者スヴァンテ・ぺーボに負うところが大ですが、雑滅したネアンデルタール人の遺伝子を解明したのもペーボです。そして、さらに最近、ドイツの高名なマックス・プランク研究所の研究者たちは、大掛かりな英国人の遺伝子調査などから、現生人類はネアンデルタール人の遺伝子を約2%程度もっていると証明
しました。また、絶滅したものの、私たちホモ・サピエンス・サピエンスとは最も近いヒト属とされるデ二ソワ人(ロシア、中国、モンゴル国境近くに4万年前に生存)の化石からのDNA分析を基に、少女の顔が描かれたり、現在の人類の病気との関係が解析されたり と、考古学と進化人類学による科学的エビデンスが、神話そして歴史の接点を埋めて行くような気がします。でも、何もかもがあからさまになりよりは、ぼんやりしている方が夢やロマンが膨らみますが。

前置きが長くなりました。先週の続きですが、アマテラスがこもられた天岩戸<アメノイワド>があるとされる高千穂峡・・・岩戸川の両岸に、天岩戸神社西本宮と東本宮があります。いずれもアマテラスがお籠りになった天岩戸をご神体としていますが、その洞窟へは、神社のご神職を含め、何人も近づけないのです。私は、西本宮の神職の案内で神社横の遥拝所から、川向うのうっそうとした繁みのあたりを凝視しましたが・・・もちろん、岩戸は見えませんでしたが。そして500メートルばかりの川原には、アマテラスが岩戸にお隠れになった後、真っ暗な世の中を如何するか、八百万<ヤオヨロズ>の神々が集まり相談されたところと云われる広い洞窟、天安河原<アメノヤスガワラ>があります。太陽を招く力があるとされる鶏・・・長鳴鳥(ながなきとり)を鳴かせましたがアマテラスのお出ましはなく、次なる手段が、踊りの名手天鈿女命<アメノウズメノミコト>の舞でした。この時、手にされた招霊<オガタマ>の木の枝は神社で拝見する巫女の舞に持たれる鈴の形をした実がなっています。その木(の子孫?)は、現在も西本宮の境内にあります。で、鈿女命の踊りにあわせて、他の神々が騒がれた・・・で、外のにぎわいが気になられたアマテラスが、少し岩戸を開けられた。すかさず、「あなたよりも美しい神がいます!」とアマテラスに迫り、鏡を見せた神様がおいでだというのです。どんな鏡?アマテラスが、自分より美しい神がいると訝ったなどと思召すな!

意外や意外、アマテラスも少し見てみたいと、さらに岩戸を開けられた・・・と、思兼神<オモカネノカミ>がアマテラスのお手を取って岩戸の外へいざないます。同時に、力持ちの手力男命<タジカラオノミコト>が岩の扉を引き取って、頭上高々と掲げた後、エエッィ、ヤッとばかりに扉を投げ飛ばしたところ、それは信州戸隠にまで飛んでいったのです。そして、アマテラスは現在の東本宮の地に落ち着かれた・・・と云う次第。

日本という国が生まれる頃、その始めにあったかもしれない神々の、意外と人間臭い行為、関わり・・・一体、これらは何を物語っているのでしょうか?

アマテラスがお隠れになって世の中が真っ暗になった・・・日食かなと思います。が、長く続いて、食べ物が収穫できなくなったとも云われていることは、あるいは大火山の大爆発が続き、天地が薄暗くなった・・・のかもしれません。

そして、この日本の国産みは、地球の歴史のいつ頃でしょうか?ホモサピエンス・ネアンデルタレンシスの時代ではなく、デ二ソワ人の時代でもなく・・・

世界各地に残っている神話、考古学や人類学。前者は夢を膨らませ、それを語れます。が、後者は科学で、ちょっと味気ない・・・でも、その時代から、この国を作ってきたわれらが祖先はいるのです。そして、私たちは、今受け継いでいる歴史を次の世代に、少しでもより良い状態にして伝えねばなりませんね。