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看護師が社会を変える-1

「看護師が社会を変える!!など、大層な・・・」と思し召しの方が大半、あるいは、「何を血迷ったことをほざいているのか?」と訝しく思われる方々がほとんど、さらには「何のこっちゃ???」と歯牙にもかけて下さらない方が大方かとは思いますが、ことは差し迫っています。

ご承知のことかと思いますが、先般、再編必要として424の公的病院名が発表されました。高齢者が増えて医療が必要なのに、なぜ病院を減らそうとしているのか?と思われるでしょうか。

1961年、わが国は国民皆保険制度を導入しました。

1961年と云えば、壮絶な沖縄地上戦、ヒロシマとナガサキへの原爆投下で、わが国の敗北が避けられなくなり、やっと終結した第二次世界大戦からたった16年です。GHQ(連合国軍最高司令官総司令部・・・マッカーサー司令官)支配が終わり、わが国が主権を回復したのは1952年、その後、朝鮮動乱(注)による特需景気によって、わが国の経済は目覚ましく発展したとはいえ、まだ、先進国仲間には入っていなかった、そんな時代に、昨今、世界が目指しているUniversal Health Coverage(国民皆保険)を達成したのです。比較的安い掛け金によって与えられる一枚の保険証が、家族全員の健康を護る・・・大げさに申せば、何時でも、誰でも、何処でも好きな医療が安い経費で受けられるという夢のような制度です。

それから40年余、わが国は、人類史上、最初の超高齢化社会に突入しています。長年、真面目に働き、引退した、健康に不都合があれば…と思っていたら、近くの病院が統廃合の対象になった・・・と落胆、お怒り、あるいは何?と、ご不審の向きもおいででしょう。なぜこんなことが必要なのでしょうか??

わが国の国家予算は2019年度、初めて100兆円をわずかに超えました。その33兆円強(約34%)が医療介護費を含む社会福祉費です。そして、今のままの医療介護福祉状態が続くならば、2040年頃にはその額が67兆円になると推定されています。年寄りが増えるんだもん、仕方がなかろうが・・・ですか?そうです、その通りです。が、国の収入は、過去数年以上、横ばい、つまり増えていないのです。100兆円の予算の内、23兆円は国債です。19年度の予算案では、国の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、18年度より改善はしていますが、2.3ポイント低下したものの予算をどれだけ借金で賄っているかを示す国際依存度は32.2%、予算の1/3が借金と云うのは、それほど健全な状態ではありません。

自分の家のサイフで考えてみると、収入50万円で医療費が18万円・・・まぁ、しばらくならやむを得ない、我慢できるとしても、収入が51万円にしか増えないのに、医療費が35万円必要になったらどうなさいますか?今の日本は、そんな状態なのです。現在の世代だけが、良い目をしているとは申しませんが、次の世代、次の、次の世代を考えて、必要なこと、可能なことを為さねばなりません。

私たち、保健医療に身を置いているもので可能なことは何でしょうか?周囲をご覧下さい。医療施設に通うことが日常習慣になっているお年寄りがおいでではないでしょうか?安い経費で、念のための検査を受けて、必須ではないけれども、胃腸薬やシップや痒み止め軟膏をもらって帰る・・・安心のためではあるのですが、健康保険を「濫用」しているとも申せます。そのような行為が全部悪いと断罪するのではなく、そのような心配事を、もっと身近で解消できる仕組みを作れないか・・・なのです。

2019年11月23日、笹川保健財団が2014年から開始している「日本財団在宅看護センター起業家育成事業」研修を終えて、開業している仲間が30数人、初めて集まりました。ことは、それぞれの事務所の災害対策が主題でしたが、この機会に、開業後の様々な問題を話し合いました。たまたま、つい先日、看護協会出版会によって、本事業の経過と、研修後開業している仲間たちの実績のまとめなどが出版されたこともあって、北は北海道、南は鹿児島からの仲間の経験、想い、問題、今後への願望など盛り上がりました。一騎当千の在宅看護センターの経営者集団、写真をご覧ください。壮観!!でした。

健康は基本的人権の一つです。そしてその健康を維持、向上あるいは回復させるための手段を持つことも同様です。万人が、等しく健康である社会こそ、国の開発の目指すべき方向でしょう。

しかし、それがまっとうされたにせよ、私たち生物の寿命は有限です。いずれ老い、衰弱し、死を迎えます。どのように健康に生き、どのように上手に老い、穏やかに生を全うするか・・・それは、病気を治す(cureする)という医療施設での主な活動の対象ではありえません。超高齢化した社会では、衰える健康状態と折り合いを付けながら暮らさざるを得ないわれわれを、誰が、どう支えるか、地域にあって、病める人や健康水準が下がっている人々を丸ごと支える(careする)看護師の拠点が「日本財団在宅看護センター」であって欲しい、そんな願望から始まった事業です。6年目が進行している現在、研修修了者は67名、55カ所で在宅看護が繰り広げられています。

しかしながら、人々を支える・・・地域社会の人々の相談相手になるだけでは収入は得られません。適切なcareを継続するためには、看護師たちが適当な収入を得て、程よい(decentな)生活を保障されることが必要です。現状では、医師との連携において、がんや脳血管障害、その他の病気や障害をお持ちの方々の自宅での療養と生活を支えることに関与していますが、将来的には、次回お示しするように、人々が自らの健康を考えるお手伝いを目指したいと考えています。

 

 

注 朝鮮動乱:わが国では朝鮮戦争とも呼ぶ。1948年に成立した朝鮮半島南側の大韓民国(韓国)と、同半島北部の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)間の朝鮮半島の主権をめぐる紛争。最初、1950年6月25日、北朝鮮建国の祖金日成が、事実上、国境的だった北緯38度線を越え、南側に侵入したことがきっかけで始まった紛争。東ヨーロッパ同様、紛争当事者間のみならず、東西冷戦の一局面ともみなされ、韓国には西側自由主義国と国連が、北朝鮮には、東側社会主義国支援を受けた中国人民志願軍が後援したため、朝鮮半島全体が戦場化した。米軍が拠点を置いていた日本は、その戦争特需を受けて、戦後復興に弾みがついた。3年後、1953年7月27日、国連軍と中・朝連合軍が朝鮮戦争休戦協定に署名し休戦した。現在、板門店を挟んで、両側に幅2キロメートルずつの非武装中立地帯が設定されている。金正恩北朝鮮労働党委員長が、2018年4月27日には文在寅韓国大統領と、2019年6月30日にはトランプ米大統領と面談したのがこのDMZ。ただし、同一民族ながら、両国は、世界で唯一、休戦状態とは云え、未だに交戦状態にある。