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コロナウイルスとの戦い

新型コロナウイルス感染の広がりは、留まるところがありません。

ほぼ100年前、1918年から19年、第一次世界大戦の後半に、世界に広がったスペイン風邪(も少し正確かつ医学的には1918年インフルエンザパンデミック<注>)と同等・・・それ以上にならないことを願うばかりです。

注 感染症の広がりを示す言葉には、アウトブレーク(感染症が突発的に起こること)、エピデミック(ある地域や流行の季節を超えた感染症が広がること)、エンデミック(ある地域やある季節に限り感染症が広がっていること、ただし感染症以外にもこの語を使う)そしてパンデミック(ある感染症が世界的にひろがること)がある。

100年間に、医学、微生物学、薬理学、免疫学そして公衆衛生学も検査医学も看護学も、病気に対抗する手段やその基礎となる学問は著しく進歩しました。また、何よりも私たちは、100年前に比べ改善した生活環境と栄養や食糧の補給、情報網、さらに個々人の基礎的知識も比べられないほど発展しています。なのに・・・何だか流言飛語、ウワサの類に右往左往しているような気もします。そして、その傾向は日本人だけでなく、世界の人々にも共通しているようで、不謹慎ですが、何だか人間は皆同じなのだと、ホッとする気持ちとともに、ちょっと情けない思いもあります。

さて、スペインには大変迷惑な名称ですが、通称スペイン風邪を惹き起こしたインフルエンザウイルスは増殖力(ウイルスが増える力)も感染力(ほかの個体に移る力)も大きかったので、人類初経験のウイルスによる世界大流行を作ってしまいました。1918年1月から20年12月の間に、当時の世界人口の約1/4にあたる5億人が感染し、最大推計では、その10%にあたる5,000万人(多い方では1億人、少ない方では1,700万人)が亡くなっています。いずれにせよ、地球上の全人類の2.5%がたった1種の微生物によって生命を失ったのです。しかも、その後判ったことは、他のインフルエンザウイルスは、主に幼児や高齢者に蔓延しやすいのに、1918年インフルエンザのウイルスは、青年層に広がりやすかった・・・のです。つまり、多数の若者が命を失った・・・今では季節の風邪引きの原因でもあるインフルエンザウイルスですが、初期には、とても深刻な感染症だったのです。

病気の名前に地名がありますが、何故、「スペイン」だったのか・・・よく知られているところでは、第一次世界大戦時に、スペインに駐留したアメリカ軍駐屯地から広がったためとされていますが、実際には、その前に、アメリカ中部ミシガン州や南カロライナ州でも小さな流行があったので、アメリカ風邪だ!と云いたい方もおいでです。が、アメリカ軍の駐留とともにヨーロッパに渡り、当時、中立国だったため報道が自由だったスペインで広がったことから、国名が使われたとされています。実際、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、そしてわが国にも、北極圏でも死者が知られています。

ちなみに、日本では1918年中頃から始まり、当時、統治していた台湾、朝鮮半島、中国東北部、南樺太を含め、人口7,700万人の約1%にあたる74万人ほどが死亡しています。(『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ 人類とウイルスの第一次世界大戦』速水融著 藤原書店 2006)第一次世界大戦の戦死者は1,600万人、戦傷者は2,000万人、日本での第二次世界大戦末期の東京大空襲の一夜での死者が10万、広島と長崎の原爆による死者がそれぞれ14万、7万とされていますが、たった一種のH1N1と命名されたインフルエンザウイルスの殺傷力の強さには驚きます。

それから100年、今、私たちは、あらたなウイルスとの戦いのさなかにいます。1919年パンデミックでは、多数の青年層が亡くなりましたが、当時の衛生、栄養状態もさることながら、21世紀の私たちは、より科学的な知識と手段を持っているはずです。私たちのほとんどは、不潔で過密状態のスラムに住んでいるのでもなければ、何の情報も、知識もないわけではありません。

もちろん、未来永劫、私だけは、絶対にこのウイルスに感染しませんと宣言することは不可能ですし、当然、どのような体制を敷いても、ある国ある地域の住民だけが今回のパンデミックを免れることも不可能でしょう。でも、いわゆるクラスター感染を避け、出来るだけ、感染者数のピークを低く、遅くすることによって、何か病気を持っている人や抵抗力の弱い高齢者や乳幼児をまもることは可能です。ウイルスに打ち勝つのは、個々人の免疫力と共に、私たちの知識と適切な対応です。

21世紀に住む私たちは、今、世界で何が起こっているか、どんな警告が出されているかを、瞬時に知ることもできれば、どうすれば自分がウイルス感染を避けられ、また、万一、感染した際には、どうすれば他人に感染させないかも知っています。

密室での多数者の集会、無用の密集地訪問、狭い場所での不特定多数者との密接な対話をさけ、日夜、コロナウイルスと闘っている保健医療者や行政、治安関係者への感謝の念を持ち続けたいと思います。