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コロナウイルス蔓延との戦い

同じような話題ばかり・・・ですが、世界をこれほど一色に染めるものはありません。一昨日のジョンズ・ホプキンス大学コロナウイルス資料センターの発表(図)では、新型コロナは、地球上の180ヵ国/地域を席巻し、確認されている患者数は857,487人、死亡者数は42,107人に上っています。

地球上の人口の40%が自宅待機状態にあるとの報告もあります。イタリア、フランスでは教会や大型施設に多数のお棺が並んだ写真が出ています。が、回復者の数も増えています。上記資料では、178,034人が回復しています。希望を持ちましょう。そして、自らも何かの分野に関与しているはずですが、今、最も重要な保健医療分野は申すに及ばず、私たちの生活・・・いえ、生存の基礎にある食料/栄養、交通/移送、福祉/治安、情報/通信そして教育/研修さらに行政/経済/産業などなどの仕組みがどうなっているのか、チラとでも思い起こし、ご自分を含め、それらを支える人々に感謝し、そして、今、自分は何ができるのかを考えてみましょう。

ご参考になりそうなことを超コンパクトにまとめます。

まず、ウイルス。私は、年を取ってはいますが、生物の一種である人間です。私の身体は、心臓や肺、肝臓や膵臓、小腸や大腸など各種臓器からできていて、その臓器は、結局は細胞からできています。そしてそれら細胞自身も、実は、小さな生命体なのです。個々の細胞には、それ自身が代謝(人が食物を摂取消化し栄養を吸収し、エネルギーを作り消費し、排せつするといった生存のためのサイクル)を行う力あるからです。生物といっても、大は恐竜やクジラ、象のような超大物から、メダカやミジンコ、ノミ、シラミ、ダニ・・・さらに小さくなって顕微鏡(通常は光学顕微鏡=レンズを組み合し、何百、何千倍に拡大し、強い光を当てて細部を観る。限界は2,000倍程度。1㎜が2mになる)でやっと見える細菌もいます。さらに小さいものの一つがウイルス(コロナウイルスは直径100nm<ナノメートル=1㎜の1/100万>)です。この大きさになると、電子顕微鏡(100万倍レベルの拡大可能)でないと、存在は判りません。200万倍に拡大しても0.2㎜にすぎませんが、これらの顕微鏡でやっと見える大きさの生き物を微生物と云います。細菌(バクテリア)やウイルスが代表ですが、すべての細菌やウイルスが病原性をもっているわけではなく、私たちに必要な微生物もいます。あまりキレイにしすぎるのも、実は問題なのです。さて、細菌は栄養源があれば、自分自身で生き続け、再生し複製(細胞分裂)しますが、ウイルスは栄養があっても、それだけでは生き続けられず、そして再生複製は出来ません。では、何故、ヒトをふくむ生物に病気を起こすのでしょうか?

超々小さいウイルスは、長らく人間に見つけられませんでした。光学顕微鏡の原型は16世紀に始まるのに、電子顕微鏡はやっと20世紀初頭です。人間が、100万倍も拡大できる技術を得たことで、それまで存在を疑われていたが実際に観ることが出来なかったウイルスの実在が証明されました。私が医学生だった頃、母校に電子顕微鏡が設置された日のことを覚えています。今では想像できないほど巨大な装置でしたが、それを見に行くのに、まっさらな白衣を着たのですから。

ウイルスは賢い・・・のです。自分が生き延びるのに、人間や動物など、他の生物の細胞の中に潜り込んで、その中で、その間借りした細胞のパーツを使って増殖します。そして、一定の量まで増えると、間借りしている細胞の膜を破って細胞外・・・といっても、まだ、他の生物の体内に拡散し悪さをします。ウイルス自身だけでは増殖できないのに、間借りした細胞内で増えるという質<タチ>の悪いヤツなのです。微生物を含む生物の大きさは、高校時代に学んだのではないでしょうか。(図)

結核菌、赤痢菌、コレラ菌などなど、私たちの体内でも、その細菌そのものがさらけ出されている微生物には抗生剤や抗菌剤が有効ですが、麻疹<ハシカ>、肝炎、インフルエンザや今回のコロナウイルスのように他者であるヒトや動物の細胞内に潜り込んで生き延びるウイルスを攻撃する抗生剤はありません。

最近では予防接種ですが、お年を召した方なら、麻疹(ハシカ)は一度罹ったら死ぬまで罹らないと聞かれたことがあるでしょう。ウイルス感染症である麻疹では、一度罹ると終生免疫ができます。免疫とは、ヒトにとって異物のウイルス(抗原)が体内に入る(感染)と、生体はそれに対抗するための物質(抗体=タンパク質の一種)を産生しウイルスを処理します。この過程を抗原抗体反応といいますが、これによる生じた免疫力が一生続くから、二度と罹らないのです。この過程を人工的に行うのが予防接種で、ここでは本物のウイルスの代わりに人工的に作成した抗原=ワクチンによって体内に免疫力(抗体産生)を促します。

新型コロナウイルスは、ウイルスそのものを直接やっつける薬はない、予防接種用のワクチンもまだ未完成だから、感染すると自分の体内で産生される抗体の力を待つしかなく、色々な症状がでれば、発熱には解熱剤、呼吸困難には人工呼吸器といった対症療法(症状を和らげる治療法)で対応しているのです。

もう一つ、ウイルス感染で厄介なことは、前回書いた1918年インフルエンザ、2002年SARS、今回の新型コロナのように、それまで人類が接したことのない新たなウイルスが出現した場合には大多数者が感染します。それぞれ個人の免疫力以外に、ほとんど対抗手段がなかった100年前には多数者がいのちを失ったのは専門知識が不十分であっただけでなく、個々人の置かれていた生活水準も良くなかったこともあります。が、集団に新たなウイルス侵入が発生したら、感染し発病し亡くなる、免疫を得て生き延びる、あるいは幸運にも感染しないという3通りの道しかありません。

ある人口集団の一定数が感染すると、つまり多数者が感染しても多くが生き延びた・・・免疫を獲得すれば、残りの人に感染が及ばないことが解っています。これを集団免疫といいます。少しヤヤコシイのですが、ある感染症について、ひとりの感染者が、まだ、誰も感染していない集団で何人にその感染症をうつすか=1患者が何人にウイルスをばらまくかを、基本再生産数(Basic Reproduction Number Ro<アール ノート>)といいます。麻疹では、この数字は10~18、つまりひとりが麻疹に罹って、周りの人は罹っていない時には、相当数の二次的感染が発生します。

どんな感染症も、初発の??から感染を追跡できると早いのですが、今回の新型コロナ感染症では、初期、この数字が不明でした。今では1.5~2.5程度、つまり1患者(感染者)は、2、3人にウイルスをばらまくと判ってきました。(もっと多いという説もありますので、要注意ですが)そして、ある集団でその程度の人数が免疫を持てば大流行が終わるという集団免疫率は、1-1/Roと表せることから、おおよそ60%の人が免疫を持てば、流行は収まるだろうと予測されています。また、新型コロナウイルスの感染症COVID-19の致死率(ある病気に罹かった人の中の死者の率)は1~2%ということも判ってきました。このような数字を知るためにも、特に初期の疫学、公衆衛生学的調査が重要なのです。

では日本の今後です。

人口1億2千万の60%は7,200万人です。感染者がそこまで増え、致死率が1~2%なら、70~140万人が亡くなる・・・実際、それはあり得ない。そんな悠長な話しではありません。が、何もしなければ、そうなのです。

そうならないために、私たちは何をすべきでしょうか。

まず、科学的で正確な情報が必要です。失礼ながら、毎日、明けても暮れても伝聞情報が蔓延し過ぎているワイドショーからは、少し距離を置くことも必要かもしれません。色々な政府機関や、医療施設からは、科学的な情報が得られます。次いで、智慧を働かすべきです。

判っていることは、密閉された部屋、密集集団、密接な対話を避けること、手洗いを徹底することです。石鹸がなくとも、流水だけでも、丁寧にしっかり洗うことで効果はあるのです。マスクの効果は場所や環境によると思います。まず、ケアの現場では必須です。さらに、自分が感染した時には、咳やくしゃみと一緒にウイルスをまき散らさないように、しっかり、正しく装着することが大事です。あご受けマスクはもったいないだけ、そして、マスクしているからといって、密集地に行くのは馬鹿げています。

最後に、何故、予防が大事か、です。

個人的に病気になりたくない・・・だけではありません。医療資源には限りがあります。いくつかの国で起こっていることは、一次に多数の感染者が医療施設に押し寄せたために、医療がパンクしたことです。ある日、1,000人のCOVID-19患者が押し寄せれば、どんな病院でも、助けられる人も助けられません。どーせ、何時か罹るのなら早くていい、のではないのです。出来るだけ、感染者数を少なくし、そのピークを低くする努力は、個々人の対応によって可能です。そして、感染の広がりを遅らせることで、医療施設の一時的濫用を防ぎ、限りある資源を有効活用できると同時に有効な薬剤やワクチン開発のための時間を稼ぐことも可能です。

前回も申しましたが、感染の広がりに対抗できるのは、行政や医療施設の働きだけでは不可能です。私たちが、適正な情報を正しく理解し、個々人が知識を使わねばなりません。

皆さまの能力と貢献を信じたい・・・そしてもっと良い知恵があれば、ぜひ、ご教示を。