会長ブログ Chair's Blog

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「人生の最期」それに立ち会う人々とそのマナー

「人が生まれる時と生を終える時は、医療者のではなく、神様の領域だ」と、その昔、何かで読んだことがありました。

例によって、年寄りの思い出話です。半世紀も前、新生児医療のはしりに身をおきましたが、しばしばお産に立ち会う機会がありました。分娩と云う母胎のダイナミックな経過と、誕生と云う赤ん坊にとっては抗いがたい、そして生の最初に経なければならない誕生への旅の神秘さは、生理学解剖学的な理論をこえて、ホントに毎回感動しました。さて、年を経た今は対極の生を終える経緯への関与が増えています。自分のそれに向けた学習でもありますが、こちらは、すべての人々にそれぞれ長い人生、歴史がありましょうから、生の場よりも対応は難しいような気もします。

笹川保健財団では、会長・名誉会長をつとめた故日野原重明のイニシアティブで、1990年代に、緩和ケアに関する医師や看護師養成支援を始めました。初期の目的を達し、現在は、地域保健に重点を移していますが、財団の研究助成事業では、毎年、ユニークなテーマでの応募を頂いており、6月頃には、前年度の報告会を開催させて頂いてきました。

残念ながら、昨年末からの新型コロナウイルスの広がりで、今年の報告会は中止のやむなきに至っております上、本年2020年度の研究助成を受けられた方々から、予定通りに進捗しないが・・・と困惑のお声とご相談を受けています。それでも、例年通り、9月には、中間報告をお願いしていますが、あわせて嬉しいニュースが飛び込んで参りました。

横浜市立大学総合診療医学准教授日下部明彦先生から、2015年度の財団助成で作成された『地域の多職種でつくった死亡診断時の医師の立ち居振る舞いについてのガイドブック』の教育的効果の検証をまとめられた論文がJournal of Palliative Care誌に掲載されたのだそうです。

日下部先生 おめでとうございます!

実は、日下部先生は、このテーマを第22回日本緩和医療学会学術大会(大会長帝京大学有賀悦子教授)で発表され、その年の最優秀演題を受賞されています。臨床現場の事実から研究テーマが生まれ、手前味噌ですが、弊財団の助成でまとめて頂き、学会でご発表され、得られたコメントや知見をまとめて論文になさる・・・オーソドックスな手順を踏まれていますが、ある意味、主題は古典的、そして取り組みは斬新です。

先生が、このガイドブック作成を思い立たれたきっかけをうかがいました。

先生が、ある緩和ケア病棟の病棟長をなさっていた時、病棟看護師から受けられたクレームがきっかけだそうです。当時、その施設では、当直を外部からの非常勤医師に委ねられていたそうです。私自身、遠い昔、短期派遣されていた病院でお年寄りの看取りに立ち会ったことがあります。長い経過を知らない非常勤医にとっての臨終の場は、とても難しい任務でした。そして死亡診断書の記載も淡々とした業務になりがち・・・事務的にも見えましょう。丁寧な看取りと厳粛に死亡の瞬間を宣告すること、ご家族との最後の対話もスムーズでなく、ぎこちないこともありましょう。

一方、死に向かう患者の伴走者を務めてきた、殊に緩和ケア病棟の看護師たちには、馴染みのない患者であっても、最後の最後の看取りの場を不慣れだからと、医師がぶっこわすことは許しがたいでしょう。

看護師たちの憤りは当然だと、日下部先生は思われました。

今まで自分たちが積み重ねたケアが最後の最後で、医師が!台無しにするのはヤメテ!!!との看護師の嘆き、怒りをお聴きになったのです。その時、たまたま担当した非常勤医にダイレクトに注意しても、場合によっては喧嘩にもなりかねないし、ワンポイントで終わってしまう・・・そのようなことは、そもそも医学教育の中では教わっていない・・・

先生や緩和ケア病棟の看護師は、興味があり、経験も踏んで、お別れの時には、医療スタッフたちがどうふるまうべきかを考え、また、多様な専門書も読んで学習してきているのだ・・・

主題は看取りですが、アプローチは近代的、先生は、医師の行動変容を促すにはエビデンスが必要とお考えになり、遺族へのアンケートをベースにガイドブック作成を意図されました。それを作成された後、医学部学生や初期研修医に対し、ガイドブックを用いたレクチャーを行われました。医師になったからと云って、すべての医師がすぐに看取りに遭遇するわけではありませんが、お別れの場では、患者のご家族やそこに至るケアを支えてきた多職多様な保健専門家の想いが詰まっており、それまでの締めくくりとしての評価がなされうる重大な場面だということだけでも、ぜひ、心に留めておいて欲しいと願ってこられました。

論文では、ガイドブックを用いたレクチャー前後の初期研修医の実践困難感がどう変化したかを調査されていますが、具体的方法を把握したことで、新米医師たちの看取り時への困難感は減じているというエビデンスを得られました。

そして、その結果は、当然ですが、多数多方面で評価されています。講演や投稿のお誘い、引用、地域医療現場や他大学医学部での教材採用につながっています。昨年11月23日の朝日新聞土曜日版のコラム「それぞれの最終楽章」にも、取り上げられて、看取りの作法としてガイドブックの内容を書かれています。

病棟看護師のご不満を受けた病棟責任者が問題医師に注意することは簡単でしたが、それをなさらずに、時間はかかりましたが、実践の場で有用な、そしてこれからの時代に必須のマニュアルにまとめて下さった日下部先生、本当にありがとうございました。

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