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ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の死

法治国日本に住んでいる私は、日常生活にかかわるあらゆる事々はそれぞれ一つの法律によって律せられ護られていることを理解してはいますが、裁判や法曹界といわれる分野について詳しくはありません・・・多くの方々もおなじかと思いますが、日常生活を恙なく送っている間は、法律を意識することはなく、それはそれで有り難いことで、何か困り事が生じた時、初めて法律というものの存在を実感するのだと思っています。

アメリカで、二人目の女性連邦最高裁判所判事を27年間務められてきたルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が亡くなられました。大勢の方々が、追悼のキャンドルや花、それにプラカードを掲げて最高裁判所前に集まられています。今回は、大統領選挙が間近である中、保守派とリベラル派のバランス上も重要であったギンスバーグ判事の死が大きく取り上げられているようにも見えます。が、米国最上級の法曹機関であるアメリカ最高裁判所(Supreme Court of the United States, Supreme Courtと通称)の権威もさりながら、RBGと略称されるこの方の業績を含めた存在の大きさ故に、特に若者が、純粋に判事の死を悼んでいるのだと、アメリカの知人のメイルです。

その「シュプレーム・コート」というものを、私が意識したのは、1991年ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院に席を置いていた時でした。時のブッシュ(父)大統領が、前任最高裁判所判事の退職に伴い、後任候補に当時43歳のクラレンス・トーマス氏を指名したところ、トーマス氏のかつてのスタッフで、当時オクラホマ大学法学部教授であったアニタ・ヒル氏が、上司トーマス氏からセクシュアル・ハラスメントを受けたと訴えました。公聴会でしょうか、連日、お二人の顔しか出てこないTVや新聞を周囲のアメリカ人が熱心に見ていたことで、色々、解説を受けました。

終身制で自発的引退以外は亡くなるまでその地位におられる方がほとんどだそうですが、セクハラ問題もあって、トーマス氏は、上院で52対48という僅差の承認でした。43歳で就任されたトーマス氏は二人目のアフリカ系判事で超保守派、既に29年目です。

2018年にも、よく似た経過がありました。ブッシュ(子)大統領時代のホワイトハウスで働いたブレッド・カバノウ氏の承認時に、またもやセクハラ問題でした。今度はMe Too運動のさ中、高校時代の同級生からの訴え・・・最高裁判所判事になろうというアメリカ人男性が、とても感情的になられたのに、ちょっとびっくりしましたが・・・こちらも僅差で承認されました。

前述のように、アメリカ最高裁判所の判事9名は、保守派とリベラル派の対立あるいは拮抗することで国の政策へ影響が大きいようです。妊娠中絶、銃の規制、LGBTや、宗教や人種も意識される中でのバランス感覚を持っての任命や就任は日本では想像できない緊張感があるように思いますし、また、そのことを一般国民が意識していることも、日本の、ややのほほんとした感情からは異質に感じます。それにしても、最近のBlack Lives Matterもそうですが、女性で2番目、アフリカ系で2番目、プロテスタントで・・・など、結構、難しい・・・緊張がある社会でもあります。

18日に、すい臓がんで亡くなられたルース・ベイダー・ギンズバーグ氏は、一昨年、ドキュメンタリー映画にも取り上げられ、特にアメリカの若者にとても人気のある女性でした。一見、古き良きアメリカの、見識あるオバサマ風ですが、若者だけでなく、多くの方からも人気があるから、映画にもなったのだと、これもアメリカ人知人の言、ただし、アメリカはその成り立ちに謳われているほど自由や平等を謳歌できていない、残念だけど・・・と、数年来のMe Too運動や、今年のBlack Lives Matterを取り上げました。そして、良く知られていることですが、ギンスバーグ氏が大学に入学された時、時の学長から、「あなたのためにオトコが一人入学できなかった・・・」と云われたり、女性や子どもがいることで、就職できなかったりとか・・・かの国の女性たちの、あえて申せば、公正と平等を獲得するための闘いの先陣を切ってこられたのでしょう。

最近は、新聞に広報される色々な会議に女性スピーカーが増えてきたと思いますが、わが国は、世界経済フォーラムによるジェンダー指数2020では、153ヵ国中121位・・・健康指数は40位、教育は91位、経済は115位、政治は144位・・・元気ではあるが何も能力がない・・・とも見えかねません。確かに、式典の檀上、除幕式もほとんど男性ばかり、人口の半分の女性の力は、あまり社会改革に使われていない・・・のでしょうか。

亡くなられたルース・ベイダー・ギンズバーグ判事は、次期大統領に後任を決めてもらいたいとの、いわば遺言をのこされたそうです。後1ヵ月半を切ったアメリカ大統領選の前に、保守派判事を選びたい現職大統領と、当然、それを防ぎたい民主党候補・・・選挙の年の判事任命は後任大統領が決めるとの不文律で断念した前大統領の例もあって、おにぎやかなことですが、日本人的には、これでは亡くなられたRBGも心安らかに成仏・・・ではなく天国に行けない・・・などと、思ってしまいます。アカデミー賞候補にもなった映画、観てみたいと思います。

英語にお強い方は、その後に出たオバマ前大統領の「ステイツメント」もご高覧を。