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こうもりとウイルス

今年初め、新型コロナウイルスのニュースが増えだした頃でした。かの国でコウモリスープを食することを例に新たな感染症とこうもりの関係を取り上げた記事がありました。よく読めば、要は、こうもり云々ではなく、清潔が大事だと説いているのでした。エイズの原因ウイルスHIVの出現時もそうでしたが、新たな感染症が生まれると、必ずと云ってもよいほど、こうもりが出てきます。

先般、オンラインのLancet Infectious Diseases 2020年9月14日号で、“Bats and Viruses(『こうもりとウイルス』)”という書籍の解説記事を読みました。解説記事の著者は、カナダ サスカチワン大学の獣医学部獣医ウイルス学の教授、本体の『こうもりとウイルス』の著者のひとりEugenia Corrales-aguilara博士はコスタリカの研究者、他のMaratin Schwemmleはドイツ フライブルグ大学のウイルス研究所教授です。

上記Lancet誌の書籍解説記事そのものが、かなりヤヤコシく、こうもりが持っているらしいウイルスについて、また、こうもりとウイルスの関係や、こうもりとウイルスの免疫関係とかウイルスの遺伝子とか・・・将来の当該分野の研究の在り方などを詳述した書籍をていねいに説明されていますが、私自身、なかなか理解できませんでした。が、要は、ヒトの病気であるウイルス感染症対策のためには、人間に悪さをする=病気を起こさせるウイルスを隠し持っているこうもりの研究が必要なこと、そしてそのためには、新たな免疫学的処方や遺伝学的研究も必要だし、こうもりの生態をもみるためには、こうもりコロニーも作らなければ!!!と、兎に角、たかがこうもりと云う勿れ・・・でした。

私が読んだのは書籍の解説にすぎませんが、本体の書籍には、ちょっと手がでません。ただ、2018、19年前半だけで、ProMed(新興疾患監視のための世界最大国際情報プログラム。 医学・獣医学・疫学・公衆衛生学専門家や感染症を専門とする人々が国際的感染症情報のリアルタイム提供と、交流促進を目指す)検索でも約300記事があった・・・つまり、世界では、こうもりとウイルスの関係を研究されている専門家が沢山おいでになることが判りました。

いずれにせよ、SARS(重症急性呼吸器症候群)のコロナウイルス類似ウイルスもこうもりから検出されていますが、わが国の都市部では、普段、あまりお目にかかることのないこうもりという生物が人獣共通感染症(ヒトとそれ以外の脊椎動物<生物の分類のひとつ、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類からなる系統群>の両方に感染または寄生する病原体で起こる感染症、動物由来感染症ともいう)の原因らしいウイルスの貯蔵庫である可能性はかなり大きいように思います。確かに、既に、こうもり由来のウイルス調査はかなり行われており、膨大な・・・200を超えるウイルスがこうもりから検出分離されています。つまり、こうもりは、齧歯類(ゲッシルイ。リス、ネズミ、ヤマアラシなどは、現在、最も繁栄している生物種で、現生哺乳類全4,300~4,600種中の約半数を占め、南極大陸を除く全地球上に生息)に匹敵するか、それ以上のウイルス保持者であるらしいと示唆され、書籍『こうもりとウイルス』の編者らは、新たなウイルスを検索するための分離技術を解説し、2018年から2019年前半の最新情報を網羅されています。解説者は、残念ながら、現在パンデミック化した新型コロナウイルス感染症は予測されていない・・・と述べていますが、タイミングからは、書籍のまとめの時期・・・だったかもと、私は思います。

日本には、35種類のこうもりが生息していますが、主にみられるのは6種、その中でもアブラコウモリが圧倒的だそうです。世界には980種ほどが認知されていることからすると割合少ないようですが、それにしても、ほとんど見ない・・・ですね。

前肢が大きな翼に特化し、鳥のように飛びますが、鳥類ではなく哺乳類です。哺乳類は、前述のように、4,300~4,600種ですから、その中でこうもりが占める割合は約20%、かなり大きな比率です。

最後に、解説者が、特に引用されている著者の言葉、「すべての哺乳類は、それぞれの生き方で特別だが、ウイルスのホスト(宿主)と云う概念からは、別の意味で、こうもりは特別である」を記憶しておきたいと思います。なぜなら、目の前に見えていないけれども、世界のどこかで発生する新たな病気は、これからもありえましょう。そして、COVID-19のように、それは、直ぐに私どもにも押し寄せてくるでしょう。自分の健康を護るためだけでなく、新たな病気の発生を防ぐためにも、世界規模の健康対策を考えねばなりません。あまりなじみのないこうもりのことも、少し、注目したいと思います。