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「ハンセン病ゼロ」運動が 「ハンセン病制圧のためのグローバルアライアンス」の教訓から 学ぶべきこととは

笹川保健財団
常務理事 南里隆宏

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1. はじめに

2021年は、第44回世界保健総会で「2000年末までに公衆衛生上の問題としてハンセン病制圧を実現する」決議が採択されてから30年にあたる。その後ハンセン病の制圧は、多くの国で達成されたものの、新規患者数はほぼ横ばいの状況が続き、ハンセン病患者・回復者・その家族らに対する差別・偏見は未だ存在する。一方で、WHOは2030年までの世界ハンセン病戦略を新たに策定し、「ハンセン病ゼロ」を目指し、10年間で新規患者数ゼロの国(外国籍の患者は除く)を120か国にするとともに、新規患者数の70%減や障害を持った患者数(G2D)の90%減などを数値目標として掲げている。2018年1月には、「ハンセン病をゼロにするための世界連合」(GPZL)が設立され、WHOに先駆けて「ハンセン病ゼロ」運動の旗振り役を務めている。ハンセン病コミュニティの中で、主要なアクターが参加するプラットフォームが構築されるのは、1999年に「ハンセン病制圧のためのグローバルアライアンス」(GAEL)が設立されて以来のことである。WHOが掲げた数値目標を達成し、ハンセン病問題のない世界を実現していくために、今後GPZLが果たすべき役割は大きい。本稿では、GPZLがより効果的な活動を推進していくうえで、GAELの経験・教訓をどう活かすべきなのか論じたい。

2. GPZLとは

GPZLは、ハンセン病ゼロ(病気、障害、差別をなくす)を目指す組織や個人が参加するプラットフォームで、ハンセン病問題に取り組む主要なアクターであるノバルティス社、WHO(オブザーバー)、国際ハンセン病団体連合(ILEP)、笹川保健財団、ハンセン病回復者のネットワークである統合・尊厳・経済発展協会のための国際協会(IDEA)、国際ハンセン病学会(ILA)、ハンセン病に関する国連特別報告者(オブザーバー)らに加え、各国政府のハンセン病担当部門(ブラジル、ガーナ、インド)らが理事として参画している。事務局は、米国アトランタに拠点を置く「グローバルヘルスのためのタスクフォース」(TFGH)が担っている。GPZLは、今後各国が「ハンセン病ゼロ」を目指すうえでの技術支援(ロードマップや行動計画の策定など)や調査研究を本格化させる予定となっている。

3. GAELとは

GAELは、1999年11月に設立され、2001年1月にニューデリーで開催された「第1回グローバルアライアンス会議」において、2005年までにすべての国で公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧(登録患者数が人口比1万人あたり1人未満)を目指す「デリー宣言」を採択した。またGAELの存在は、2001年に開催された54回世界保健総会でも正式に認知されている。GAELには、WHO、未制圧国政府、国際ハンセン病団体連合(ILEP)、ノバルティス社/ノバルティス財団、日本財団/笹川保健財団に加え、世界銀行やデンマーク国際開発援助活動(DANIDA)も参加した。GAELは、各国政府が中心的な役割を果たすほか、技術面での指導をWHOが、NGOや財団などがその他の部分を補完する設計となっていた。またGAELの設立に際し、2000年から2005年の5年間で、各国の制圧活動に日本財団/笹川保健財団が2400万ドルの拠出を、ノバルティス社/ノバルティス財団が総額3000万ドルにおよぶMDTの無償配布を表明した(ノバルティスのMDT無償配布については、1995年~1999年に日本財団が実施していたものを引き継いだ)。加えて、日本財団の笹川陽平理事長(当時)がGAELの特別大使に任命された。しかしその後、参加者間での路線対立や連絡調整の齟齬が顕在化し、2001年にILEPが脱退、GAEL自体も2003年に解消された。

4. GAELはなぜ失敗したのか

GAELは世界レベルでのハンセン病制圧が2000年に達成された後、国レベルでの制圧にシフトする過程で、「ハンセン病を制圧するための最後の一押しを(Final push)」というスローガンの下で発足した。GAELは、各国政府のコミットメントや複数ドナーによる支援を獲得することに成功し、その活動期間中に未制圧であった22か国のうち、16か国で制圧が達成された。しかし上述したように、GAELは1)参加者間での路線対立、および2)連絡調整の不備などの理由により、結局は失敗に終わった。まず前者についてだが、WHOや政府は、制圧が達成されれば、コミュニティにおけるハンセン病の感染は停止し、その後自然にハンセン病の患者数は減少していき、通常の保健システムの中で対応できるようになると考えていた。一方でNGOを中心にこの「仮説」に対し異論が出た。すなわち登録患者数については、登録期間を短くすれば数値を落とすことが可能なので、実際の蔓延率や感染状況を量る指標として妥当ではない。さらに、「制圧が達成されればハンセン病問題がなくなる」という誤解を生み、その結果、各国のハンセン病対策に関わる予算や人員が大幅に削減されるといった懸念も出された。また、MDTによる治療を通じて病気が治癒したとしても、患者の障害や差別は残るといった指摘もあった。つまりGAELの枠組みの中で、WHOや政府は「政治的課題」としての制圧の達成を重視したのに対し、NGOらは、ハンセン病問題を解決するために、障害や差別の問題など、患者に対しどのような支援が行われるべきかについても焦点を当てようとしたため、両者の路線対立が顕在化した。またGAELは、事務局を担当したWHOと他のアクターの間で、あるいは事務局と国レベルの関係者の間で、十分に連絡調整や意思疎通を行うことが出来なかった。その結果、参加者それぞれの強みを活かした協力体制が構築されず、実務レベルで様々な混乱が生じるとともに、参加者同士が互いに批判し合うといった事態までもが生じ、解散を余儀なくされた。

5. GPZLはGAELから何を学ぶか

GAELとGPZLの大きな違いは、前者がWHO総会でも認知された公式なスキームであったのに対し、後者は民間によるイニシアチブだということである。そのため、現在のGPZLにとっての課題は、GAELに比べ国際的な認知度が低いことに加え、各国で「ハンセン病ゼロ」を実現していくための資金的な裏付けがないことである。一方でGPZLにとって望ましい環境が整っている側面もある。WHOが策定した世界ハンセン病戦略に従い、今後各国政府は「ハンセン病ゼロ」を目指す可能性が高い。また、この方針について、ハンセン病コミュニティの中から大きな異論は出ておらず、GAELのように参加者間での路線対立が存在する訳でもない。さらにGPZLには、ハンセン病回復者が積極的に参画しているという点でGAELと異なる。では今後GPZLが各国でゼロレプロシーの実現に貢献していくために、何が鍵となるのだろうか。本稿では、1)国レベルでの効果的な実施体制の構築、2)メンバーの強みを活かした役割分担、3)資金調達、4)政治的コミットメントの4点をあげたい。

第一に、GAEL本体と各国レベルの取り組みに関する連絡調整や意思疎通が十分でなかったという教訓に鑑み、政府、WHO、当事者団体、NGO、大学・研究機関などから構成される「ナショナル・パートナーシップ」を設立し、GPZLはそこを母体として「ハンセン病ゼロ」に取り組む体制を整備すべきである。また、その代表には対象国の現状に精通し(関連政策や関与するアクターなど)、連絡調整業務にも長けた人間が就任することを強く薦めたい。なおその過程で、対象国政府との連携はもちろんのことであるが、専門的なノウハウを有しているWHOと緊密に協力し、両者の役割が重複することを極力避ける必要がある。

次にGAELでは活かしきれなかった各メンバーの「多様性」や「強み」を効果的に動員することを挙げたい。GPZLは誰もが参加できるフラットな「プラットフォーム」であるので、事務局は事業活動の実施、調査研究、政策立案、資金調達、アドボカシーなどの各分野で、メンバーがそれぞれの強みを活かして戦略的な役割を果せる環境・体制を整備すべきである。

第三は、各国政府の「本気度」を高めることである。GAELには批判があったものの、各国が共同歩調をとり制圧に取り組むことが公けに合意されたことは事実であり、ハンセン病関係でこうした「国際的なムーブメント」はその後起きていない。よってGPZLは、各国で「ハンセン病ゼロ」が政治的課題として認知されるよう、各国政府要人らに対する働きかけ等を通じて、第2のムーブメントを作り上げるよう尽力すべきである。

最後は資金調達である。いくら素晴らしい計画やそれを実施する体制が構築されたとしても、資金的な裏付けがなければすべてが絵に描いた餅になる。しかし、GAELの頃に比べ、各国でのハンセン病問題に関する優先度が低下していることに加え、GPZLは未だ認知度が高いとは言えないため、新たなドナーを見つけることは容易ではない。少なくとも新しいドナーの興味を引くために、GPZLは実際にどのような問題の解決に貢献できるのか明示する必要がある。例えば、比較的短期間で成果を出しやすい国を選定し、「ハンセン病ゼロ」のモデル事業を実施し、それをもってドナー関係者への説得材料にするといったやり方もある。また、新しいドナーを探すだけではなく、GPZLが中心となって、既存のドナーによる支援状況(国、分野、支援額など)を整理し、例えば「ドナー会議」を通じて、それぞれのドナーの支援分野を実情に合わせて再整理するといった選択肢もある。

冒頭で述べたように、2021年はハンセン病制圧宣言がWHO総会で採択されて30年にあたる。しかし、現在もハンセン病問題は終わりを告げる気配はなく、新型コロナウィルスのパンデミックにより、各地で患者の診断・治療・リハビリテーションに深刻な遅れが見られるなど、各国のハンセン病対策はむしろ後退した状況にある。よって、GPZLという多様なアクターが参画するプラットフォームを最大限活用することにより、ハンセン病問題のない世界の実現につなげていくことが、今まさに私たちにとって重要なことといえる。

【参考資料】

Braber, Kommer L. “An evaluation of GAEL, the Global Allice for the Elimination of Leprosy” Leprosy Review. 2004; 75, 208-213. Lepra.

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Rinaldi, Andrea C. “The Global Campaign to Eliminate Leprosy” PLos Medicine. 2005; Volume 2, Issue 12, e341.

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