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第7波渦中に感染症オンラインセミナーをシリーズ開催

2022年7月、沖縄県立中部病院の高山義浩先生、大阪大学医学部の忽那賢志先生、さらに現場の看護師をお招きし、感染症に関するオンラインセミナー『ポストコロナ~これからの感染症とのつきあい方』を3回にわたり開催しました。

企画当初は新型コロナウイルス第6波が落ち着きはじめ、同時に海外では原因不明の小児肝炎、サル痘などの拡がりが取りざたされていた頃でした。

ところが、実際に7月に入るとコロナ第7波が押し寄せ、看護師を中心とする多くの参加者の関心はもっぱらコロナの感染対策、治療、ワクチンや後遺症などに集中。

講師を務められた先生方からは、参加者からの質問へも一つ一つ丁寧に、わかりやすく見解を示していただいただけでなく、これから私たちがどのように感染症とつき合っていくべきか、地域医療をどう考えていくべきかという示唆に富んだお話をいただきました。

第1回は7月9日、「美しきセオリーはない~汗まみれのコロナ対策と地域医療の未来~」と題し、沖縄から高山先生と、浦添総合病院感染防止対策室長を務める原國政直看護師が登壇。

参加者からの質問に応える
原國看護師(左)と高山先生(右)

沖縄では感染対策に必要な物資も不足

原國看護師はこの2年半、いかに医療の現場が文字通り「汗まみれ」になりながら踏ん張って来たのか、またその中でも、どのように声をかけあって乗り越えてきたか、感染対策と患者・家族の希望のバランスをどうとってきたかなど、様々な工夫を紹介しました。

意匠を凝らした啓発ポスターの数々
正解はない中、家族との面会を実現

高山先生は、この原國看護師から共有されたコロナの経験を、単なる思い出にするのではなく、今後の地域医療の未来につなげるべきと話をつなぎました。

暮らしの感染対策とは

感染対策がシステム化され、人々がそれに依存していくことによって、その地域の暮らしや文化が失われてはいまいか。専門家から一方的に一律のコロナ対策を強いられることで、家にこもらざるを得なくなった人たちの暮らしには別のリスクが潜んでいるのではないか。様々な例を挙げ、高山先生は問いかけます。コロナから自分たちの暮らしを守るための対策は、専門家だけで決めるのではなく、住民たち自らがその議論に参加すべき、とプライマリ・ヘルスケアの重要性を説きました。

沖縄で起きたことはこれからの高齢化社会で起きること

続いて、コロナ禍で沖縄に起きたことは、高齢化が進む日本中で近い将来起きることだとし、今後は「限られた医療資源をどこに投入していくのか」をより考えていかなければならない、と話す高山先生。これまで病院にしかいなかった認定看護師が、今回地域にでて看看連携に加われたこと、さらに他県に派遣されるなど全国的に展開していったことは、今後の地域保健に引き継がれていくべき成果だと評価、それぞれの現場で活躍する看護師たち同士の連携に大きな期待を寄せました。

ケアの質を高める看看連携

「新型コロナウイルス感染症~現在の流行状況と感染対策について~」と題し、7月23日に開催したシリーズ第2回は、忽那先生と大阪大学医学部付属病院の太田悦子師長にご登壇いただきました。

感染症専門医として連日メディアにもご出演されている忽那先生からは、コロナウイルスの概要と第7波の流行状況、ワクチンの効果を含む今後の対策についてわかりやすく解説をいただき、参加者からは具体的な質問が多く寄せられました。

オミクロン株の特性・ワクチンの有効性

現在流行しているオミクロン株はデルタ株に比べ、感染力が強い反面、重症化リスクは低くなっており、ワクチン未接種者に比べ、2回、3回接種した人はそのリスクがさらに低くなるというデータを示した忽那先生。オミクロン株はワクチンによる中和抗体が作られにくいため、4回目の接種をしたとしても残念ながら感染を防ぐ効果は接種後4週間で半分程度まで落ちてしまうとしながらも、重症化を抑える効果は持続することから、重症化を防ぐため、引き続きワクチン接種が重要となることを説明しました。

オミクロン株の症状の特徴
わかりやすい解説で定評のある忽那先生

訪問看護における感染対策のポイント

訪問看護におけるポイントを整理した太田師長

忽那先生と二人三脚で日々業務にあたられている感染管理認定看護師の太田師長は、今回の講演に先立ち訪問看護の現場を視察。訪問看護における感染対策のポイントをわかりやすく解説し、 時間に追われる訪問看護では、患者の生活の場にウイルスを持ち込まない、そこから持ち出さないために、どこに感染リスクがあるかを知り、効果的・効率的に手指衛生を行うことがポイント、と強調しました。

限られた訪問時間内にはポイントごとの適切な手指衛生を!

また、消毒液は使用期限を守り、直射日光のあたるところに保管しないこと、消毒前に洗浄すること、40度程度の温度でしっかり漬けるようにすることなど、徹底した消毒や手指衛生など標準予防策をしっかりすることが何よりも重要である点、さらに緊急時に備えた計画を作成しておくことの必要性も指摘されました。

器具が消毒液に浸かっているか注意
訪問看護ステーションのBCP作成は義務化されている

シリーズ最終回は7月30日、高山先生、忽那先生によるスペシャル対談を実施。過去2回開催後に寄せられた質問への回答を中心に、それぞれの見解を率直に述べていただきました。

高齢者の見守りポイント

高山先生は、初日にも触れたコロナ対策がもたらすリスクに再度言及され、特に高齢者に対しては、コロナであっても通常の風邪の時と同様の対策をおろそかにしないことを指摘したほか、孤食を勧めることが高齢者の死亡リスクを高めている可能性があることについても警鐘を鳴らしました。

我が国のコロナ政策への評価と今後への期待

死亡者を抑えているという点で他国と比べて成果をあげている日本のコロナ政策。これはひとえに医療従事者が頑張っていることの現れであり、政府はこの点をもっと評価すべき、というのは両先生共通の認識でした。

一方、先の見通しを立てて対策ビジョンを立てることができておらず、それが住民の不安感にもつながった、もっと「皆で乗り越えよう」と夢を語り、団結を呼びかけてもらいたいと、高山先生が政治の役割に期待すると、忽那先生は、あまり極端な政策に走るのではなく、状況を見ながら3歩進んで2歩下がるように、まだまだ感染症とつき合っていく必要があると見解を示しました。

シリーズ3回を振り返って

計3回のセミナーシリーズでは、コロナ禍で多忙な看護職を中心に、のべ500名の方々にご参加いただき、「全国の医療従事者が頑張っている様子に励まされた」「効果的かつ負担のない感染対策を続けていきたい」「具体的なイメージがわき、覚悟をもって挑む勇気が持てた」等のコメントが寄せられました。また、「非医療従事者にも公開してもらえてよかった」とのコメントもあり、先生方の専門的かつわかりやすい解説が、感染症対策の啓発につながったことがうかがえました。

第2回、第3回のオンラインセミナーについては動画を2022年8月31日まで期間限定公開しています。見逃された方はぜひ期間内に、以下の笹川保健財団公式Youtubeチャンネルよりご視聴ください。

笹川保健財団では、今後も看護職をはじめ多くの皆さまが知りたい分野について公開講座を企画してまいります。ご要望はぜひ地域保健チーム community_health@shf.or.jp までお寄せください。