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『孤独の本質 つながりの力』新年の読書

今年は長い年末年始のお休みのあと、1週間丸5日を働くと、また3連休でした。ゴロゴロムードがとけないまま2週間が過ぎたのですが、少し反省を込めて、この間読んだ本のご紹介を。

私は、まぎれもなく独居老人です。が、ありがたいことに孤食の頻度は少ないのです。年末年始の10日間も、まったく一人きりで・・・という日は2日間でした。仕事がらみの面談もありましたが、その合間をぬって、嫌がらずに超高齢の私とおしゃべりし、飲食を共にしてくれる若い仲間に感謝しています。が、若すぎる・・・高校生とか中学生以下になると疲れますねぇ・・・アッ失礼、あちらはもっと疲れている!

さて、ご紹介するのは『孤独の本質 つながりの力』です。著者は、アメリカ公衆衛生局長官ヴィヴェック・H・マーシー医学博士です。副題に、『見過ごされてきた「健康課題」を解き明かす』とあり、帯には、『喫煙、肥満、依存症より深刻―? なぜいま「孤独」は世界中にまん延しているのか。抜け出せない負のスパイラルはなぜ生まれるのか?』とあります。

とても簡単に言えば、私ども人間は群れていないとダメ!ということです。もちろん個人の自立や独立性は大事ですが、長い一生を考えると、ひとり孤高をまもるは・・・健康上良くないということです。

(ヴィヴェック・H・マーシー医学博士は、当ブログ二度目のご登場です。『孤立は健康問題デス!』2023年7月18日

著者のマーシー博士は、2014年、まだ37才の若さで、第19代アメリカ合衆国公衆衛生局長官を務めておられます。(2021年からは第21代として再度公衆衛生局長官を務める。)アメリカでは、いわゆる公衆衛生分野の諸々を統括する職で、英語ではSurgeon General(直訳は外科総督)とよび、大統領が直々任命しますが、上院の承認が必要な高位職で、軍隊の制服をお召しです。公衆衛生といえば、何となく途上国で、貧しい人々への支援・・・みたいな感を持ちがちですが、それぞれの国の住民が、つつがなく日々の生活を送れる基本は水や空気や食物の安全性、予防接種政策、ワクチンや薬剤・医療資機材の開発と安全性の保障、パンデミックへの警報、麻薬や習慣性物質への警告など住民への健康教育などなど、多彩で多様な責務があります。さらに、大統領や保健福祉局長官(日本なら厚生労働大臣)へのアドバイスも主要な仕事ですし、配下の6,000名以上の保健医療専門家を指揮して、緊急事態に対応する権限もあります。国内的に公衆衛生に従事する人々にとっては、ちょっと挑戦したいポストのように思えます。

なぜ、軍的制度なのか、ですね。
このポストは、アメリカ各地の港湾で働く商船乗組員に医療サービスを提供するために1798年に設立された「海員病院制度(Marine Hospital Service)」が発祥のようですが、1870年に本制度が中央集権化されて、その指揮官としてSupervising Surgeon(監督外科医)が設けられました。さらに1889年には、この海員病院制度が「アメリカ公衆衛生サービス隊(US Public Health Service Commissioned Corps)」という正式な軍事的階級制度を採用したそうですが、その理由は、災害や感染症大流行など緊急事態に迅速に対応するためには軍隊的組織が有用と判断されたためとされています。日本でも大規模災害時の自衛隊の活動がそれでしょうか。ただし、アメリカ公衆衛生サービス隊は基本的には軍隊ではなく、医療・公衆衛生の専門家として、国内外の公衆衛生危機に迅速に対応します。軍隊・・・つまり、命令には文句を言わず・・・ですので、軍事組織的であり、また、軍隊同様連邦政府に属し国家レベルで対応します。ただし、基本的には非戦闘員ですが、戦争や国家非常事態では軍隊を支援する活動もとれるそうです。

By United States Department of Health and Human Services – https://www.hhs.gov/about/leadership/index.html, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=114777674

前置きが長くなりました。若いアメリカ公衆衛生局長官ヴィヴェック・H・マーシー医博の本書の原題は「孤独」ではなく“Together(一緒に〈いること〉)”です。副題は、“The Healing Power of Human Connection in a Sometimes Lonely World“つまり「時に孤独なこともある世界において、人とのつながりが持つ癒しの力」です。素直に理解するならば、「四六時中、誰かとつながっていろ!というのではなく、孤独も必要だけど、それが講じてうまくゆかない時には、誰かと、上手につながればよい・・・」のです。第一部では、孤独をどう理解するかを丁寧に説かれています。この中で、印象的なことは、昨今、広がりつつある「社会的処方」の最初の事例が、丁寧に解説されていることです。保健医療分野にいるものはちゃんと読んで欲しいけど、本書は本文だけでも420ページ・・・大著で2400円!でも読んで欲しい。
2部は、ではどう他人とつながるか、ご自身の事例を含め、詳しいつながり方を解説されています。が、それをまねることは不可能であり、また、不必要です。自分は自分のやり方で、自分が暮らしている地域社会の中で可能なつながりをもてばいいと思いました。

そして、マーシー長官を調べていると、何とYOSHIKIさんが、対談なさっていました。
『YOSHIKI 米国公衆衛生局長官と対談 対談テーマはSNSでの誹謗中傷や自身の父親の自殺について 「メンタルヘルスの支援」人間の愛の重要さを語り、「Forever Love」のピアノ演奏も』(YOSHIKI PR事務局 2024年8月8日より)
あまりというか、ほとんど知識のない範疇の方ですが、ちょっとではなく、大いに感動させられる対話でした。ご参考までに。

そして・・・毎度の古いお話ですが、わが国は「向こう三軒両隣」という言葉があります。ご近所付き合いによって防犯防災体制をつくることから、時代によっては監視的でもありましたが、孤立を防ぐ地域の知恵でしょうか。また、見知らぬ人であっても「袖振り合うも多(他)生の縁」とか、何かご縁を付けるセリフもあります。それが、大都会ならずとも、大型団地やお隣とは顔をあわさないマンション生活が当たり前になって、しかもゲームやSNSといった個人で時間をつぶせるものが蔓延してしまいました。かつてどの地域にもあった、盆踊り、秋祭り、古来のお神楽や神社仏閣での行事も担い手がいなくなって消滅するところが増えている。そういえば、ネット化社会で、在宅勤務が当たり前になってきていますが、その先では認知症が蔓延する・・・と危惧する保健分野の知人もいます。
私は下戸ですが、呑み会に誘われてお断りしたことはないのです。多分、独居老人になる前から、何かが孤立を防ぐ方向に働いていたような気がします。

今夜、一杯は如何でしょうか?