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学びをつなぎ、社会へ還す――「Sasakawa看護フェロー」の新たな一歩

「令和8年熊本地震」の発生から、早20日も経ちました。

気象庁の発表によると、本震後の地震回数は緩やかに減少しているものの、地震活動は依然として活発で、予断を許さない状況が続いているとされています。発災翌日の7月29日に臨時開催された政府の地震調査委員会は、震源となった断層帯が約30キロメートルにわたって活動した一方、その南部にはまだ「割れ残り」があり、長期的には再び大きな地震を引き起こす可能性があるとの見解を示していました・・・割れ残りをどうするか、コップのかけらではないので大変です。「長期」とは、いったいどれほどの期間なのでしょう。これからも地震を心配しながら暮らさなければならない被災地の方々の心労を思うと、ため息が出ます。

さて、炎天下の被災地のひとつ熊本県御船町では、私どもの「日本財団在宅看護センターネットワーク」の福岡県、佐賀県に続き、現在は広島県の仲間が在宅避難者への巡回訪問や、被災家屋の片づけに携わって下さっています。

高齢者の多い地域における災害では、避難も復旧も、まして復興も、被災者の年齢や健康状態、生活機能を見据えて進めなければなりません。

さて、熊本地震への対応でご紹介が遅くなりましたが、笹川保健財団では、「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業に続く看護人材育成事業として、2022年度から「Sasakawa 看護フェロー海外留学奨学金」を実施しています。将来、看護師として社会のさまざまな分野でリーダーシップを発揮する人材を育てるため、米国・カナダの世界トップクラスの大学院における修士号・博士号の取得を支援する事業です。

2023、24年度に学位を取得して帰国した、いわば第1期のフェローたちは、自主的に同窓会組織を立ち上げました。さらに、ナイチンゲールが考案した「鶏のとさか」と呼ばれる統計図をモチーフに、同窓会のエンブレムも完成させました。

財団の支援を受けただけでなく、フェロー同士がつながり、互いに高め合い、後に続く仲間を支えようとする動きが始まったことを大変うれしく思っていましたら、さらにさらに、その同窓会活動の一環として、7月25日に「フェローによるクリティーク発表会が開催されました。
「クリティーク(critique)」とは、研究計画や論文などを客観的な基準に沿って注意深く評価し、その質を高めていくための検討過程です。決して粗〈あら〉探しや意地悪な批判ではありません。優れた点と改善すべき点を見極め、より良い研究へと導くための方法です。

エンブレムを紹介するフェロー

発表会の概要は、すでに当財団のホームページ(「Sasakawa看護フェロー初のアカデミックな試み!2026年度留学報告会」2026.8.3)でご紹介していますが、私からも改めてコメントしたいと思います。
発表されたテーマは、HIVとメンタルヘルス、都市環境と肥満、HPVワクチン、若者の性暴力被害、オンライン教育のデザイン、電子健康記録を活用した退院後支援など、実に多岐にわたりました。それぞれの発表に対し、先に留学を経験した「先輩フェロー」がクリティーク=批評と助言 を行い、専門分野を越えた活発な議論が交わされました。彼ら彼女らがフェローに選出される際の選考委員お二方のコメントも加わった下さった本格的クリティークを久しぶり、多分30年振りくらいに堪能しました。

本フェローシップ事業の目的の一つに、海外の大学でダイバーシティ、すなわち多様性を実感することが挙げられています。昨今、日本の大学にも外国人が増えていますが、保健系大学には異国の学生はほとんどいない・・・一方、フェローたちが学ぶ米国・カナダの大学院には世界各国から多数の学生が集まり、その年齢も研究テーマも驚くほど多彩です。

例えば、「有色人種のトランスジェンダー女性の行動」「パレスチナ難民を支援する国連機関UNRWAのプライマリ・ヘルス・ケア」「HIV感染の有無によってみたボルチモア・ワシントンD.C.地域のMSM(男性間性交渉者)の生活環境、社会的支援とメンタルヘルス」など、日本にいるだけでは、なかなか深く接することのできないテーマも取りあげられています。嬉しいことですが、本事業が目指す多様性の理解は着実に深まっていると感じました。

左が発表者、右側がクリティークを担当した先輩たち

しかし、海外の大学で学位を得ることは、この事業のゴールではありません。もちろん、フェロー一人ひとりにとっても、それが生涯の目的ではないでしょう。海外で培った知識、広い視野、そして人的ネットワークを、日本と世界の課題解決にどう生かしていくのか。真価が問われるのは、むしろこれからです。

若さにあふれ、最新の知識と確かな専門性を身につけた看護師たちが、これからも長く広く、互いに切磋琢磨し、学び合い、支え合いながら、看護の枠を越えて社会を動かすリーダーへと成長していくであろうことを私は確信しました。

正直なところ、私には十分に理解しきれない高度な情報分析も少なくありませんでした。しかし、若者たちが確かな一歩、二歩を踏み出していることを目の当たりにできた嬉しくも頼もしい一日でした。

Sasakawa看護フェローのさらなる研鑽と成長、そして、その成果が広く社会へ還元されることを心から期待しています。

活発な議論が報告会を盛り上げました
卒業証書と一緒に
卒業おめでとうございます!