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インタビュー: NTDロードマップから見たハンセン病

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1月末、WHOは「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)」に関する新たなロードマップを発表しました。このロードマップは、ハンセン病を含む20の疾患を対象とし、持続可能な開発目標(SDGs)に沿った横断的な目標を掲げています。2月のLeprosy Bulletinでは、2017年からWHOのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ/感染性・非感染性疾事務局次長に就任したレン・ミンホイ博士にインタビューを行いました。

LB (Leprosy Bulletin): 顧みられない熱帯病について人々は何を知っておくべきでしょうか?

RM (レン・ミンホイ博士): 顧みられない熱帯病(NTDs)は、細菌性、ウイルス性、寄生性、真菌性、非感染性の多様な疾患群のことです。その多様性にもかかわらず、地理的、社会的背景は共通しており、その疾病負荷は世界の熱帯地域に集中しています。多くは媒介性であり、病原体保有動物が存在し、複雑なライフサイクルを伴っているため、公衆衛生上の管理は非常に困難です。

10億人以上の人々がこれらの病気に苦しんでおり、毎年17億人が少なくとも1つのNTDsの治療を必要としていると推定されています。NTDsは大量に死亡することはないものの、感染した人々を衰弱させ、生涯にわたって苦痛を与え、生活の糧を奪います。

NTDsは主に貧困層に影響を与え、貧困との相関関係が非常に深いため、顧みられない人々の病気とも呼ばれています。不利な立場に置かれた人々の間で患者が集中しており、世界から関心が向けられず、放置される原因となっています。

LB: 2021~2030年のNTDロードマップについて教えてください。

RM: 「顧みられない熱帯病 (NTDs) の終焉 : 2021~2030ロードマップ」は、20の疾病および疾病群を予防、管理、制圧、根絶するための2030年に向けてのグローバルな目標とマイルストーンを設定しています。貧困層や社会から疎外された人々の公衆衛生上のニーズを優先することにより、過去10年間で大きな進歩を遂げましたが、2012~2020年の最初のロードマップで設定された目標の多くは達成されませんでした。

新しいロードマップでは、新たな目標を達成するための重要なギャップと必要な行動が明示されています。その中には、地方自治体やコミュニティとの連携や、NTDプログラムへの積極的な参加を促すことなどが含まれています。  

2030年の世界目標は以下です。

  • NTDの治療を必要とする人の数を90%削減すること
  • 少なくとも1つのNTDを制圧する国を100カ国以上にすること
  • メジナ虫症、イチゴ腫を根絶すること
  • NTDsに関連する障害調整生存年数(DALY)を75%削減すること

2030年の目標に加えて、NTDごとに2023年と2025年のマイルストーンを設定しました。マイルストーンは、各疾患に設定された公衆衛生目標を示しています:根絶、制圧(感染の中断)、公衆衛生問題としての制圧(感染の大幅な減少および/または罹患の制圧)、および管理(最低限の意欲的目標)。

過去10年間の経験から、診断、モニタリングと評価、医薬品と医療品の入手と物流、キャパシティ強化、アドボカシー、資金調達などの分野で、多部門にわたるさらなる活動が必要であることがわかっています。ロードマップは、統合的介入に焦点を当てた具体的な行動を提案することで機運を高め、それによってプログラムの費用対効果を高め適用範囲を広げることを目的としています。

また相乗効果を最大限に発揮するために、保健分野以外(教育や障がいを含む)の分野でも、より緊密な連携と活動が求められています。

LB: 他のNTDsで使われているアプローチがハンセン病にも役立つことはあるのでしょうか。またその逆もあるのでしょうか?

RM: ハンセン病に効果的なアプローチとして、集団投薬(MDA)キャンペーンの際に地域の医療従事者を参加させ、ハンセン病の疑いのある患者の検出や再検査、接触者の追跡、健康教育、社会動員を促進することが挙げられます。また、ハンセン病の検出、診断を皮膚関連NTDsのアプローチに含めることも可能です。

ハンセン病がもたらす可能性のある利点の1つは、人権、偏見、差別、ジェンダーの分野であり、他のNTDと比較してアドボカシーが特に盛んです。またハンセン病モデルは、セルフケアや地域に根ざした障がい者ケアの介在、補助具(リンパ系フィラリア症やマイセトーマの患者のための履物など)の普及や、ブルーリ潰瘍の患者に拡大された外科的処置などにも活用することができます。

ハンセン病で用いられるアプローチで他のNTDsにも役立つ分野としては、積極的な患者発見と接触者の追跡、コミュニティへの参加、政策決定時の当事者の参加、e-ラーニングモジュールなどが挙げられます。

LB: グローバルな目標が達成されることに期待していますか?

RM: ロードマップは、次世代の人々をNTDsから解放することを目的としています。この目標を達成するためには、COVID-19のパンデミックで証明されたように、協力し合い課題を強みに変えていくことが必要です。逆境に直面しても、連帯とイノベーションにより前進する意欲が湧いてきます。

このロードマップでは、地方自治体、若者、コミュニティの全面的な参加を求めています。疾患特有のプログラムに限らず、セクターを超えて水平方向に働きかけ、すべての人を巻き込んで活動を加速させたいと私たちは考えています。

また、コミュニティやパートナーと協力して、NTDsの流行地域における基本的な水の供給、衛生設備や予防策への完全なアクセスを促進し、男女別に集計されたNTDデータの収集と報告についての改善にも取り組んで行きたいと考えています。

しかし特に疾病の制圧、根絶の分野では、常に課題が表面化します。私たちは状況を監視し、不測の事態にプログラムを適応させる準備をしておく必要があります。このような事態として、パンデミック、地域的な流行病、政情不安、移民、気候変動の影響、薬剤耐性などが考えられますが、いずれも既存のプログラムを複雑にする可能性があります。2030年の目標を達成するためには、一致団結して行動し、課題に機敏に対応することが必要です。

私たちに希望を与えてくれるのは、成功への決意です。このロードマップは、SDGsの枠組みの中に完全に組み込まれており、その目標は、世界の公衆衛生コミュニティがユニバーサル・ヘルス・カバレッジを改めて重視していることと完全に一致しています。私たちは、このロードマップの共有ビジョンを信じ協力することにより、2030年に設定された目標を達成できると前向きに考えています。

レン・ミンホイ博士
世界保健機関(WHO)
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ/感染性・非感染性疾患
事務局次長
https://www.who.int/dg/adg/ren-minghui/en/

 

2021年3月号 PDF (英語版)