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特別インタビュー(ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官)「人間の尊厳を守る政策が必要です」

国連人権高等弁務官

ミシェル・バチェレ

https://www.ohchr.org/en/aboutus/pages/highcommissioner.aspx

ツイッター @mbachelet

ー今年のグローバル・アピールでスピーチいただいた中で、高等弁務官は「ハンセン病は忘れられた病気で、今もなおスティグマの対象であり続けている」とおっしゃいました。これを変えるためにどのようなことができると思いますか?

バチェレ氏:まず、ハンセン病当事者とその家族に対するスティグマや差別が与えるインパクトを理解してもらうための啓発が必要だと考えます。人権委員会分科会での当初の議論を振り返ると、2005年に4人のハンセン病回復者たちがジュネーブで登壇して自らの経験をお話しくださったのが大きな転換点だったと思います。この病気が社会に誤解されていることが原因で、彼女たちや家族が偏見の目にさらされているという証言をしたわけですから。

啓発の他に私たちがすべきことは、こうした回復者の人たちに対し、あなたは権利を持った個人なのだからと力づけ、変化を担う主体としてエンパワーすることです。特にハンセン病蔓延国といわれる国において、あらゆる事業やサービスのデザインや議論に彼らが意義を持って参加していくことは、このインパクトを持続させるために必要不可欠なことです。彼らの声が政策決定や生活に反映されていくことは、人権が十分に行使されるためのカギとなるでしょう。

また私たちは、ハンセン病当事者の権利が侵された時にどのようにして彼らが説明責任を問い、救済措置を得ることができるのか、そのための効果的な仕組みを整えなければならないと感じています。ここでは正義を保障するシステムと各国独自の人権に関する制度とが重要な役割を担います。ですから判事や弁護士は、この問題や、ハンセン病当事者とその家族が直面している具体的な課題についてもより正しく理解していなければなりません。

最後に、私たちはゼロ・レプロシーを各国そして国際社会での重要な課題として取り組み続けなくてはなりません。ハンセン病当事者や支援者だけでなく、多くの国家元首や大臣、政策決定者たちとも議論を続けてきた笹川氏のようなインフルエンサーがもっと必要です。2006年に始められたグローバル・アピールは、メディアを通じた啓発機会としてだけでなく、世界のリーダーや人権問題に関心のある組織、ハンセン病当事者たちからのサポートを集めてきました。

ー笹川氏はハンセン病制圧大使に就任して20年来、ハンセン病問題が人権問題だと主張し、何度もジュネーブを訪問、日本政府も巻き込み、人権問題としてこれを提起してきました。その間、6度にわたるハンセン病差別撤廃決議が人権理事会にて採択されています。笹川氏の貢献をどのように評価されていますか?

バチェレ氏:ハンセン病は治る病気で、公衆衛生上の制圧目標は現在ではほとんどすべての国で達成されています。しかしスティグマや差別を含む社会面での課題は依然として多くあるのが現状です。多くの国でハンセン病は忘れられた病気です。しかしゼロ・レプロシーというのは、ハンセン病当事者たちの権利が保障、尊重されるインクルーシブな社会が実現して初めて達成したと言えるでしょう。

笹川氏には20年以上、ハンセン病を人権問題として捉え、世界の意識を向けさせるためのたゆまぬ努力をしていただきました。国連人権委員会(人権理事会の前身)を説得しようと初めての高等弁務官事務所を訪問された2003年以来、日本政府やその他政府とも緊密に連携され、ついに2008年に人権理事会にて最初のハンセン病差別撤廃決議が採択されるに至りました。

この決議は人権理事会諮問委員会に対し、差別撤廃の原則とガイドラインの草案を求めるもので、これをもとに作られた原則とガイドラインはその後2010年の人権理事会と国連総会で採択されました。これは歴史的な瞬間であったと思いますが、その多くが笹川氏や他関係者の方々の取り組みによるものだったと思います。この時に採択された原則とガイドラインは、2017年の特別報告者の設置に代表されるように、人権理事会の本件に関するその後の発展の礎となりました。

ー笹川氏はハンセン病当事者たちが経験してきた差別とコロナ患者や家族、医療従事者らが現在直面している差別との間に共通性を見出しています。このような差別はなぜ起こると思いますか?どのようにしてこのような差別を防ぐべきでしょうか。

バチェレ氏:新型コロナのパンデミックは、私たち人間や社会の弱さを再び見せつけることとなってしまいました。伝聞や誤解によって生まれた感染症に対する恐怖心は、社会的なスティグマや人々の差別的な行動を助長しています。このデジタル社会において、誤解や恐怖心はより速いスピードで広がってしまいます。コロナ差別に対抗するには、世代を超えて広がってきたハンセン病差別を克服し、この経験から学ぶことが重要です。

そのためには、差別を伴わず、誰もが社会福祉やヘルスケアにアクセスできるような平等性を掲げる政策が必要です。緊縮財政のために弱体化させられてきた質の高いヘルスケアを求める必要があります。すべての人を社会的に保護するための権利を確保するため、教育にも投資しなければなりません。コロナパンデミックはすべての国家、世代間の連携の必要性も示唆しています。スティグマと差別をなくすためには、私たちはこの問題を「彼らの問題」ではなく「自分たちの問題」として捉えることが必要です。私たちは皆、ハンセン病やその他の理由で差別に苦しむすべての人の人権と尊厳を掲げて行動しなくてはならないのです。

ー本件に関する直近の人権理事会決議でハンセン病問題特別報告者の任期が延長されましたが、特別報告者の活動がもたらすインパクトをどのようにとらえていますか?

バチェレ氏:特別報告者が担う特別手続きというものは国連人権メカニズムを構成するひとつです。特別報告者は人権理事会によって任命される独立した専門家で、この問題を独立した包括的な立場から各国の原則とガイドラインの実行状況の報告を行ったり、関係者との対話を通じて課題や成功事例を共有し、啓発を行うことを使命としています。

2017年11月の任命から、アリス・クルス氏は成功事例の共有、政策決定者や政府代表部、当事者との対話を通じた提言や政策ガイダンスを、当事者中心、人権に基づいたアプローチで実践し、このスティグマと差別の問題のパラダイム・シフトを図ってきました。彼女の最新のレポートは、コロナパンデミックがハンセン病当事者にもたらした影響に関する考察と、当事者インクルーシブな回復に向けた数々の提言が含まれていました。

昨年、彼女の任期が3年延長されたことは、加盟国が彼女の活動を支持していること、そして引き続きハンセン病問題を人権問題として取り扱うことへの賛同を意味しています。私は各国政府や関係者が彼女の活動に協力することを求めます。

ーコロナパンデミックは貧困層や、周縁化されたコミュニティの人々に非常に深刻な影響をもたらしており、これにはハンセン病当事者も含まれます。この1年半の日々は、人権に関して私たちにどのような示唆をもたらしているでしょうか?

バチェレ氏:コロナパンデミックの脅威がもたらしたような人権問題の挫折はこれまで世界があまり経験したことのないものでした。ハンセン病当事者やその家族を含むすでに社会から追いやられてきた人々がコロナにさらに苦しめられている状況はショッキングなことです。

コロナからの復興は、これからの世代が、不平等と脆弱性を生み出してきたモデルから脱却し、よりインクルーシブで持続可能な社会を見据えるべく生まれ変わるための転換点となるでしょう。

人権に基づいた成長を模索する「人権経済」の確立や、不平等を是正し、誰ひとり取り残さないための基盤となるコミットメントを確固たるものにする、そうした人生を変えるビジョンが、いま私たちには求められています。