ハンセン病患者の発見や、当事者に対する差別・偏見を解決するために、当事者こそが中心的な役割を果たすべきである。なぜならば、彼らこそが、どのような医師や研究者よりも、ハンセン病問題にを体験した専門家だからだ。私たちはハンセン病回復者こそ問題解決の主役であるとの考えから、1990年代から、世界中のハンセン病当事者団体の強化に取り組んできた。そのモデルとなるのがエチオピアハンセン病回復者協会(ENAPAL)だ。

2022年9月2日、私はENAPALの本部ビル開所式に出席した。詳細は本号の記事で別途報告されているが、ENAPALは政府から無償で譲り受けた土地に、6階建ての本部ビルを建設し、その賃貸収入をもって、当事者の生計向上支援や、組織の持続的運営に繋げるプロジェクトを立ち上げた。この取り組みは、世界のハンセン病回復者団体の活動強化のためのモデルになる期待されるため、３年前に笹川保健財団が支援を決定し、この度ビルの無事開所式を迎えるに至った。開所式には、エルゴゲ女性社会問題大臣、リア保健大臣らをゲストに迎え、ハンセン病問題に取り組むNGOや研究者、そして全国各地から参集したENAPALのメンバーら多数が参加した。ENAPALのテスィファイヤ事務局長はあいさつの中で「今日は私たちの夢が実現した記念すべき日だ。このビルは、単に収入源獲得のための資産ではない。エチオピア国内、ひいては世界中のハンセン病当事者にとって、尊厳回復のシンボルと位置づけられるべきだ。」と述べた。

ハンセン病の患者・回復者をはじめ、障害を持つ人々が共に働き、活躍できる社会の実現は、私にとって残りの人生をかけた夢である。今後、ENAPALがこの経験を活かし、世界中の回復者組織のリーダーとして、インクルーシブな社会の実現に貢献していくことを期待したい。

WHOハンセン病制圧大使
笹川陽平