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2023年度ハンセン病対策助成事業報告:バングラデシュのメンタルヘルスケア制度化支援

笹川保健財団は、助成事業を通じてハンセン病への偏見・差別がなく、病に罹患した人が必要な治療やサービスを享受でき、ハンセン病が問題とならない社会の実現に向けて取り組んでいます。2023年度もハンセン病問題に取り組む内外の多彩な団体と連携し、様々な活動を支援しました。

前回に引き続きバングラデシュより、ハンセン病当事者のメンタルヘルスケアの制度化推進活動について支援先のNGOレプラよりコミュニケーションマネージャーのクリスさんのレポートをお届けします。

ハンセン病とメンタルヘルスの低下の悪循環を断ち切る

レプラ コミュニケーションマネージャー
クリス レインさん

レプラ(LEPRA)は、1924年に設立された国際NGOで、ハンセン病とリンパ系フィラリア症による身体的、社会的、経済的、精神的な影響を軽減するため、インドとバングラデシュ全土で、ホリスティックな治療サービスの提供をサポートしています。

メンタルヘルス問題を引き起こす要因には、地域や経済的な理由による医療格差、情報や教育の格差、社会的・経済的機会の格差等、世界で最も脆弱なコミュニティで暮らすハンセン病当事者が直面する問題が多く含まれています。

ハンセン病などの「顧みられない熱帯病」(NTDs)に罹患した人々は、メンタルヘルスを保持することが最大の課題とされてきました。また、メンタルヘルスの悪化が、身体的な回復に直接的な影響を及ぼすことも広く知られています。Leprosy Review誌に掲載された研究によると、ハンセン病患者・回復者の約半数がうつ病や不安症を経験しています。

レプラは、過去10年間、ハンセン病当事者にとって、メンタルヘルス問題を解決することが重要な役割を果たすと認識し、メンタルヘルス治療プログラムを取り入れた研究プロジェクトを複数回にわたって展開してきました。その中の一つが、今回、バングラデシュで行われたマインド・トゥ・ハート・プロジェクトです。このプロジェクトは、ハンセン病の治療プログラムにメンタルヘルスケアを採り入れ制度化することで、安定的かつ恒久的にハンセン病当事者のメンタルヘルスに寄り添い、効果的な治療を実現することを目指しました。

マインド・トゥ・ハート・プロジェクトは、レプラの他のメンタルヘルスプロジェクトから得た知見をもとに、笹川保健財団の支援により、ボグラ連盟とのパートナーシップで実施されました。ボグラ連盟は、レプラが支援するバングラデシュの草の根の地域密着型のハンセン病当事者団体で、ボグラ地区全域に広範なネットワークを持ち、地域内の101に及ぶセルフヘルプグループを統括する団体です。

2023年に実施したプロジェクトのフェーズ1では、ボグラ地区でハンセン病2級障害(目に見える障害がある)をもつ300人のハンセン病患者・回復者を対象に、メンタルヘルスに関する認知度を向上するとともに、不安や抑うつのレベルを下げることを目的とした取り組みを実施しました。地域や専門家によるメンタルヘルスサービスへのアクセスを改善し、ボグラ連盟がハンセン病当事者の全人的ケアの中心的役割を果たすことができるよう、団体の能力を強化することもプロジェクトの重要な要素でした。

目標達成のため、プロジェクトは3つのステップで行われました。第一段階では、すべての対象者がメンタルモチベーター(地域ボランティア)によるガイドラインの説明や抑うつ症状テストを受け、悩みを相談する機会を設けました。次の段階では、メンタルモチベーターが深刻なメンタルヘルス問題を抱えると判断した患者を、ボグラ連盟の事務所での専門家による構造化カウンセリングに繋ぎました。そして、さらに重篤な問題を抱えていると判断された場合には、専門の医療機関に紹介することとしました。

プロジェクトのフェーズ1終了時点で行った調査の結果、91%がメンタルモチベーターのサポートはメンタルヘルスに大変有益であったと回答し、73.7%がメンタルヘルス問題に関する知識が向上したと回答しました。

2024年度から実施されるフェーズ2では、フェーズ1で学んだ教訓に基づく改善を行います。特に、より重篤なケースや長期に亘る治療介入が必要なケースを扱えるようにするため、ボグラ連盟をさらに強化し、地域社会で継続的にメンタルヘルスのサポートができる団体に育てることを目指しています。

マインド・トゥ・ハート・プロジェクトにより、ハンセン病患者・回復者の心の健康は、社会的・経済的・身体的ウェルビーイングと相互に依存しており、メンタルヘルス問題を解決できる単一の介入策は存在せず、様々な介入が必要であることが明らかになりました。今後、ボグラ連盟がプロジェクトを持続可能にするための改善をリードすることで、マインド・トゥ・ハート・プロジェクトを長期に亘って地域の医療体制に組み込むことが可能になることが期待されます。

プロジェクトを通じた政府の保健・行政への働きかけの結果、首相から家を贈られたトホミナさん (ワヘドゥザマン・ポルゥさん(レプラ バングラデシュ)撮影)