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68号 大使メッセージ:墓に思う

先日、照りつける太陽の下、ルーマニア唯一のハンセン病施設であるティキレスティ療養所の墓地に立っていた。この療養所はアカシアとライラックの森に囲まれた谷にある。鳥のさえずりが聞こえていた。

100人以上がここで眠り、100の異なる物語が地に埋葬されている。私が過去何十年の間に訪れた他の多くの療養所と同じように、ティキレスティは社会からかけ離れたところにある。メインストリートから奥まったところにあり、人々の視界からも意識からも抜け落ちている。

ルーマニアの共産主義時代、ハンセン病病院は地図に載っていなかった。当局はハンセン病やその患者が存在することを認めなかった。

治療法が確立する前には、ハンセン病「問題」の解決は、患者をかき集めてティキレスティのような場所に隔離することだった。何の罪もないのに、彼らは他の人々から隔離され、何十年もの人生をそこで過ごすことを余儀なくされた。

現在は、多剤併用療法(MDT)がある。ハンセン病にかかった人が社会から追いやられることはなくなった。しかし、高齢の回復者が日本、台湾、マレーシア、ウクライナ、コロンビアやその他多くの療養所で今も暮らしている。そして科学が進歩したにも関わらず、誤解は人々の心に残っている。

以前にも述べたことがあるが、私は、ハンセン病回復者に対するスティグマ――国による隔離政策はその一部に過ぎない――は人類の負の遺産であると考えている。彼らが受けた苦しみは忘れられてはならない。しかし同時に、負の遺産には肯定的な側面も存在する。逆境や絶望の中でも強い生きる意志を持って暮らしていた患者・回復者がおり、また、博愛の心をもって支えた医療関係者も多くいた。

このような医療関係者のひとりに、ティキレスティ療養所の医長であるVasiliu医師がいる。彼は、将来的に病院の建物を資料館と記念館として残したいと考えている。ティキレスティのような場所は、我々の人類遺産である。私たちはこのような場所が持つ記憶――そして眠りについた人々の物語――が失われないようにしなければならない。

WHOハンセン病制圧大使 笹川 陽平

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MESSAGE: Thoughts from a Cemetery(墓に思う)

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