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第100号大使メッセージ: 私の旅はこれからも続く~第100号発行記念に寄せて

ウズベキスタン・クランタウのハンセン病療養施設で回復者の人達とのおしゃべりを楽しむ筆者。(2013年)

ハンセン病と闘う多くの関係者と情報を共有したいと考え、2003年4月にこのニュースレターが発行されて以来100号を迎えた。この間、私のハンセン病制圧のための考え方や世界各地で取り組むハンセン病制圧活動について報告してきた。現在、世界はコロナウィルス(COVID-19)によるパンデミックに直面しているが、医療関係者の懸命な努力はまさに称賛に値する。一日も早い終息を願っている。

私はハンセン病対策で世界120カ国余りを訪問したが、特に次の3点を重視してきた。1)現場を訪問し、様々な人たちの声を直接聴くことで、問題の所在を明らかにする、2)新聞、テレビ、ラジオ、SNSなどのメディアを活用して、ハンセン病に関する正しい知識を世の中の人たちに伝える、3)各国の大統領や首相などのリーダーと面談し、ハンセン病問題に積極的に取り組むよう説得する。

2003年、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)へのハンセン病をめぐる差別問題に関する働きかけを開始。

私のモットーは「知行合一」、すなわち知識と実践は常に対の関係になければならないということだ。書類を通じて得られる知識や情報は尊重するが、現場の最前線の状況を自らの目で確認することが、真の解決策を講じる近道となる。よって私は、これまで専門家が入ったことがない辺境地にも積極的に足を踏み入れるようにしてきた。そうすることで、私の声にいくばくかの説得力が加わり、多くの人たちが耳を傾けてくれると信じたからだ。

ハンセン病について説明し、協力を要請した現職・元職の大統領や首相は458人、大臣、次官、知事らを含めるとその数は数千人にものぼる。マラリヤ、結核、HIVなどと比較すると、ハンセン病の患者は圧倒的に少なく、常に国家指導者に陳情しないと予算が激減するからである。私の印象に残っているのは、力強く生き抜くハンセン病回復者の人たちとの出会いだ。物乞いをすること以外に選択肢がない、家族からも捨てられ長年一人で暮らしているなど、想像も出来ないくらい厳しい状況に置かれている人たちを私は世界各地で見てきた。しかし近年は、インド、インドネシア、ブラジル、エチオピアといった多くの国々で回復者自身が立ち上がり、組織化が進んでいる。彼らの言葉は私が千回話すよりもはるかに重く説得力がある。ハンセン病問題を前進させるためには、彼らの協力も大切である。

2019年9月、フィリピン・マニラにてハンセン病回復者団体のグローバルフォーラムを開催。参加者は一丸となって、ハンセン病は単なる病気の問題ではなく、人権の問題であるという事実を訴えました。

私は、ハンセン病制圧大使として、WHOが定めた数値目標である公衆衛生上の問題としての制圧(人口比1万人あたり1人未満の登録患者)を実現するために、各国政府と協力してきた。しかし、制圧の達成イコールハンセン病問題の解決という訳ではない。制圧というのは一つのマイルストーンであり、近年はその先の目標として「ハンセン病ゼロ」が掲げられるようになった。私は多くの人たちから、「ハンセン病ゼロ」の実現が本当に可能なのか尋ねられることがある。その際、私は「どこにゴールがあるのかはさして重要ではない。そこに向かって走り続けることが何よりも大切である。」と答えるようにしている。どんなに長いトンネルでも、走り続けることで先に光が見えてくる。大切なのは皆が努力を継続することであって、私の夢はハンセン病の回復者は無論のこと、様々な障がい者、マイノリティ、社会的差別を今も受けている弱者が、社会で共に生活できる包摂的な社会を作ることである。

私の旅はこれからも続く。私の代でハンセン病という病気やその患者・回復者に対する差別はゼロになるかどうかは分からない。しかし私は、それが実現することを信じて、今後もゴールに向かって全力で突き進んでいきたい。

WHOハンセン病制圧大使 笹川陽平

 

100号 PDF(英語版)

IN THIS ISSUE
Message:
「私の旅はこれからも続く ~ 第100号発行記念に寄せて」

100号記念特別インタビュー:
「どこにゴールがあるのかはさして重要ではない」笹川陽平WHOハンセン病制圧大使
Timeline:
Reviewing developments in leprosy over the course of 100 issues of the newsletter
Special Interview II:
Encouraging Signs, Alice Cruz, UN Special Rapporteur on leprosy
News: 
Leprosy and COVID-19
From the Editor