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2つの国からハンセン病を見つめる〜2017年度ハンセン病医療従事者フィリピン研修を終えて

2014年度にスタートしたハンセン病医療従事者フィリピン研修も4回目となり、今年は2017年12月6日から13日の8日間で、セブ島・クリオン島・ルソン島(マニラ)の3島を訪れ、フィリピンの療養所、病院、皮膚科クリニック、患者会、保健省で、治療やケア、研究や教育(医師の養成)、政策決定の場を視察しました。また、療養所に付随する資料館では、ハンセン病の歴史を保存する試みが活発に行われている様子も見ることができました。

今年度の参加者は、医療従事者のみに止まらず、ハンセン病資料館ご所属の方や、療養所の社会福祉士としての経験から療養所内の歴史の保存に関わる方が2名いらしており、医療面だけでなく、人類の遺産としてのハンセン病の歴史をいかに保存するにも焦点を当てた訪問となりました。非常に興味深かったのは、エバースレイ・チャイルズ療養所で、歴史保存を担当しているスーザンさんも、実は、もともとは社会福祉士でいらしたこと。「なぜ、ハンセン病の歴史を保存する役割を担うようになったのですか?」との問いに、「ここ(療養所)で出会った人が好きで、目の前にいる人々の歩んできた道を残したいとの思いがあった。すると、見えない糸に導かれるように、私の前に歴史保存の道が拓けて行った。私はただ、その自然の流れに従っているだけ」と。スーザンさんは、現在、おびただしい数のカルテの整理や、楽器や本など、残された品々がもつそれぞれの物語の編纂に尽力しています。

ご承知の通り、すでに日本ではハンセン病の新規発症例はほとんどなく、ハンセン病療養所に勤務する方であっても、急性期にあるハンセン病の症状に触れたご経験のある方はまれで、そもそものこの研修の出発点というのは、そんな日本のハンセン病医療従事者の方に、現在進行形の疾病としてハンセン病と対峙しているフィリピンの医療を体験していただくことでした。研修を受けた皮膚科クリニックでは、様々な病症をもつハンセン病の症例の紹介のために、お子さんからご老人まで、20名近い患者さんがわざわざやって来てくださっていました。症状を見せてくださっている間、うつむき、じっと一点を見つめる人、症例紹介が終わると、真夏の暑さだというのに、頭からすっぽりと目出し帽をかぶりそそくさと立ち去る人。また、患者会で出会った、顔にはっきりとハンセン病の斑紋のある、4ヶ月の赤ん坊を抱いた若い母親。ハンセン病を発症して、親兄弟からも絶縁されたと涙ながらに語る青年。市の保健所で投薬治療をほぼ終えたという少年は、ハンセン病による神経のダメージで、小指と薬指に障害が残っていました。研修に同行して私たちの滞在をサポートしてくれたアランさんは、今回訪問したホセ・レイエスメディカルセンターの患者会のハンセンズ・クラブの元会長で、現在はCLAP(Coalition of Leprosy Advocates in the Philippine/ フィリピンハンセン病回復者・支援者ネットワーク)の事務局として、積極的にハンセン病に苦しむ方々の支援をしていますが、折々に、ハンセン病を発症して、全く変わってしまった自身の人生について、体験を交えつつ語ってくれました。そんなフィリピンで出会った方一人一人の姿に、日本の療養所で普段接している入所者の方々の在りし日の姿を重ね、それはまるで現在と過去のパラレルワールドを体験しているような気がしたとは、表現は違えど、多くの参加者から聞かれた声でした。ご参加の方々の研修報告は、ただいま、報告書として取りまとめを進めていますが、アンケートに寄せられた参加者の方々の声の一部を抜粋でお届けして、事務局からのご報告の結びといたします。なお、フィリピン研修報告書は3月末頃、財団HPに公開予定です。

  • フィリピンの療養所を見学することで日本の40年~50年前の療養所の姿が想像出来ました。厳しい状況の中を乗り越えられてきた高齢化した入所者の方の残りの人生を充実させることができればと思いました。
  • なによりも各訪問先の皆様に暖かく迎え入れてくださり、丁寧に質疑に応じてくださったことに感謝申し上げたいです。その中でもクリオンがとても印象に残っています。日本のハンセン病療養所は子供がいないところが一部を除きほとんどですが、クリオンは隔離された方々の子孫が島民の半数以上を占めているとのことでした。隔離の島としての悲しい歴史だけでなく明るい島の歴史を残していくという言葉に未来を感じました。
  • 入所者様に対して改めて敬意をもって接することができます。ハンセン病の啓発活動を自分なんかがおこがましいと思っていましたが、この研修で学んだ事で今後啓発活動の必要性を感じ、少しはできるのではと思っています。
セブCLAPの事務所にて、回復者の方々と一緒に