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アジア・フィランソロピー会議2025

アジア地域における社会課題の解決に取り組む財団をはじめ、フィランソロピー分野の組織のトップを招聘し、その課題の解決に向け協力連携することを促進するため、日本財団が2022年にたちあげられたのが「アジア・フィランソロピー会議」です。

「フィランソロピー・・・聞いたことあるけど何?」と思われる方が多いかもしれません。あまりなじみのある言葉ではないですね、まだ。

フィランソロピーPhilanthropyの語源は、古代のギリシャ語 「philo(φίλος):愛する・友とする」と「anthrōpos(ἄνθρωπος):人間」が合体してできたphilanthrōpía(φιλανθρωπία)で、「人間を愛すること」、「人への思いやり」を意味しています。つまり、フィランソロピーは、人々の幸福や社会全体のよりよい未来のために私的資源(資金、時間・知識・影響力などなど)を活用して公共の利益のために貢献することを申します。が、ぶっちゃけて云いますと、お金を「寄付すること」や何か困っている人に「支援する」だけではなく、積極的に社会の課題を解決しようとする意志や行動です。教育、保健医療、貧困、環境、人権などが対象ですが、国や市町村また市場〈しじょう〉では見えない、行き届きにくい分野を支える活動です。

ちょっと格好をつけて申しますと、私ども、笹川保健財団が、保健医療や看護、プライマリー・ヘルスケア(PHC)活動を支援させていただいていることもフィランソロピー的活動の一部ですが、どちらかと云えば個々人や企業が行う社会貢献活動や長期的視野をもった「社会を良くする仕組みづくり」活動こそがフィランソロピーです。似たような言葉にチャリティcharityがありますが、これは目の前の困りごとに対してチャッチャチャとスピード感をもって支援することです。

本会議は、そのような活動を主導する各国の財団はじめ、アジアのフィラソロピーセクターのリーダーを一堂に集めて共同で解決策を見出すことを目的として開かれました。

第4回となる今会議は「不確実な世界情勢におけるフィランソロピーの役割」をメインテーマに、激動する国際情勢や格差拡大、社会分断、そして社会課題の複雑化や多層化が進む現代のフィランソロピーが果たせる役割、果たすべき責任と可能性をあらためて問い直すことを目的に、2025年12月4日、ホテルインターコンチネンタル東京ベイで開催されました。

私ども笹川保健財団は、ブレイクアウトセッション01「医療的ケア児・家族が安心して暮らせる地域にむけて」として、いわゆる医療的ケア児の支援の諸々な局面を発表させていただきました。(詳細はコチラ

医療技術が発展し、昔なら助からなかったような病気や障害、早産児や重度疾患を抱える新生児が助かり、在宅生活ができる時代になりました。2021年の「医療的ケア児支援法」施行で、自治体などではケア児とその家族に対する支援が「責務」と定められました。ケア児をめぐる体制整備は良いのですが、そのために必要な人材は不足していますし、「18才の壁」ともよばれる成人後の生活支援など現場レベルでは、まだまだ課題が山積し、その矢面にあるご家族の不安は尽きません。

私どもの分科会では、モデレーターの高野貴裕東京都議会議員の、ご自身も難病をかかえる障害児の父であり、また社会福祉士であるとの第一声からはじまりました。

モデレーターの高野議員
Lanaケア湘南の岡本さん

財団関連では「日本財団在宅看護センターネットワーク(以下ネットワーク)」の一員として2016年に、「在宅看護センターLanaケア湘南」を開業した岡本直美さんが最初に発表しました。岡本さんは、共に登壇下さった藤沢市真宗大谷派鵠沼山萬福寺副住職荒木貴弘師のご家族の在宅看護師です。荒木師のご令室は最初の出産時に娘の朝咲ちゃんともども、障害を残してしまわれました。仏の道を歩まれるお父上の貴弘師は、娘の誕生と同時に二人の医療的ケアを要する家族をもつことになりました。めでたいはずの子どもの誕生が、突如、妻と娘の介護と育児の始まりになった・・・岡本さんはそのご一家とともにあります。コロナ感染のために登壇を控えられたお母さまも障害がありますが、お父さまと一緒に壇上に登ってくれた朝咲ちゃんの挙動にすぐに反応しつつの発表でしたが、
モデレータの「やりがいがありますか?」との質問に、岡本さんは、何とお答えされたと思いますか?
「ここは、『ハイッ!』といわなければいけません、ね・・・」と日々のご苦労を偲ばせる回答で、会場を沸かせました。
時折、家族の5人・・・5匹でした!の猫ちゃんの写真もメールで送って下さる私のネコ友でもあります。

荒木副住職と朝咲ちゃん

次の発表は、ネットワークの中でも医療的ケア児専門家的立場となっている和歌山市の「一般社団法人幹・幹らんど」の丸山美智子さんです。丸山さんは、財団の研修を受ける以前から、医療的ケア児をお世話する目的で、小児科や障害児施設またその教育までを経験して、満を喫しての開業でした。和歌山市の拠点は、タタミの上で、障害を持った子どもたちがウロウロ、ゴロゴロしていますが、もちろん在宅看護事務所として、大人を拒否しているのではなく、0歳から100歳以上までの利用者をお世話しています。開業のきっかけは、医療的ケア児のお世話に社会的活動を断たれたかのようなご家族、特にお母さんたちが「仕事をしたい」と希望されていることから、在宅看護事務所と看護小規模多機能型居宅介護、通称カンタキをを開所したと云います。色々な公的研究的活動も広がっています。

幹の丸山さん

最後は、香川県医療的ケア児等支援センター「ソダテル」センター長の英早苗さん。2012年より医療保険、介護保険をベースにした訪問看護や通所事業を展開する施設のセンター長ですが、行政の委託を受けて就園就学中の医療的ケア児の支援や医療的ケア児等支援センターの運営、相談、人材育成などなど、香川県を横断する医療的ケアを必要とする人々・・・子どもだけに限らず医療的ケア児を受け入れる地域づくりに取り組んでこられました。ひょんな機会に存じ上げ、2025年6月に、丸亀市のモーターボートレース場での医療的ケア児のお遊び会(2025年7月1日ブログ参照)でもご指導いただきました、愛情深いけれどもガッツのある優しく、頼もしいミドル・・・英さんが触れると、どんな子ども、大人も身体が柔らかくなります。

モデレーターの高野さんも、荒木師も、障害ある家族を伴っての外出時、いつも「ご迷惑をおかけしているのでは・・・」と気にされていることを含め、壇上の5人(+朝咲ちゃん)の発表からは医療と福祉が連携することの重要さとともに、その仲介とでも言いましょうか、裏打ち的役割には看護が必須だと痛感しました。そして障害者への差別偏見への対策も含め「Leave No One Behind(誰一人取り残さない)」との国際的スローガンとともに100年も昔に、「地球は家族、人類はみな兄弟姉妹!」と喝破していた財団創設者 笹川良一翁を偲ぶ機会となりました。

ソダテルの英さん