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財団支援の研究論文が奨励賞を受賞

当財団では2014年から2021年まで、医療施設の内外を問わず看護の現場、教育、研究及び行政の場で、将来、指導者となりうる人材の育成を目的とし、国内外の大学院(修士課程・博士課程)へ進学する看護師の奨学金支援を行いました。これまでに30名(継続支援含む)の看護師が大学院に進学、専門的なスキルや知識を高め、保健分野を支える看護師リーダーを目指しています。

この度、山形大学大学院在学中の2018年度に奨学金支援を受けられた浅野志保氏より、 以下受賞の報告を受けましたので、お祝いをかねて、ここにご披露いたします。

2022年「日本家族看護学会研究奨励賞」

「がん終末期の妻と死別して独居になった高齢男性の新たな日常性構築プロセス」

~がん終末期の妻に先立たれ一人暮らしとなった高齢男性が、自分なりに安定した生活を送るまでのプロセスを明らかにしたもの~

一般社団法人日本家族看護学会の学会誌「家族看護学研究」の過去3年分の掲載論文より選出

本論文はコチラからご覧いただけます。

受賞のメッセージを寄せていただきましたのでご紹介させていただきます。

浅野志保氏

この度賞をいただいた論文は、がん終末期の妻に先立たれ、一人暮らしとなった高齢男性が、自分なりに安定した生活を送るまでのプロセスを明らかにしたものです。がん死亡率が上昇する60歳代は、家族周期における成熟期にあたり、子どもが独立し夫婦2人だけの生活になることが多い特徴があります。高齢男性の中には、60歳以降社会の第一線からの引退にも重なる時期に、がん終末期の妻に先立たれ、夫婦のみの世帯から独居への移行を余儀なくされる方もいらっしゃいます。そのため、がん終末期の妻と死別し独居になった高齢男性が、死別後の状況の変化に応じて新たな日常性を構築していくことは、生活者として健やかに老いる上で重要課題であります。また、今日的意義として、妻との死別を機に夫婦のみの世帯から独居へ移行しても、家族としてどのようにあり続けるかという視点での研究も必要と考え、本研究に取り組みました。
対象者は、緩和ケア病棟でがん終末期の妻を亡くし、死別後5ヶ月以上が経過した60~70歳代の男性であり、死別前は夫婦二人暮らしをされていた方々でした。研究手法は、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いました。分析の結果、思うようにできなくても自分が納得すればよいと試行錯誤しながらペースを掴んでいく生活立て直し行動と、別居家族との距離感を含めた周囲との関係性が、影響し合いながら移行していく様相を明らかにすることができました。
対象者の価値観に触れる語りは、新たな関係づくりを目的とした社会資源の投入や社会参加の促しだけが支援のあり方ではないのだと、柔軟な支援を模索することを可能にしてくださいました。同時に、いかなる時も励まし、温かくご指導をしてくださった山形大学大学院古瀬みどり先生の「対象者の方々のもてる力に着目しましょう」というメッセージは、この研究の本質を導いてくださいました。看護師は高齢男性の特性を踏まえた上で、高齢男性なりの社会に距離を置く長年のスタイル維持といった価値観や満足感と行動を支える介入や、高齢男性の築き上げてきた潜在的な力や周囲の支えであるもてる資源に着眼することにより、完結期への移行を支えると示唆を得ることができました。
コロナ禍も相俟って、終末期の家族支援の重要性が高まっています。今回の受賞を糧とし、研究成果を現場に還元できるよう、より一層精進していきたいと考えております。最後になりましたが、研究を行うにあたり貴財団より多大なるご支援を賜りましたこと、この場をお借りして深く御礼申し上げます。

         山形大学大学院医学系研究科看護学専攻博士後期課程 浅野志保