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ボートレース場併設の“あそび場”に医療的ケア児ときょうだい児を招待! 看護の力で地域に広げる支援の輪

ボートレース場に併設された遊び場「BOAT KIDS PARK Moooviまるがめ」で開催されたイベントの様子。会場は親子の笑顔であふれていた

取材:ささへるジャーナル編集部

子どもにとって、外遊びは心身の成長だけでなく、社会性を養う上でとても重要です。しかし、日常的にたんの吸引や、鼻のチューブからの栄養注入、人工呼吸器といった医療的ケアが必要な子ども(以下、医療的ケア児)の外遊びは、医療機器の管理や移動手段の難しさ、感染リスクの高さなどさまざまな問題を伴います。

また、医療的ケア児の兄弟姉妹は、親が介護やケアに時間が取られる中で、寂しさや孤独を感じたり、時にはヤングケアラー(※)として介護を担ったりすることもあります。

※「ヤングケアラー」とは、家族の介護やその他の日常生活上の世話を過度に行っている子ども・若者のこと

そのような背景の中、笹川保健財団は、医療的ケア児とそのきょうだい児(※)、家族を対象とした交流イベント(別タブで開く)を、2025年6月28日に「ボートレースまるがめ」(香川県・丸亀市)に併設された遊び場「BOAT KIDS PARK Mooovi(モーヴィ)まるがめ(以下、Moooviまるがめ)」(外部リンク)にて開催。子どもたちが安心して楽しめる空間を用意するとともに、家族同士が自然に交流できる機会を創出しました。

※「きょうだい児」とは、重い病気や、障害のある子どもの兄弟・姉妹のこと

「ボートレースまるがめ」に併設されたコミュニティ施設「COMMUNITY PARK グルーンまるがめ(以下、グルーンまるがめ)」。このパーク内に「Moooviまるがめ」がある

笹川保健財団と、「ボートレースまるがめ」「香川県健康福祉部障害福祉課」「香川県医療的ケア児等支援センター ソダテル(以下、ソダテル)」(外部リンク)との協働で開催された同イベントには、18組の家族を招待。当日は、子どもたちやお母さん、お父さんの大きな笑い声とキラキラした笑顔であふれていました。

この記事では、このイベントの様子とともに、主催者やボランティアスタッフ、参加家族への取材を通して、医療的ケア児とその家族をはじめ、誰もが安心して暮らせる地域づくりのヒントを探ります。

家族が抱える、外遊びに対するハードルを下げたい

取材当日、笹川保健財団の喜多悦子(きた・えつこ)会長は「今回、イベントが無事に開催できたのは、日頃から地元に根差した支援・活動を続けてきた方々が主催者として参画してくれたことが大きい」と語りました。

「ソダテル」で代表を務める英早苗(はなふさ・さなえ)さんは、喜多会長が話す、このイベントを牽引した主催者の一人。英さんにお話を伺いました。

「ソダテル」代表の英さん

――今回、医療的ケア児とその家族を対象としたイベントを企画した理由は何でしょうか?

英さん(以下、敬称略):多くの医療的ケア児とその家族が抱える、外遊びに対するハードルを少しでも下げたかったんです。普段はなかなか外で遊ぶことができない医療的ケア児ときょうだい児、その親御さんに少しでも楽しい時間を過ごしていただき、改めて外遊びの楽しさを実感していただきたいという思いがありました。

――なぜ、医療的ケア児やきょうだい児は、外遊びが難しいのでしょうか?

英:命を守る医療機器の管理が大変であることや、感染リスクの面はもちろん、外で遊ぶときに向けられる周りの目も、外遊びを難しくさせている要因の1つだと考えています。実際に子どもの酸素カニューレ(酸素を供給するチューブ)や気管切開チューブ(気道を確保するチューブ)が着いている姿を見て、心無い言葉をかけられ落ち込んでしまうご家族は少なくありません。

また高度な医療的ケアの技術が求められるほど、当然外出することが難しくなり、親御さんはそのきょうだい児もなかなか外へ遊びに連れて行くことができないという問題もあります。

――今回、イベントを貸し切り開催としたのは、医療的ケア児とそのご家族が安心・安全に遊べるようにするためだったのですね。

英:そうですね。もちろん、障害の有無にかかわらず、誰もが安心・安全に遊べる環境をつくることが理想です。

また、こうしたイベントは香川県の県庁所在地である高松市内で開催されることが多く、香川県三豊市や丸亀市といった西側で暮らすご家族からは「距離が遠く、子どものケアをしながら連れていくのは難しい」という声が届いていたんです。そういった方々に、気兼ねなく楽しい時間を過ごしていただきたいという思いもありました。

イベントに参加してくれた子どもと「何して遊ぼうか?」とコミュニケーションを交わす英さん(左から3人目)
 

ボートレース場を「地域に開かれた場所」「また来たいと思える場所」に

今回のイベントを主催する団体の1つであり、「Moooviまるがめ」を運営する「ボートレースまるがめ」のボートレース事業局に所属する大林諭(おおばやし・さとる)さんにもお話を伺いました。

大林さんは、どのような想いを抱いて、イベントに関わっているのでしょうか?

「ボートレースまるがめ」の大林さん

――はじめに、どのような経緯で、ボートレース場の敷地内に親子の遊び場をつくることになったのでしょうか?

大林さん(以下、敬称略):以前から「ボートレース場は、地域の方々にとって身近な場所になっているのか」という課題を抱えていました。街の中にあれば、必ず目に留まる施設であるにもかかわらず、利用する方は限られた方のみ。この現状を変えるべく、遊びの専門企業「ボーネルンド」(外部リンク)さんと手を組み、2023年5月に「Moooviまるがめ」をオープンしました。

――施設がオープンしてから、地域にどのような変化が起きたと感じていますか?

大林:ボートレース場に対するイメージが少しずつ変わってきたように感じています。従来は「ボートレース場=ギャンブル場」というイメージが定着していましたが、全国のボートレース場に遊び場が併設されるようになりつつあるいまは、老若男女、誰でも気軽に来られるレジャー施設という認識を持っていただけているのかなと感じています。

「Moooviまるがめ」は、子どもたちが安全に遊べるよう、遊具や壁、床はすべてやわらかい素材でできている。また、子どもの成長と遊びのサポートに関する研修を受けたプレイリーダーも常駐
 

――医療的ケア児と家族を対象としたイベントを開催した感想と、今後の展望についてお聞かせください。

大林:参加してくださった方々から「とても楽しい」という声をいただけたことが、何より励みになりました。改めて「Moooviまるがめ」をオープンして良かったと思っています。この経験を活かして、ぜひ他のボートレース場での開催を呼びかけていきたいと思うとともに、この場所でもまた今回のようなイベントが開催できるように取り組んでいきたいです。

イベント当日は、家族みんなで参加する家族が多く見られた
家族同士の交流も自然と生まれた

気兼ねなく楽しい時間を過ごすことができた

実際にイベントに参加したご家族からもお話を伺い、嬉しい声を聞かせいただきました。

――今回イベントに参加した率直な感想をお聞かせください

東田さん:今回のイベントは、医療的ケアが必要な子どもを持つママの会を通して知りました。「Moooviまるがめ」には数回遊びに来ていますが、普段より気兼ねなく楽しい時間を過ごせています。今回のようなイベントがあると「『Moooviまるがめ』ならまた遊びに行けるね」と思える気がします。

取材に応じてくれた東田さん

大村さん:イベントは、「ソダテル」の英さんから教えていただきました。子どもが広場で遊ぶことが大好きなので、とても楽しそうに動く姿を見ることができてとても嬉しいです。子どもとの遊びに慣れたボランティアの方々もいらっしゃる点も安心ですね。またぜひ参加したいです。

取材に応じてくれた大村さん

子どもたちの心躍る姿に感動、病院の実習では深められない学びがあった

ボランティアとして参加した看護師の皆さんにもお話を伺いました。日本財団在宅看護センター「みんなの看多機なないろ」(外部リンク)で代表を務める藤田裕子(ふじた・ゆうこ)さんは香川県三豊市で看護小規模多機能型居宅介護(※)を経営しています。

※「看護小規模多機能型居宅介護」とは、1つの事業所で「訪問看護」「訪問介護」「通い(デイサービス)」「泊まり(ショートステイ)」の4つのサービスを提供する施設のこと

「みんなの看多機なないろ」代表の藤田さん

――はじめに、ボランティアとして参加してみての感想をお聞かせください。

藤田さん(以下敬称略):子どもたちの表情がとにかく明るく、体だけでなく心も躍っている様子が見て取れて、その姿がとても印象的でした。子ども同士がたくさん声をかけ合い、遊ぶ姿はいつ見ても微笑ましいですね。

「Moooviまるがめ」は、子どもが楽しめるような仕掛けが多く、かつ安全面にも配慮された設計になっている点が素晴らしいと思いました。すごくいい施設で定期的に同様のイベントができたらいいなと思いました。

――イベント中、医療的ケア児とそのご家族をサポートするにあたって、心がけたことはありますか?

藤田:看護師として関わる以上、お母さまやお父さまがいま抱えている困り事や悩みに耳を傾けることを心がけました。子どもの年齢、性格によって悩みはさまざまであることに改めて気づくことができたと同時に、看護師として新たな学びを得られたと思います。

――今後、このイベントはどのように発展していってほしいと思いますか?

藤田:やはり定期的に、当たり前のように開催することができて、障害の有無にかかわらず楽しく遊べる場になっていってほしいと思います。その上で、今回のイベントは、とてもいいきっかけになったのではないでしょうか。また機会があれば参加したいです。

香川大学医学部看護科の皆さんも、ボランティアとして参加。看護学生ならではの視点で積極的に子どもたちと触れ合っていました。

取材に応じてくれた、看護科3年生の西山さん(左端)と中道さん(左から2番目)

――今回、ボランティアとして参加してみようと思った理由を教えてください。

中道:病棟実習でさまざまな疾患を抱えた患者さんと関わってきましたが、医療的ケア児やきょうだい児と関わる機会は少なかったんです。今回お話をいただいたとき、行くしかないと思い、参加を決意しました。

西山:私もこれまで、医療的ケア児やきょうだい児に関わったことがありませんでした。このイベントに参加して、遊んでいる最中のケアの内容や、子どもたちの日常に少しでも触れられることで、より深く看護について学べるのではないかと思いました。

――実際に医療的ケア児やご家族との関わりの中で、工夫したことはありますか?

中道:なるべく子どもたちと同じ目線で遊び、関わるように意識しました。「この積み木で一緒に遊ばない?」と積極的に話しかけるようにして、安心して遊んでもらえたらいいなと思って。

西山:中道さんの言う通り、きっと子どもの方から私たちに話しかけるのは難しいと思うんです。またせっかく話せても、私たちが敬語を使い続けると距離を感じてしまうかもしれないなと思ったので、フレンドリーな言葉遣いを意識しました。

――このイベントで得た学びを、今後の学生生活や卒業後にどう活かしていきたいですか?

中道:医療的ケア児への認知はまだ低く、それもあって世間からは「話しかけるのが怖い」「関わるのが怖い」と思われるケースが多いと聞きました。ただこのイベントに参加したことで、一緒に遊ぶ上で障害の有無は関係ないことが理解できました。

西山:看護は医療的ケアが必要な人だけではなく、その家族にも届けることが大事であると改めて感じました。残りの実習はもちろん、看護師になっても忘れないようにしたいと思います。

「Moooviまるがめ」の外にある遊具で遊ぶ親子
医療的ケア児の親御さんと言葉を交わす笹川保健財団・喜多会長

地域全体で医療的ケア児を育てていきたい。主催者が抱く看護の可能性

今回、丸亀市では初の試みとなった医療的ケア児とその家族を対象としたイベント。主催である「ソダテル」代表の英さんはどのような手応えを感じたのでしょう。再びお話を伺いました。

――イベントを終えて、率直な感想を教えてください。

英:普段見られない子どもと家族の一面を見ることができて、とても嬉しかったです。今回参加したご家族の中には普段から接する方も多いのですが、きっと次の訪問日は、今日の思い出話で花が咲くと思います。

また、今回ボランティアとして参加してくださった方々も、地域で医療的ケア児を育てる上での良き理解者になっていただけると確信しました。

――このイベントによって、地域における訪問看護師の重要性に気づいた人は多いと思います。英さんは、訪問看護という分野にどのような可能性を感じていますか?

英:まず言えることは、各家庭に訪問をして医療的ケアを行うことだけが訪問看護師の仕事ではないということです。実際に、全国では学校や保育園というさまざまな医療的ケア児のコミュニティーで訪問看護師が活躍しつつあり、活動の幅は広がっています。

特に医療的ケア児は、成長段階や個々の疾患によって必要な看護の力は異なるため、あらゆることに対応できる土壌づくりが欠かせません。訪問看護はその土壌づくりも担える存在だと考えています。

その土壌が固まれば、地域全体で医療的ケア児を育てられるようになるのではないでしょうか。

イベント終了後、帰宅する子どもたちを笑顔で見送る英さん(右端)

――今回のようなイベントを通して、医療的ケア児とその家族への関わり方について考える人もいると思います。そういった方々が、まずできることは何でしょうか。

英:医療的ケアを必要とする子育ての現状として、多くの家庭が自助努力で成り立っていることを知っていただきたいです。ただ、ずっと続く家族看護にも限界がありますから、もし周囲で見かけたお母さんやお父さんが疲れている顔をしていると感じたときは、「何かできることはありますか?」と声をかけるだけでも、元気をもらえる方は多いと思いますよ。

編集後記

取材時、「ソダテルさんが開催してくれたから安心して遊びに来られた」という声を多く耳にしました。こうしたイベントは、ただ開催するだけではなく、中心となる人が地元に根付いた活動をしているかどうかも重要になってくるのでしょう。

いつか障害の有無にかかわらず、誰もが楽しく安全に外遊びができるようになる日が来ることを願いつつ、今後も訪問看護師たちのチャレンジを応援していきたいと感じました。

撮影:十河英三郎

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