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公開講座「認知症と在宅看護」が問いかけたこと

2023年公開講座シリーズ第1弾として7月、「認知症と在宅看護」をテーマに、お二人の講師をお迎えし、5回のオンラインセミナーを開催しました。今回のテーマは、在宅看護ネットワークのメンバーからの「利用者にも多い認知症について学びたい」という要望を受けて決定し、専門医の先生方に講師をお願いしました。

第1回目は医療法人すずらん会たろうクリニック院長の内田直樹先生から、認知症についての基礎知識と共に、認知症を恐れて認知症になりたくないから予防しようと考えるよりも、正しく知って備えることが重要だと教えていただきました。認知症とは脳の機能が低下し暮らしに支障をきたした状態です。その最大のリスク因子は加齢、つまり高齢化が進めば自然と認知症になる人も増えるということです。

内田先生
わかりやすくテンポのよい解説で定評のある内田先生

10年後には日本人の5人に1人、2060年には4人に1人は認知症になると推計されているそうです。講座では、それほど身近な認知症について、過度に恐れるのではなく、健康な生活を意識すること、さらに誰でも認知症になりうるということを理解し、適切な支援ができるようになることの重要性が、いくつかの事例と共にわかりやすく紹介されました。

講座資料1

第2回、第3回の講義を担当したのは相模原市認知症疾患医療センターセンター長の大石智先生。大石先生からも「認知症があるということは特別なことではないのに社会(私たち)は認知症について知らないこと、誤解していることが多すぎる」と、認知症という概念や当事者へのケアの歴史にも触れながら興味深いお話をいただきました。

特に第3回講義で大石先生が強調されていたことは、「医者やケアをする人が、当事者の自尊心を傷つけ、孤立を強める態度をとったり、そのような言葉をかけてはいないか」ということでした。

大石先生
第2回、3回の講師を務めていただいた大石先生

認知機能が異なる人に対し、「理解できないに違いない」という決めつけ(スティグマ)をもとに声をかけてはいなかったかという先生ご自身の振り返りを交え、「スティグマを自覚すると言葉や態度が変わるはず」と説く大石先生の言葉に、ドキッとされた参加者の方も多かったのではないでしょうか。「最近どうですか」といった答えづらい質問ではなく、その人が答えられそうなことを聞いて、その人と対話をすることが何より大事なのだと気づかされました。

講座資料2 スティグマ

第4回、第5回の内田先生の講義では、障害の評価や精神症状との関連、認知症のある人の意思決定支援のあり方など、より専門的な内容が取り上げられました。

講座資料3

参加者からは毎回、多くの質問や感想が寄せられました。一部をご紹介します。

講義全体を通して改めて認知症に対する考え方が変わりました。また、public stigmaを自分自身が持っていたと再認識しました。

病院で働きながら認知症の方々と関わることは多いため、私自身認知症をよく知っているようなつもりになっていましたが、実際には理解できていないことが多く、患者さんの様々な症状を認知症という言葉で片付けていたと気付かされました。医療者の誤った対応は、彼らの自尊心を傷つけ、行動・心理症状の悪化させる大きな要因となることを忘れてはいけないと思いました。対応の仕方が彼らに悪影響を及ぼす一方で、薬では解決できない認知症の方々の症状を緩和することができるのも関わり方であり、日常的に認知症の方と関わることの多い医療介護従事者から適切な関わり方を発信していくべきだと感じます。

高齢化が進む日本社会にはAdvanced Care Planning (ACP)の効果的な利用が必要不可欠だと思っています。意思決定支援と言うと、患者がどうやって亡くなりたいかを考える、死の取り組みだと思われがちですが、遺族の後悔や不安を軽減し、今後肯定的な考えを持って生きていくための生の取り組みだと思います。

ちゃんとしたACPをしてグリーフケアへ繋げていきたい思いで病棟勤務から訪問看護へ転職したので今後も地域でのコミュニティなどへ積極的に出向いていきたいと思います。

認知症の講義ではありましたが、加齢や身体の障がいなども含めて、利用者はどのような生活を望んでいるのか、日頃から話ができる関係作りが大切だと思いました。

5回の講義を通じ、認知症について多角的に学ぶことができた今回の公開講座シリーズにおいて、内田先生、大石先生ともに多くの参考資料を示してくださったので、最後にそれらをまとめてご紹介します。

公開講座シリーズは第2弾も企画中。次回もどうぞお楽しみに。

参考資料一覧

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【学会、組織】

【ガイドライン】