JP / EN

News 新着情報

2022年度助成事業報告 : ダライラマ・笹川奨学金事業

本事業は2014年にダライラマ14世と笹川陽平日本財団会長がインドのコロニーを訪問し、会談したことがきっかけとなり、翌年にダライラマ事務所と日本財団のマッチングファンドとして、ハンセン病コロニーに住む若い学生のための教育支援として始まりました。ササカワ・インド・ハンセン病財団(以下、S-ILF)が事務局となり実施しており、2020年より日本財団から笹川保健財団に移管されました。2022年度の奨学生を含めると、これまでに178名の学生が大学の学位取得の機会を得ています。今年はその8年目となります。

S-ILFのプログラムマネージャーのチャル・ガバ氏は次のように述べます。「ハンセン病コロニー出身で「12学年」(高等部)を修了するほとんどの学生にとって、家庭の経済状況を考えると、大学で専門教育を受ける選択肢はありません。この奨学金は、ハンセン病回復者とその子供達がそれぞれの分野でプロフェッショナルに活躍し、家族が直面している貧困と孤立の連鎖を断ち切る可能性を引き出すものです」

プロジェクトはまず、毎年、州レベルのワークショップでの奨学金制度の周知から始まります。ハンセン病当事者やその家族である学生にS-ILFより教育プログラムの紹介や、適切なキャリア相談会を実施し、取得可能な学士号や修士号のコースや、学生が奨学金に応募できるよう指導しています。選考課程には、名門大学の学識経験者とのオンライン面接が含まれます。2022年度は、インド全土の18州から169名の応募がありました。最終的に、8州から合計27名の学生が選ばれました。新しく選ばれた奨学生に奨学金が支給されると共に、プロジェクトスタッフによるきめ細かなフォローアップがあります。さらに、本奨学金事業のネットワークのメンバーとして、他の奨学生や卒業生との交流の機会が与えられるなど、さまざまな支援システムが提供されます。

S-ILFによる奨学金事業に関する告知のポスター (インド、チャッティースガル州チャンパ)
奨学金に関する州レベルでのワークショップの開催(インド、テランガナ州ハイデラバード、2023年2月)

今年度選ばれた27名の奨学生の専門分野は、法学士、医療検査技術・検眼学士、薬学士、コンピューター科学技術学士など多岐にわたります。他にも、ホスピタリティ・ケータリングマネジメントを専攻した学生が3人、ラジオ・イメージング技術やX線ラジオグラフィーなどの分野に進んだ学生、工学、電気工学を専攻した学生もいます。さらに、3人の学生が、経営学修士や医療微生物学修士など、修士号の取得を目指します。

本奨学金事業において、検眼学の学士号を取得したアンジャナ・ケンワットさん
アーヤ・カリンディさんはインドールのサヤイホテルで働いており、現在ホテルマネージメントコースを専攻している
アナミカ・マハトさんはウッタルカンド州ローキーで農業の学士号取得を目指している

27名の奨学生を対象としたアンケート調査実施

S-ILFは、奨学金受給者の社会経済的背景を把握するため、奨学金受給者を対象にアンケート調査を実施しました。

27名の学生のうち、17名が男性(63%)、10名が女性(37%)でした。奨学生の出身地は8つの州にまたがっており、中でも最も奨学生が多かったのはジャルカンド州で9名でした。

奨学生の平均年齢は19.9歳、最年少は17歳、最年長は24歳でした。父親がハンセン病に罹患している人は37%、母親が罹患している人は、同様に37%という結果になりました。両親が共に罹患している人は15%でした。

奨学生の約3分の1が経済的に恵まれない家庭の出身であり、充分な教育を受けていない親が経済的困難に直面しているケースが見受けられました。大多数の親は、低収入のため子供の教育費の貯蓄が叶わず、また外部に経済的援助を求めることもありませんでした。アンケート調査の結果、本奨学金事業が、ハンセン病当事者世帯の子どもたちが教育を受け、将来の見通しを向上させる上で、非常に重要な役割を担っていることが浮き彫りになりました。

また、この調査では、ハンセン病当事者である親も奨学生も、専門的知識や学位を取得することが、将来の就職や人生のステップアップに必要であると認識していたにも関わらず、高等教育に関する情報へのアクセス不足により、専門的なコースについての認識が乏しいことも明らかになりました。

多くの奨学生が、家族にハンセン病患者がいることで生きづらさを感じており、自己肯定感の低さが示しています。しかし、奨学生も両親も、ハンセン病にまつわる誤った神話や情報を払拭し、前向きに人生を送りたいと願っています。

この奨学金事業は、ハンセン病に苦しむ家庭の子どもたちの人生とキャリアに大きな影響を与える可能性を秘めています。貧困の連鎖を断ち切り、自分自身と地域社会のために明るい未来を築くチャンスを提供します。