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看護フェロー熊本フィールド視察研修

熊本県蒲島知事(中央右)、木村副知事(右から2番目)とフェローたち

海外留学を目指す日本の看護師たちへの留学前研修として、2022年度は福島・飯舘村を訪れたSasakawa看護フェロー地域フィールド視察研修。今年は熊本県で実施しました。

保健分野で特筆すべき歴史のある熊本において、水俣病、ハンセン病各資料館訪問を通じて社会的な問題を含む疾病について学び、考察すること、また、在宅看護の現場を視察し、事業者や利用者との議論を通じて、日本の地域の状況、病院看護との違い等について理解を深めることを今回の目的とし、10月22日~24日、6名のフェローと訪問しました。主なプログラムは以下のとおり。

メインは2日目の在宅看護の現場視察です。県内に4か所ある日本財団在宅看護センター事業所のうち、熊本市の「しろ」(管理者:白藤尚美氏)、益城町の「たのも」(管理者:中原貴子氏)の2事業所に調整いただき、フェローたちは4つのグループに分かれて、それぞれの利用者宅を訪問しました。

参加したフェローは病棟勤務の現役看護師のほか、大学に所属しているフェローもおりましたが、多くは在宅看護の現場は看護大学での実習以来とのこと。医ケア児、独居高齢者など在宅看護の多様な現場を視察することができました。

公衆衛生大学院への留学を目指す五木田さんは、大学卒業後企業で働いていたものの、その後看護師を志し、看護大学に入り直し、現在病棟勤務をしている異色の経歴の持ち主。夜勤明けにも関わらず、事前に熊本の状況などについて勉強した上で参加してくれました。東京出身の五木田さん、都市部と比較して、熊本では医療機関の選択肢が限られており、患者が自ら主体的にどのような医療を受けるかを選択しにくい状況にあるのではないかと考察しました。患者の経済的な状況や家族関係など社会的な背景に対する自身の洞察力が不足していたと反省しつつ、自らが公衆衛生大学院で何を学びたいのかが明らかになったと振り返りました。

しろ訪問看護ステーション前の五木田さん(右)と川浪さん(左)

「しろ」の看護師らによる訪問看護を視察中。利用者は熊本震災で被害の大きかった益城町で、震災後立て替えた住宅に家族と住んでいる。

水俣病とハンセン病資料館では、それぞれの疾患と当時の社会背景、患者やその家族に対する差別や偏見の歴史について学びました。

汚染海域をきれいにした後埋め立てられ、現在はエコパークとして市民に親しまれる水俣湾周辺。管理は県と環境省が管轄している。
菊池恵楓園自治会にて、志村自治会長(前列右)と太田副会長(後列右から2人目)と

今年度フェローになり、初めての研修に参加した富増さんは、展示を見ながら、新型コロナウイルスの流行が始まった頃と同じ違和感をもったと振り返ります。

彼女の地元で最初のコロナ患者となった人はその地に住めなくなってしまったそうです。富増さんは看護師として、ウイルス拡大予防のために患者を隔離をするのはある程度仕方がないと考える一方で、その場所に住めなくなるほど周囲からの風当たりが厳しくなることについて疑問を感じてきました。同行した会長の喜多の、「感染症である以上、一定の隔離は必要、やむを得ない。ただし、ハンセン病、水俣病、どちらのケースともに言えることは、病原菌がわかった、感染の理由がわかった後も隔離や差別が続いたことで、そのことが問題だ」という話を聞き、腑に落ちたと話していました。

俣病(左)とハンセン病(右)には患者・家族への偏見・差別や国、会社の責任問題など共通点も多い。

今回の参加者の多くは今年の大学院出願を控えており、合格すれば来年から留学することになります。そのためか、視察中も、実際に自分が追究したいと考えている事柄と関連して考察することができている印象でした。

また滞在中、プログラム終了後は2日間ともフェローたちが自主的に集まり、夜遅くまで互いの大学院出願書類のエッセイを見せ合って意見交換するなど、フェロー同士まさに「切磋琢磨」している様子が見られ、財団が介入しなくても、同じ目標をもつ看護職同士だからこそのフェローネットワークが自走し始めていることを感じました。

活動修了後はホテルのロビーで反省会
熊本県庁前でフェローの左から富増さん、相吉さん、寺田さんと

地域研修は来年度も年に2回程度を企画予定。なるべく多くのフェローが留学前に経験できるよう実施していきます。