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2022年度助成事業報告: ナイジェリアのハンセン病回復者の音楽遺産の保存

2019年、笹川保健財団はハンセン病に関する歴史保存事業の方針を検討するため、専門家を招きコンサルテーション会議を開催しました。その際、専門家より、アフリカの歴史保存においてナイジェリアのウズアコリには、保存すべき建物や文化遺産、また、科学的研究が豊富にあるとの助言を受け、2021年に音楽遺産の保存である本助成事業を開始しました。

本事業は、ハンセン病回復者のイコリ・ハーコート・ホワイト氏(1905-1977)の音楽遺産を保存する事業で、笹川保健財団の支援を受けたドイツハンセン病・結核救援会とのパートナーシップのもと、アチニブ・ハーコート・ホワイト合唱連盟によって行われました。

プロジェクトの初年度(2021年9月から2022年3月)では、「イコリ・ハーコート・ホワイト、人生と生活へのメッセージ50選 第1巻 (Messages for Life and Living in 50 Select Songs by Sir Ikoli Harcout Whyte)」が出版されました。本年度(2022年4月~2023年3月)は、その第2巻の制作が行われました。

ホワイト氏は14歳の時にハンセン病を患い、ナイジェリア東部のウズアコリ・ハンセン病センターに移り住みました。ハンセン病の療養中に作曲の才能を開花させ、ナイジェリアを代表する教会合唱曲の作曲家として活躍しました。

合唱連盟の創設者であるアチニブ・カヌ教授によると、ホワイト氏自身は300曲以上の楽曲を作成したと考えられているとのことですが、1967年から1970年にかけてのナイジェリアの内戦と、ホワイト氏が1977年5月に交通事故で急逝した影響により、その作品群はナイジェリア国内に散逸してしまいました。

そのため、このプロジェクトでは、まず、ホワイト氏の楽譜を収集することから始まり、その後、歌詞をイボ語から英語に翻訳し、メロディをトニック・ソルファ記譜法から五線譜に書き起こす作業となりました。歌詞を英訳し、メロディを五線譜にすることで、この音楽遺産を世界中の人々と分かち合い、次世代に楽しんでもらうことが可能となりました。

本事業のリーダーを担ったカヌ教授は、若くしてホワイト氏に出会い、触発されて音楽の道を志しました。奨学金を得てドイツで音楽学を学び、ナイジェリアに帰国後はナイジェリア大学で教鞭をとりました。同時に、ホワイト氏の楽曲のCDを制作するなど音楽の保存に力を注ぎました。

現在82歳のカヌ教授は、ホワイト氏の作品をヨーロッパの著名な作曲家の作品と比較し、その素晴らしさを実感しています。一方で、ホワイト氏の作品群が、イボ語の歌詞で書かれ、今日の音楽家にとって馴染みのない記譜法が用いられているため、音楽の価値をより広い世界に伝えることの難しさを指摘しています。

本事業は、カヌ教授の下、合唱連盟のメンバーの熱意と献身的な活動で、2年をかけて、ホワイト氏の楽曲合計100曲を2巻の歌集として出版することができました。第2巻の出版後の2023年春に予定されていた記念コンサートは、現地の治安情勢を考慮して延期され、2023年11月に開催されました。

2023年3月に出版された、『イコリ・ハーコート・ホワイト、人生と生活へのメッセージ 50選 第2巻』の表紙
合唱連盟のメンバーが歌詞をイボ語から英語に翻訳