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2023年度ハンセン病対策助成事業報告:ダライラマ・笹川奨学金、インドのハンセン病コロニーの若者を支援

ダライラマ・笹川奨学金は、2015年に設立され、インドのハンセン病回復者とその家族が定住しているコロニーに住む若者たちが専門的な職業に就くための高等教育を受けることを支援しています。奨学金受給者は「スカラー(学者の意)」と呼ばれますが、法律、薬学、コンピュータサイエンス、ホスピタリティなどの職業に結びつく分野の「専門コース」への入学を対象としています。運営組織である笹川インドハンセン病財団(以下、S-ILF)は、この奨学金を「エンパワーメントのためのスキル養成プログラム」と呼んでいます。実用性を重視し、若者たちが高収入で社会的に尊敬される職を得て、家族のために環境を改善し、コミュニティに希望を与えることを目指しています。

2023年には、笹川保健財団の支援により、S-ILFは8つの州と1つの連邦直轄地から26名の学生に奨学金を提供しました。この26名の学生のうち、14名が男性(54%)、12名が女性(46%)でした。技術学士号は最も人気があり、学生の3分の1以上(26名中10名)がこのコースを選択しました。6名の学生が修士課程の支援を受けており、奨学金プログラム開始以来、一番多くの学生が大学院レベルの学位を目指しました。

受給者に対する調査では、ハンセン病コロニーの若者が高等教育への参加に向けて多くの障害を克服しなければならないことが明らかになりました。低収入という明白な障害に加えて、学生には、本来であれば利用可能な進路に関する指導を受ける機会が不足しています。ハンセン病に関連するスティグマや差別の経験は自尊心に悪影響を及ぼし、若者たちが自分の背景を共有することに対してためらいを感じることもあります。奨学金プログラムによる財政的支援やメンタリングがあっても、一部の学生はコースを完了できないことがあります。

今回、S-ILFの協力により、ハンセン病が依然として蔓延しているインド東部ジャルカンド州の3名の奨学生のストーリーをご紹介します。チャンス、資源、努力、そして少しの幸運が結びついたとき、ハンセン病コロニーの若者がどのような成果を達成できるかをご覧ください。

サンジャイ・クマール・カリンディさん

2017-2019年 電気工学ディプロマ取得

サンジャイ・カルンディさんは、ジャルカンド州ダンバードにあるラカルカハンセン病コロニーに住んでいます。幼少期から家族の収入に貢献しており、配給所やインターネットカフェで非常に低い報酬で働いていました。父親はハンセン病回復者で、日雇い労働者として働いていました。彼の家族には、彼を高等教育に進ませるだけの十分なお金がありませんでした。

将来を心配したサンジャイさんは、さまざまな選択肢を模索し、奨学金プログラムにたどり着き、電気工学の学位を取得できる奨学生に選ばれました。仕事を始めた当初は多くの困難に直面しましたが、時間が経つにつれて、サンジャイさんの人生は完全に変わりました。

献身と誠実さによって、サンジャイさんと家族はコロニーの他の住民から尊敬を得ました。サンジャイさんは十分な収入を得るようになり、父親は仕事を辞めることができ、家族は一日に三食を確保できるようになりました。また、快適な家具や、テレビ、携帯電話などを購入することもできました。糖尿病を患っている母親の薬も買うことができました。

現在、コロニーの子供たちはサンジャイさんをロールモデルとして尊敬しています。サンジャイさんは勉強するように子供たちを励まし、親たちには子供たちにお金を稼がせるために働かせるのではなく、学校に送り出すように促しています。また、将来を心配している若者たちに対して指導やキャリアカウンセリングを提供し、奨学金に応募するように励ましています。

アニル・マハトさん

2017-2019年 教育学士

アニル・マハトさんは、ジャルカンド州ダンバードのジャーリアにあるアシャディープハンセン病コロニーで生まれました。ハンセン病にかかった父親は、アニルさんと彼の3人の兄弟姉妹を養うのに苦労しました。ハンセン病によるスティグマや差別により社会的にも孤立し、家族の困難はさらに増大しました。

アニルさんは技術学位を取得したいと考えていましたが、経済的理由からその大志を諦めました。しかし、高校を卒業した後、奨学金プログラムについて知り、教育学士コースに選ばれました。彼はジャルカンド州ジャムシェドプルにあるロヨラ・カレッジでコースを無事に修了しました。

アニルさんの最初の仕事は、隣の州ビハールにあるアーシュリン・コンベント英語中等学校での初等教育の数学教師でした。彼の給料は、父親が姉妹の結婚のために借りたローンを返済し、家を改修するのに十分でした。

現在、アニルさんは家族の住まいの近くにあるダンバードの学校で数学を教えています。教員資格の向上を目指し、遠隔学習プログラムを利用して修士号の取得にも取り組んでいます。

アニルさんはコロニーのロールモデルとなっています。学生がキャリアや進学先に迷ったときにカウンセリングを提供することで知られています。また、若い学生たちにもS-ILFが支援する奨学金に応募するように勧めています。

ラルフ・マラカーさん

2017-2021年 ホテル経営・ケータリング技術学士

ラフル・マラカーさんは、ジャルカンド州ダンバードにあるアシャ・ヴィハールハンセン病コロニーの出身です。彼は三兄弟の長男です。ハンセン病にかかり、正式な教育や職業訓練を受けていない父親は、スクラップビジネスでわずかな収入を得ていました。スティグマと差別は家族全員に影響を及ぼしていました。

ラフルさんは当初、インド陸軍に入隊することを目指していましたが、事故で手を負傷したため、この夢を諦めざるを得ませんでした。代わりに、スクラップビジネスに参加することを考えていました。しかし、S-ILFが提供する奨学金について聞き、ホスピタリティ業界の専門コースに見事に合格しました。ラフルさんはクラスで2位を獲得し、マレーシアの国際ホテルチェーンでの6ヶ月間のインターンシップの機会を得ました。ラフルさんの国際的なキャリアはその後も続き、オマーンの空港でバリスタ兼給仕主任として働き、アメリカに拠点を置くクルーズラインのスチュワードとしても勤務しました。現在は米ドルで収入を得ています。

ラフルさんの父親は最近大きな手術を受け、働くことができなくなりました。ラフルさんは家族の唯一の収入源となりましたが、彼の給料で家族全員の生活費を賄うことができています。ラフルさんは今、大きな夢を抱いており、将来的には自分のホテルチェーンを開業したいと考えています。また、自分と同じような支援を受けて夢を実現できる子供たちが増えることを心から願っています。

対象州/連邦直轄地の拡大

ダライラマ・奨学金プログラムの初年度である2015-16年度には、ウッタル・プラデーシュ州、オリッサ州、ビハール州、デリーの3州1連邦直轄地から14人の学生が支援を受けました。それ以来、このプログラムは徐々に拡大しています。2023年度には、アンドラ・プラデシュ州、ウッタル・プラデシュ州、オディシャ州、ジャールカンド州、チャッティースガル州、テランガナ州、西ベンガル州、ビハール州、マディヤ・プラデシュ州、マハラシュトラ州が対象となりました。これらの10州1連邦直轄地は、インドの国家ハンセン病制圧プログラム(NLEP)が人口10,000人あたりの有病率が0.5以上と特定した州/連邦直轄地に該当します。有病率0.5以上でまだ対象となっていないのは、チャンディガル州とダードラ・ナガル・ハヴェーリーの2つの州/連邦直轄地(有病率1.4および1.0)のみです。

インドのハンセン病回復者とその家族が定住しているコロニーは、有病率が低い州も含めてインド全国に存在します。ハンセン病患者・回復者とその家族に対するスティグマや差別が無くならない限り、S-ILFはすべての子供が孤立と貧困から抜け出し、専門職としてのキャリアを築く道を見出せるよう、奨学金の支給対象州を拡大していきたいと考えています。

現在、ダライラマ・笹川奨学金はハンセン病回復者とその家族が定住しているコロニーに住む中等学校卒業生を対象に、以下の10州および1つの連邦直轄地で提供されています。
アンドラ・プラデシュ州、ウッタル・プラデシュ州、オディシャ州、ジャールカンド州、チャッティースガル州、テランガナ州、西ベンガル州、ビハール州、マディヤ・プラデシュ州、マハラシュトラ州、デリー(五十音順)(地図上では薄い赤で表示)。
「インドの州および連邦直轄地の行政地図」Maximilian Dörrbecker(Chumwa)による作品、CC BY-SA 2.5、Wikimedia Commons経由でhttps://commons.wikimedia.org/wiki/File:India_-_administrative_map.png(2024年4月14日アクセス)、Avinash GurungによってWHOハンセン病制圧大使ブリティン用に改編