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WHOと日本財団/笹川保健財団のパートナーシップ50周年記念特集 医療問題・社会問題としてのハンセン病

1995年から1999年の5年間、日本財団(TNF)は毎年1,000万米ドルを世界保健機関(WHO)に提供し、ハンセン病患者に対して多剤併用療法(MDT)を無償で提供する取り組みを支援しました。日本財団会長の笹川陽平氏と、日本財団の関連団体である笹川保健財団(SHF)は、多剤併用療法の普及によって、公衆衛生上の問題としてハンセン病が制圧されると同時に、「ハンセン病は治癒可能な病気」であるというイメージが広まることを期待していました。しかし、偏見と差別は依然として根強く残り、それが治療の障壁となるだけでなく、治癒しても患者が元の生活を取り戻すことはありませんでした。

そこで、2003年、笹川陽平氏は、ハンセン病への偏見と差別を人権問題として捉え、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)との協議を開始しました。この働きかけは、最終的に、2010年の国連総会で、各国の政府等に対し「ハンセン病患者・回復者とその家族に対する差別撤廃のための原則及びガイドライン」に十分配慮することを促した決議の全会一致での採択へとつながりました。

本記事では、2025年のWHOと日本財団/笹川保健財団のパートナーシップ50周年を記念して、この「原則及びガイドライン」を起草した法律の専門家、坂元茂樹教授をお招きし、国連総会での決議に至るまでの7年間のプロセスを振り返っていただきました。

WHOの健康の定義—「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」—という視点に立てば、ハンセン病当事者の健康は、彼らの社会的包摂を支える社会の変革にかかっています。TNF/SHFは、今後もWHOや他のパートナーと協力し、医療面と社会面の両面からハンセン病問題に取り組んでいきます。

ハンセン病患者に対する差別が国連内で人権問題として認識されるようになったいきさつとは

坂元 茂樹
元国連人権理事会諮問委員(2008年~2013年)
神戸大学名誉教授

専門は国際法。国連人権理事会諮問委員会委員として、「ハンセン病患者・回復者とその家族に対する差別撤廃のための原則及びガイドライン」の起草を主導。

2003年7月2日、笹川陽平氏は、当時の国連人権高等弁務官代理であったバートランド・ラムチャラン氏と会談し、ハンセン病患者・回復者とその家族に対する差別を深刻な人権問題として認識するよう働きかけを行いました。それまで、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)では、ハンセン病に関連する偏見や差別が人権問題として正式に議論されたことはなく、ましてや国連人権委員会(2006年に国連人権理事会に改編)で取り上げられることもありませんでした。しかし、笹川氏の働きかけにより、OHCHRはこの問題を認識し、後にハンセン病差別に関する決議の採択に向けて協力を行いました。

2008年6月12日、国連人権理事会は日本を中心に59か国が共同提案した決議8/13を採択しました。この決議は、ハンセン病が単なる医療や健康の問題にとどまらず、病気への差別が深刻な人権侵害を引き起こす可能性のある問題であることを認め、各国政府に対し、ハンセン病患者・回復者とその家族に対するあらゆる種類の差別を撤廃するための具体的な措置を講じることを求めました。また、OHCHRには、ハンセン病への差別を人権教育および啓発活動の重要課題として位置付け、各国政府が差別解消のために講じた措置に関する情報を収集するよう要請しました。

この決議の採択後、理事会は新たに設立したシンクタンクである国連人権理事会諮問委員会に、ハンセン病患者・回復者とその家族に対する差別をなくすためのガイドラインの策定を委託しました。2008年8月に開催された諮問委員会の初会合で、私は「ハンセン病患者・回復者とその家族に対する差別撤廃のための原則及びガイドライン」の草案を作成するよう指名されました。

当時、その2年も前の2006年12月に採択された障害者権利条約の前文は、障害に対する「社会的アプローチ」を採用していることで知られており、「障害は機能障害を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用であって、これらの者が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずる」と認識されていました。私も原則及びガイドラインのワーキングペーパーで、ハンセン病患者・回復者とその家族に対する差別を排除するには、同様に社会的アプローチが必要であると述べ、このアプローチに基づいた草案を諮問委員会に提出しました。その草案は2010年8月2日から6日に開催された第5回会合で採択されました。

この最終版の「原則及びガイドライン」の草案は人権理事会に提出され、約1か月後の2010年9月30日、理事会は決議15/10を採択し、「原則及びガイドライン」を公式に承認しました。この決議は、OHCHRに対し「原則及びガイドライン」の普及を求め、総会に対してもこの問題を検討するよう要請しました。数か月後の2010年12月21日、総会は決議65/215を全会一致で採択し、ハンセン病患者・回復者とその家族が法の下ですべての人権と基本的自由を享受する権利を有することを再確認し、すべての政府および関連機関に対して、「原則及びガイドライン」を政策や措置、活動の策定および実施において十分に考慮するよう奨励しました。

この総会による「原則及びガイドライン」を支持する決議の採択は、笹川氏の情熱的な取り組みなしには実現し得ませんでした。ハンセン病患者・回復者とその家族は世界中で疎外され、無視されて続けてきました。笹川氏の努力により、国連システム内でこの差別問題に取り組む道が開かれました。様々な決議により、彼らが人権を有することが明確にされ、「原則及びガイドライン」は各国政府や関係機関がこれらの権利を確保するために取るべき行動を説明しています。「原則及びガイドライン」の起草者として、ハンセン病制圧大使として各国を訪問される笹川氏の活動を通じて、この枠組みへの関心がさらに高まり、ハンセン病患者・回復者とその家族に対する偏見や差別の根本的な社会的要因が解消されることを期待しています。