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「看護師が社会を変える」在宅看護師の育成

笹川保健財団が実施する「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業に参加し、在宅看護センターを営む看護師の皆さんと、
笹川保健財団の喜多悦子会長(右から2番目)

取材:ささへるジャーナル編集部

超高齢社会に突入した日本。国民医療費の総額は毎年1兆円を超えるペースで増え続け、2023年度は前年を2.9パーセント上回る47.3兆円と、過去最高を更新しました。

医療環境において、世代間格差、地域格差が広がる中、「いつでも念のため病院を受診する」ことが難しくなってきているのが現状。安心して生活することができる地域づくり、療養の場を確保することが早急の課題となっています。

そのような中、笹川保健財団では、看護師を「医療」「保健」分野の活動だけでなく「生活」支援に関与すべき、地域住民に最も身近な保健専門家と位置付け、地域保健の要となる在宅看護師の育成に力を入れています。

その代表的な取り組みが、2014年から2021年まで実施した「日本財団在宅看護センター」起業家育成事業(別タブで開く)です。これは、看護師を対象に、在宅看護センターを起業し、継続して経営するために必要な知識やノウハウを学ぶ8カ月間に及ぶ人材育成プログラム。研修修了後の看護師は、それぞれの地域で自らの在宅看護センターを開業します。その資金支援は150万円、これまで(2025年1月時点)に30都道府県、約140カ所にネットワークが広がっています。

日本財団在宅看護センターの特徴を示すイラスト:
地域の医療・介護施設・人材(介護医療院、サ高住、ホームホスピス、看多機、リハビリ、薬局·薬剤師、歯科/衛生士、管理栄養士)、老健施設などと連携する他、さらに地域外の施設とも連携すると共に、地域住民の理解と協力のもと、独居住民や退院直後の容態が不安定な人々を診る機能も備えた体制を目指す
日本財団在宅看護センターの役割
日本財団 在宅看護センターネットワークを示す日本地図:
・起業家育成事業」 の修了者112名
・日本財団 在宅看護センターは30都道府県179事業を全国展開しています。(2024年11月2日現在)
[事業所の内訳]
訪問看護ステーション(リハビリ) 99
支所13
サテライト16
看多機8
ホームホスピス1
ささかわホーム1
居宅介護事業所21
訪問介護 通所介護5
児発(含放課後等デイ)6
定期巡回・随時対応訪問4
日中一次支援2
特定相談支援事業1
その他2

30都道府県179の事業展開全国ネットワーク!

福岡県10ヶ所
(特非)むゆうげん
(一社)レイール
(一社)ミモザ
(一社)在宅看護センター北九州
(株)ピスケア
(株)こひなた

佐賀県4ヶ所
(一社)ライフナビゲート

長崎県1ヶ所
アリビアール(同)

熊本4ヶ所
(株)悠・YOU・ゆう
(株)たのも
(一社) ひたむき
(株)WiLvy

宮崎県1ヶ所
(一社)レイール

鹿児島県1ヶ所
(株)ライフコンタクト

沖縄県
(有)高蔵住宅
(一社)ちゅらまーる
(同)エリスリナ

大阪府8ヶ所
(一社)養生
(一社)ソーシャルデザインリガレッセ
(一社)医療看護110番
(一社)在宅看護センター関西
(一社)ともに
(株)Care Creation
(一社)よすが
(同)Midwife Careplus

兵庫県6ヶ所
(一社)ソーシャルデザインリガレッセ
(株)リンクル
(株)izanami

岡山県1ヶ所
(同)岡山在宅看護センター晴

島根県2ヶ所
(株)Community Care

広島県2ヶ所
(株)モンステラ
にじのはな (株)

山口県1ヶ所
(株)T-フォース

愛知県5ヶ所
(一社)黒衣
(一社)在宅看護センター永愛の泉
(一社)ベース
(株)気楽里

石川県2ヶ所
Esterカンパニー

福井県1ヶ所
cocotii(株)


三重県1ヶ所
(株)ねむの花

和歌山県3ヶ所
(一社)幹
(一社)幹らんど

香川県2ヶ所
(同)ハートオブナーシング

高知県1ヶ所
(一社)カインドネス

愛媛県2ヶ所
(一社)在宅看護センター四国

千葉県1ヶ所
(株)よもぎ

神奈川県22ヶ所
(株)在宅看護センター横浜
(一社)空と花
(一社)宝命
(一社)つかさ
(一社)コ・クリエーション
(一社)Life&Com
(一社)グロース唯
(一社)爱楽園
(株)ONE
(株)咲希
(株)みかん
(株)ことぶき

青森県1ヶ所
(一社)緑の社

福島県5ヶ所
(一財)脳神経疾患研究所
(一社)陽だまり
(株)はま福

群馬県2ヶ所
(一社)安寿
(一社)はたのおと

茨城県4ヶ所
(一社)ハーモニーナース
(株)悠・YOU・ゆう
(一社)在宅看護センター佳実結

埼玉県5ヶ所
(一社)在宅看護センター彩り
(一社)ひかり
(株)結びの糸
(株)ココリタ
(株)Co-Co Joining
東京都32ヶ所
(一社)葵の空
(一社)空と花
(株)在宅看護センター城東
(一社) 街のイスキア
(株)Creade
(株)Spinner
(一社)すこやか
(株)ハートワーカー
K&Y(株)
(株)すまいるナーシング
(株)エンジョイライフケア
(株)在宅看護センター品川
(一社)コモド
(一社)テラ
(一社)カインドネス
(株)Grace
(株)すえひろ
(同)あまね
(株)TBEC-SS
(同)WOTS
(株)在宅看護センターくるみ
(株)TBEC-SS
(株)Life & eat
Luna Rainbow (同)

北海道5ヶ所
(一社)ちせ
(一社)ポラリス
(株)町コム
全国の日本財団在宅看護センター一覧

笹川保健財団の喜多悦子(きた・えつこ)会長は、日頃から「看護師が社会を変える」と社会に広く発信し続けています。今記事では、起業家育成事業の研修を修了し、在宅看護センターを営む看護師の皆さんと、喜多会長の鼎談を通して、地域保健における看護師の役割と、その可能性を探ります。

医師として国際協力に従事する中で感じた、看護師の可能性

「医師として途上国で働きたい」という思いを、学生時代から抱いていた喜多会長。1988年、医師としてアフガン難民支援や、その他の途上国への保健協力で働く中で感じたのは、慢性的な医療資源と人材の不足というより欠如でした。

アフガンの難民キャンプでの出来事について語る喜多会長

そもそも、紛争地には、病院も、医者や看護師、ライフラインといった、ありとあらゆるものが不足していました。日本では到底考えられない状況でした。

そんな地域の健康を誰が護っていたかというと、欧米のNGOなどから基本的な保健の知識を学んだヘルスボランティアの方々や、地域の住民をまとめる長老でした。

当然、看護師とはいえないほどの知識や技術でしたが、その地域のコミュニティにとっては欠かせない存在であり、長老の『体調がすぐれないなら、今日は畑で働かなくてもいい』『水汲みも無理にいかなくてもいい』といった助言によって、地域の健康は守られていたんです。

そのような経験から私は、人々の生活を支援しつつ、健康を護るには、病気を治す医師ではなく生活を看護る(みまもる)看護師がよいのではないかと考えました」(喜多会長)

アフガニスタンでの難民支援で現地の人と交流する喜多会長

一見、病人を診察し治療を行うのは医師であることから、人々の生活をみて支援するのも医師の方が長けているように感じます。しかし、小児科医として従事してきた喜多会長は、医師と生活支援の関係性について次のように語ります。

やはり医師は『患者の病気を治す』という面にエネルギーを注ぎます。もちろんそれが使命の1つであるため、決して間違ってはいません。しかし、生活支援という面を考えると、どうしても治療に付随するものという位置付けになってしまうんです。

一方、看護師は、常に患者の身近にいる存在であり、人々の生活を踏まえながら看護活動を行うことがほとんど。そこで培われる力は『地域の人々の健康問題を解決する』という面にも活かせるはずだと私は考えています」(喜多会長)

看護師には地域全体の健康問題を解決する力がある。喜多会長が語る言葉の根拠となったのは、診療所で働くある看護師の存在が大きいとのこと。

以前、西日本のある地区にあった診療所を訪れた時のことです、私はひとりの看護師と出会いました。

なんと彼女は、その地で暮らす約400名の住民の名前を全て覚えていました。診療所を訪れれば、彼女が一人一人の名前を呼び、寄り添い、看護を提供してくれます。決して医療が充実しているとはいえない地域ではあるものの、『彼女がいるから他の病院に行くつもりはない』という人ばかりでした。

私はそんな彼女の姿から、いつか看護師の可能性を広げる研修をしていきたいと考えるようになり、2014年から『日本財団在宅看護センター』起業家育成事業に注力し始めました」(喜多会長)

起業家育成事業の特徴は、「医療知識や看護知識を伝え、扱い、スキルを上手にこなす看護師を育てるためのものではない。そういった看護師を育てる場は他にもある、私たちが事業を通して目指すものは、より社会に目を向けた看護師の育成」と喜多会長は語ります。

大切にしているのは、経営者の視点で地域に根差した在宅看護サービスを展開できる看護師です。高齢者の人口が多くなった日本の健康をどう守るかを考えたとき、『人々に近い存在である看護師にこそ、経営者として視点、考えが必要なのではないか』という結論に至りました。

8カ月の研修では、起業家としての知識だけでなく、管理者となる覚悟・人々に対する責任感・社会に向き合うマインドも養えるようにします。その上で、あらゆる社会問題の中で顕在化していない部分に看護師が取り組んでいけるようになることを期待しています」(喜多会長)

起業家育成事業に応募した看護師たちの思い

今回、鼎談に参加した看護師の皆さんは、どのような思いから「日本財団在宅看護センター起業家育成事業」に応募したのでしょうか。喜多会長が進行役となり、その理由や現在の活動、これからの目標について語っていただきました。

喜多会長を中心に話をする5人の看護師
喜多会長が進行役を務めた鼎談は、終始和やかなムードで行われた

喜多:まずは、皆さんがこの事業に応募した理由と、研修を受けた感想を聞かせてください。

入澤(いりさわ)さん(以下、敬称略):もともと、癌(がん)の専門病院に勤めていましたが、在宅看護にも関心がありました。今後の働き方やキャリアについて考えていたとき、笹川保健財団が取り組む起業家育成事業のチラシを見て、良い機会だから勉強しに行こうと思ったのがきっかけです。

研修を受けるまでは、経営の知識は全くなかったので、今まで知らなかったことをたくさん学べたことが収穫でした。また、看護師資格を持った経営者仲間ができた点も、在宅看護センターを開業するにあたり心強く感じましたし、今も運営を続けていられるのは、このネットワークのおかげだなと思っています。

東京・要町(豊島区)で在宅看護センターを営む、起業家育成事業1期生の入澤さん

直江(なおえ)さん(以下、敬称略):私は、家族が訪問看護を利用するようなことになったことをきっかけに、在宅看護に関心を持つようになりました。

笹川保健財団の起業家育成事業の存在を知ったのは、病棟勤務から訪問看護ステーション(※)に職場を変えたときです。在宅看護の知識やスキルだけではなく、経営についても学べる点に魅力を感じて参加しました。

8カ月の研修期間で、私の考える看護師としての在り方を大きく変える転機となりましたし、修了後も日本財団在宅看護ネットワークの中で勉強会や研修会を開き、全国の看護師資格を持った経営者と情報を共有することができて、とても助かっています。

※幅広い利用者を対象に、小児から高齢者まで幅広く、療養生活の世話、医療処置・医療機器管理、認知症・精神疾患・重度心身障害児の看護、ターミナル看護、リハビリ、家族・介護者の支援など、在宅看護を行う施設

東京・本郷(文京区)で在宅看護センターを営む、起業家育成事業2期生の直江さん

磯野(いその)さん(以下、敬称略):起業家育成事業の研修に参加しようと決意したのは、経営のことが学べるだけではなく、私がこれから看護において大切だと感じている公衆衛生や国際保健医療、地域看護について学びが深められると思ったからです。

笹川保健財団の起業家育成事業のチラシを見て、これらを学べないまま看護師として働き続けるのはもったいないと感じました。実際に研修で学んだことは、今の自分の看護の軸になっていますし、何より同じ経営者として相談できる先輩ができたことが心強いです。研修を受けなければ、築けなかった関係だと思います。

神奈川県川崎市で在宅看護センターを営む、起業家育成事業3期生の磯野さん

江戸(えど)さん(以下、敬称略):私も入澤さんと同じように、以前から訪問看護の分野に興味がありました。

回復期の病棟看護師を経て訪問看護師になり、何度か医療法人の訪問看護ステーションを立ち上げる経験をしたのですが、経営的にうまく流れに乗っていると思っていても、利用者の方の「お寿司を食べにいきたい」「桜の名所に行きたい」といった願いを叶えようとすると、利益率が上がらないから叶えられないという歯がゆさが残る問題がよく起こっていました。

次第に「これが自分のやりたい看護だったのか。自分が経営者となって訪問看護ステーションを立ち上げることができれば、今抱えているモヤモヤを解消できるのではないか」と思うようになり、笹川保健財団の起業家育成事業に応募しました。

実際の研修では、学べる内容の幅が非常に広く、各分野に通じる専門家の方から教えていただけたので、とても良い経験でした。

前職はホテルマン、介護福祉士として働いていたという。東京・巣鴨(豊島区)で在宅看護センターを営む、
起業家育成事業5期生の江戸さん

青木(あおき)さん(以下、敬称略):「私たちの分野は、会社を立ち上げられる」と、認定看護師の資格を取る際に講師からとお話をいただいたとき、経営者として看護に携わる道もあることを知りました。

その後、訪問診療の看護師として働く中で笹川保健財団の「看護師が社会を変える」と書かれたチラシを目にしたんです。この言葉にすごく興味を惹かれた私は「会って話をしてみたい!」と思い、まずは喜多会長の講演会に参加しました。

そのときの話にとても共感したのですが、自分が経営者になる決心はまだつかなくて。まずは訪問看護の分野に飛び込もうと1期生の入澤さんのもとで修業しました。しばらくして入澤さんから、起業家育成事業が7期でいったん終了することを教えていただき、研修への参加を決意しました。

研修ではSDGsの講義が印象的でしたね。私が運営する在宅看護センターでは、17の目標の中から7つ取り上げて達成できるように取り組んでいます。ここで学んだことを活かしながら目標を達成できるたびに、研修に参加して良かったと思えています。

起業家育成事業7期生の青木さん。東京・新宿で在宅看護センターを開設し、運営をしている

多岐にわたる、地域における看護師の取り組み

喜多:皆さんそれぞれ「看護師が社会を変える」という意識を持って日々取り組んでいただいていると思います。例えば、磯野さんは川崎市の民生委員になられたそうですね。

磯野:はい、2022年から町内会の推薦で民生委員として地域支援に携わっています。

川崎市はもともと、住民主体で高齢者が高齢者のためにお弁当を作っていたり、お母さんのための赤ちゃん相談を開いたり、NPOの方々と協力してフードバンクの活動に注力していたりと、地域全体で支え合う、気にかけるという意識が強いんですね。

その中で、育児や子どもの成長に関する相談や、コロナ禍ではワクチン接種に関する相談が多くありました。

皆さんから「あなたが来てくれると安心する」と言ってもらえて、看護を学び実践してきたことがお役に立てて嬉しいです。これからも、地域全体の健康や安心できる暮らしを守るためにさまざまなコミュニティとつながって輪を広げていければと考えています。

喜多:青木さんも、新宿で若者への支援に携わっていると伺っていますが、具体的にどのような活動を行っているのですか?

青木:私は、歌舞伎町に集まる10代から20代の女性を救済するNPOの方々と、パトロールをしています。

彼女たちの多くは、親から虐待を受けている、発達障害があり学校や社会からつまはじきにされてしまったなどの問題を抱え、帰る場所がありません。最近は、そういう子たちの心のすき間に悪い大人がつけいり、彼女たちの心と体をむしばまないように、何かあったときに助けを求められる電話番号が書かれた紙を配って歩きました。

喜多:一見、青木さんの活動は看護における問題に見えないかもしれません。しかし、その子たちをそのままにしておくと、大きな健康面の問題に発展するかもしれません。問題が大きくなってから看護師が対処しようとしても、おそらく看護の分野で解決できるレベルではなくなっているはずです。

そういう意味でも、青木さんのように早いうちから看護師がこうした取り組みに参加することはとても意義があることだと思います。

一見看護とは関係ない問題に見えることでも、長期的な目線で見ると健康の問題につながる可能性は大いにあると話す喜多会長

喜多:入澤さんも、認知症の事業に携わっていると伺っています。

入澤:2019年頃から東京・文京区の認知症の初期集中支援事業のお手伝いをしています。

もの忘れ医療相談を利用された方を対象に、必要に応じて医師、看護師、保健師、社会福祉士からの早期支援が受けられる制度で、高齢化が進む日本にとっては必要なものだと感じています。

現在は、医師の指示書がなくても、訪問看護ステーションの看護師が訪問できる仕組みづくりに注力しています。

社会を変えるために。看護師たちが描く未来

喜多:それでは、看護師が社会を変えるために、皆さんが取り組んでいきたいことや思い描く展望を聞かせてください。

入澤:現状、保健師助産師看護師法(※)に「医師の指示のもとに」という文言がある以上、私たちは自らの意思で判断し、行動できることは決して多くありません。故に、困る事やモヤモヤを抱えることもあります。

しかし、そういったモヤモヤを不満として言葉にするだけでは意味がありません。しっかり意見として伝えていくことが、今の看護師を取り巻く制度を変えるきっかけになるはず。今後は提言といった取り組みにも注力していきたいです。

※保健師、助産師、看護師、准看護師の資格や業務内容、免許取得の条件などを定めた法律。医療・公衆衛生の普及向上を目的とし1948年に制定された

「不満ではなく、意見として提言していくことが大事ですね」と、入澤さんの言葉に共感する看護師の皆さん

直江:私は、日本財団在宅看護センターのネットワークの力を活用し、在宅レスパイト(※)を看護師で助けに行く仕組みづくりをしていきたいです。全国には、自宅での介護に疲れてしまい、息抜きが必要なご家族がたくさんいるはずですから。

※自宅で生活を送る医療的ケアの必要な利用者家族の休息を目的としたサービスのこと。看護師が自宅に訪問し、家族が行う医療的ケア等を一定時間担当する

磯野:いまの看護界は同じ看護師であるにもかかわらず、病棟やクリニック、訪問看護ステーションと働く場所が異なるだけで分断されてしまっている気がします。みんなつながりたい、連携したいと思っていても個人の努力に任されています。

これらが分断せずに地域の中でつながり、強いネットワークを構築できれば、それぞれの地域が抱える健康上の問題や社会的な問題にも、より迅速に取り組めるでしょうし、何よりそれが地域で暮らす人々のためになるのではないでしょうか。

江戸:磯野さんのおっしゃるとおりですね。そのためにもまず、私たちがいまやっていることを、全ての人にきちんと伝わるような仕組みをつくっていきたいですよね。

日本財団在宅看護センターの事業所は全国に約140カ所あり、それぞれの事業所に取り組んできた活動の意味や、ストーリーがあるはずです。現状それらは、医療関係者の中で伝わっていないでしょう。これからは、より幅広い層の人に、各事業所の素敵な試みを伝えられるようにしたいですね。

自身の展望について語る江戸さん

青木:私は、看護師のキャリアアップや、キャリアチェンジにつながる教育システムが構築されると嬉しいですね。

あくまで個人的な考えですが、訪問看護師はキャリアチェンジが難しいと思っています。キャリアアップに関しても、臨床に即したキャリアアップが可能な場が減ってきているよう気もしていて……。

笹川保健財団の中で、看護師のキャリアチェンジやキャリアアップにつながる教育のシステムが構築できると、キャリアに悩むスタッフの背中を押しやすくなるのかなと思っています。

喜多:皆さん、貴重なお話をありがとうございました。これからも社会を変えるべく、共に頑張ってまいりましょう。

編集後記

皆さんの話を伺う中で、看護師が社会に与える影響は想像以上に大きいのではないかと感じました。

超高齢化社会を迎え、医療人材の不足、財政の問題、医療・介護の連携不足などさまざまな社会問題を抱える日本にとって、「日本財団在宅看護センター起業家育成事業」は、まさに解決の糸口になるはず。

今回鼎談に参加した看護師の皆さんのように、地域に根差した活動を行う看護師が増えれば、より多くの人が安心して暮らせる社会に変わることでしょう。

撮影:十河英三郎

〈取材協力〉

葵の空在宅看護センター 公式サイト(外部リンク)

七福訪問看護ステーション 公式サイト(外部リンク) 

コモド訪問看護ステーション 公式サイト(外部リンク) 

在宅看護センター本郷 公式サイト(外部リンク) 

地域まるごとケアステーション川崎 公式サイト(外部リンク) 

〈プロフィール〉
喜多悦子(きた・えつこ)
兵庫県宝塚市出身。1965年奈良県立医科大学卒業。小児科医としてスタートし、母校、国立病院にて勤務。NIH/NIEHS米国立研究所/環境保健研究所の客員研究員を経て、中国中日友好病院(JICA専門家)、国立国際医療研究センター、UNICEFアフガン事務所保健栄養部長、WHO緊急人道援助部緊急支援課長など、国際医療協力分野での経験を重ねる。2013年より笹川記念保健協力財団 理事長、2017年より会長として、世界中を駆け回る日々を送る。