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日常を支えながら命を守る——看多機「結の学校」の1日に密着【前編】

「結の学校」で働くスタッフの1日を追う

取材:ささへるジャーナル編集部

福島県福島市にある看護小規模多機能型居宅介護事業所「結の学校」で活躍する職員の姿を全3回にわたってお届けします。

第2回は「結の学校」のとある一日に密着。第1回(別タブで開く)で所長の沼崎美津子(ぬまざき・みつこ)さんが語った「地域を包括的に支え続ける存在であり続けたい」という想いが、どのような形で看多機の運営に反映されているのでしょうか。

沼崎さんをはじめ、看護師、介護士、連携先の医師も含めたリアルな現場の様子を追いかけます。

8:30 職員室にてスタッフ全員で朝礼

朝礼は毎日欠かさず実施され、基本的には事業所にいるスタッフ全員が出席します。その日の予定の確認をはじめ、利用者の体調の変化や気づいた点、薬の変更、ご家族からの要望などを各スタッフが丁寧に共有します。

また、沼崎所長からは、厚生労働省による2026年度の診療報酬改定の動向についても説明がありました。刻々と変わる制度や行政の動きについても全員で把握し、1日の業務がスタートします。

毎朝スタッフ全員で行われる朝礼の様子。利用者一人一人の現状が共有される
スタッフの2週間のスケジュールが細かく、みっちり書かれたボード

9:30 排便・入浴ケア

午前中は、利用者の排便・入浴介助に追われもっとも忙しい時間帯です。自宅で排便コントロールや入浴を行うことは家族にとって大きな負担となるため、排便介助を含めて入浴のみを利用する人も少なくありません。浣腸で排便を促し、量や性状を確認したうえでお風呂に入って清潔を保ちます。

利用者にとってはさっぱりとできるうれしい時間ですが、脱衣介助からリフトやストレッチャーを使った入浴は介護士にとって体力勝負の重労働。1人の利用者を2人体制で対応し、裸になる機会でもあるので全身の状態を確認しながら安全に進めます。

沼崎さん「赤ちゃんはベビーバスで対応できますが、成長したお子さんに対応できる入浴設備がないんです。人工呼吸器を装着している場合は本当に大変。行政に支援をお願いしたいですが、子どもは成長していくため、予算を割きにくいのかもしれませんね」

「結の学校」の広々とした入浴施設
利用者の情報を共有する看護師(前列左・右)、ケアマネージャー(後列左)と介護福祉士(後列右)

9:30 食事準備

キッチンでは介護士の佐藤(さとう)さんが昼食の準備をしていました。通常は管理栄養士が毎日の献立作成と調理を担当しますが、この日は休みのため佐藤さんが代役を務めます。

佐藤さん「利用者さん全員分の食事をここで作っています。人によってアレルギーやミキサー食など食形態が違うため、事故のないよう慎重に準備しなければなりません。翌日の朝食は午後2時頃から仕込みを始めます。完成したら冷蔵庫で保管し、翌朝は温めて提供するだけの状態にしておくんです」

食事の準備をする介護士の佐藤さん
デザートの準備も万全

9:30 居間でくつろぎの時間

居間では利用者とのコミュニケーションが始まっています。介護士はバイタルサインを測定して体調に変化がないか、一人一人細かく確認をします。

ふと前方に目を向けると、利用者のSさんがテレビを観ながらゆったりくつろぎタイム。休日以外は「結の学校」にいることが多いそうです。

Sさん「あれやって、これやってと私はわがままばかり言ってしまうけれど、スタッフさんはみんな優しいから大好き。自分の家みたいに楽しく過ごしています」

居間で利用者一人一人の様子を伺う看護師
取材に応える利用者のSさん

10:00 利用者の迎え入れ

到着したのは3歳になる尾形依千花(おがた・いちか)ちゃん。生まれつき水頭症(すいとうしょう※1)を患い、自分で体を動かしたり、声を出したりすることもできません。日々医療的なケアが欠かせず、月1回の通院に加え、週2回「結の学校」を利用しています。

依千花ちゃんはスタッフみんなのアイドルです。到着すると「依千花ちゃん来たよ~」「おはよう!」とスタッフの声が飛び交い、ベッドの周りには次々と人が集まってきます。

まずはカルテを確認しながら、看護師の三嶽(みたけ)さんがお母さんに自宅での様子を聞き取ります。昨日の医師による定期受診を受けて、これまで使用していた人工鼻(※2)から、試験的にスピーチバルブ(※3)へ変更してみることに。

※1.「水頭症」とは、脳脊髄液が頭の中に過剰にとどまり、脳を圧迫して機能障害を引き起こす病気のこと

※2.「人工鼻」とは、気管切開や人工呼吸器を使用する際に、鼻腔の代わりとなって吸気の加温・加湿・濾過(ろか)を行う医療器具のこと

※3.「スピーチバルブ」とは、気管切開をした人が、首の穴(気管孔)を塞がずに声を出せるようにする一方通行の弁(バルブ)のこと

スタッフみんなから愛される依千花ちゃん

「とりあえずひと月は様子をみる」という医師の観察のもと、今後、少しずつ発声のトレーニングを重ねれば、声を出せるようになる可能性があるかもしれないと三嶽さんは言います。

三嶽さん「依千花ちゃん、良かったね! これから一緒にがんばろうね」

三嶽さんが優しくマッサージをしながら心地よい体位にポジショニングし、ブランケットをかけると、依千花ちゃんは気持ち良さそうな表情を浮かべます。

依千花ちゃんは生まれて間もない頃からてんかん発作を繰り返し、乳児期には1日に何十回も発作があったといいます。けれど今では少し回数も減り、発作が強いときには必要時に座薬を使用しますがその頻度は月に1回程度。病院の管理と「結の学校」のケアが継続的に連携することで、安定した暮らしを送ることができているようです。

依千花ちゃんのお母さん「毎週2日はここを利用しています。本人は意思表示できませんが、できるだけ多くの人に関わってもらいたいと思って。そうした経験の中で、少しでも社会性を身につけてくれたらというのが親としての願いです。生まれたときから『結の学校』にお世話になっているので、家のことも本人の状態もよく理解してくださっている。その安心感が大きいですね」

依千花ちゃんに挨拶をする所長の沼崎さん
依千花ちゃんのお母さんに昨晩の様子をヒアリングする看護師の三嶽さん(中央)

10:30 訪問看護

事業所から車で10分ほどの距離にある利用者の自宅へ向かいます。利用者は生まれたときから8年間の利用歴がある、新生児重症仮死で生まれた五十嵐(いがらし)咲希(さき)ちゃん・有希(ゆき)ちゃんの双子姉妹(8歳)。到着すると、すでに医師が処置を始めていました。

医師の角田(かくた)さんは訪問診療を専門としています。週1~2回、看護師等を伴って五十嵐さん宅を訪れています。処方箋の発行や体調の確認、今後の治療方針の整理、各種手続きなど事務的な作業は、同行するスタッフの方が担っています。

五十嵐咲希ちゃん
五十嵐有希ちゃん

昨晩は咲希ちゃんのお腹が張り、おしっこが出なくなってしまいました。「状態が悪くなったのでは」と周囲に緊張が走りましたが、角田さんが駆け付けたときは、すでに排尿が確認できており、ひと安心。

排尿がうまくいかない原因には、「肝臓機能の低下などによりそもそも尿を作ることができない」「膀胱に尿は溜まっているがうまく外に出せない」ことが考えられます。念のため超音波検査で体の状態を確認し、その傍らで沼崎さんがサポートに入りました。

沼崎さん「どうしたの咲希ちゃん。お腹が痛いの?」
咲希ちゃん有希ちゃんのお母さん「でも、そこまでお腹が張っている感じはしなかったんですよね」

咲希ちゃんを診療する医師の角田さん(右)と、それをサポートする所長の沼崎さん(左)
咲希ちゃんの体調についてお母さん(右)と話す所長の沼崎さん(左)

咲希ちゃんは在宅酸素療法(※1)を行っているため、お母さんの言葉を聞いた沼崎さんからすぐに角田さんへ確認が入ります。

沼崎さん「先生、酸素の流量はお母さんに調整してもらっていいですか。訪問看護指示書には具体的な流量の記載がなくて」

角田さん「基本的には95パーセント以上を保つようにしてください。0.5リットルずつ調整する形でお願いします」

医師、看護師、そして家族が緊密にコミュニケーションを取りながら、チーム一丸となって咲希ちゃん有希ちゃんを支えています。

咲希ちゃん有希ちゃんのお母さん「2人は生まれてすぐにNICU(新生児集中治療室)に入り、その後GCU(回復治療室)へ移りました。退院の際に、医療ケアが必要になるため訪問看護を利用するよう勧められ、病院から『結の学校』を紹介していただいたんです。それから8年間、ずっと沼崎さんはじめ結のスタッフさんにはお世話になりっぱなしで。医療ケアの知識が乏しい状態からのスタートでしたが、困ったときにすぐに相談ができて心強い存在になっています。状態が安定しているときは、週1回は日中のお預かりもしてもらっていて、子どもたちにとっても、きっと特別な存在で、沼崎さんの顔を見るとニコニコするんです」

咲希ちゃんは肝機能が低下し、アルブミン(※2)を自ら作ることができません。そのため、定期的に補充を行っています。処置としては輸血に近い行為で、在宅で行うケースはあまり見られません。

沼崎さん「それでも、安心できる家でケアをしてあげたいんです。角田先生によくしていただいていて、いわば『在宅入院』のようなものでしょうか」

「在宅入院」という言葉に明確な定義があるわけではないと、角田さんは言います。

角田さん「例えば日本では、肺炎になると入院するのが当たり前とされてきました。でも酸素療法や抗生剤の投与、点滴といった入院中の治療は、訪問看護と協力すれば、実は自宅でも対応可能なんです」

※1.「在宅酸素療法」とは、慢性呼吸不全や心不全などで慢性的に酸素不足の患者が、自宅で酸素濃縮装置などを用いて酸素を吸入する治療法のこと

※2. 「アルブミン」とは、肝臓で作られるたんぱく質のことで、血液中に含まれる重要な成分の1つ

訪問医療・看護の可能性を語る医師の角田さん

沼崎さんがマッサージを続けていると、高めだった咲希ちゃんの心拍数が安定してきました。

角田さん「それは沼崎マジック? 僕は医者なので科学の力を信じているけれど、本当に数値が安定している!」

そんな角田さんの驚きを聞いてみんな大笑い。和やかなムードに感化されてか、咲希ちゃんのベッドの隣で横になっていた有希ちゃんが「あー、あー」とおしゃべりを始めました。

有希ちゃんも咲希ちゃんと同様に飲み込みがしにくくなったため、胃ろうを使用しています。

咲希ちゃん有希ちゃんの祖母さん「でも有希ちゃんは、たまにイチゴやリンゴなど季節の果物を少しだけ口にできるようになったんですよ」

咲希ちゃんと有希ちゃんのお祖母さん(中央)

一方で、いまは食べ物を口にすることができない咲希ちゃんにも、綿棒にイチゴの果汁を含ませてそっと口元につけてあげることがあるそうです。

咲希ちゃん有希ちゃんのお母さん「状態が落ち着いたら、少しずつ食事を再開したいと思います」

「がんばれ、がんばれ」と声を掛けながら咲希ちゃんと有希ちゃんの体をほぐしている沼崎さんの姿が印象的でした。1時間ほどで五十嵐さん宅を後にし、事業所へと戻ります。

有希ちゃんの手をやさしくマッサージする所長の沼崎さん

編集後記

「結の学校」の午前中を追いかけて見えてきたのは、スタッフと地域医療を担う医師たちが、職種や立場の垣根を超えて「同じ目線」で利用者に寄り添う姿でした。

特に印象的だったのは、訪問看護の現場で交わされるあうんの呼吸です。医師がそばにいて直接やり取りをする安心感はもちろん、離れた場所にいても徹底された情報共有があるからこそ、全員が迷いなく同じ目標に向かって動ける。その「チームの力」こそが、医療依存度の高い利用者やその家族が、住み慣れた家で笑って過ごせるための絶対的な基盤なのだと感じました。

午後の「結の学校」では、どのような時間が流れているのでしょうか。1日密着の【後編】(別タブで開く)をお届けします。

撮影:十河英三郎

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