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日常を支えながら命を守る―「結の学校」所長に聞く、暮らしと医療を両立させる「看多機」とは

訪問看護先で医師とともに医療的ケア児のケアをする看多機「結の学校」所長の沼崎さん(右)

取材:ささへるジャーナル編集部

福島県福島市にある看護小規模多機能型居宅介護事業所「結の学校」で活躍する職員の姿を全3回にわたってお届けします。

第1回は「結の学校」所長の沼崎美津子(ぬまざき・みつこ)さんにお話を伺いました。

今、日本全国で「看護小規模多機能型居宅介護」(以下、看多機)への関心が高まっています。

看多機は、看護と介護の両方を必要とする病気や障害のある人たちが、住み慣れた自宅で安心して生活が続けられるよう支援する複合的な介護保険サービスです。厚生労働省によると、2024年10月1日時点で看多機の事業所数は1,074ヵ所。対前年比で約80ヵ所増えているのも、在宅医療ニーズの高まりを映し出しています。

笹川保健財団が実施している「日本財団在宅看護センター」起業家育成研修(別タブで開く)の第1期生の沼崎さんが、看多機「結の学校」を開設したのは2016年のこと。時代を見据えて歩み始めてから10年――。沼崎さんはどのような想いで運営を続けてきたのでしょうか。

要介護者に加え医療的ケア児も受け入れている看多機「結の学校」

“人を丸ごと看る”看護本来の姿を求めて「結の学校」開設へ

――「結の学校」を立ち上げた背景を教えていただけますか。

沼崎さん(以下、敬称略): 私はもともと、福島県看護協会内に新設された訪問看護ステーションの立ち上げメンバーでした。

当時は訪問看護と介護支援専門員を兼務。その後、知人の医師に声を掛けられ南東北福島病院へ入職し、看護部長として10年以上勤務しましたが、自分の目指す看護との乖離に悩んでいました。

私の性分としてスタッフを守ろうとするあまり、上司等とも衝突してしまって……。また、“人を丸ごと看る”看護の本来の姿を考えると病院勤務に限界を感じ、訪問看護での開業も視野に入れていました。

そんな折、東日本大震災が発生。避難患者の在宅移行に関わり、そのなかで知ったのが笹川保健財団の「日本財団在宅看護センター」起業家育成研修です。「認定看護管理者教育課程 サードレベル(※)」と笹川保健財団の研修、どちらを選ぶか迷った末、笹川保健財団を選びました。

※「認定看護管理者教育課程 サードレベル」とは、日本看護協会が認定する看護管理者の最高峰の研修課程のこと

「結の学校」を立ち上げた経緯を話す沼崎さん

――沼崎さんは「日本財団在宅看護センター」起業家育成研修の1期生とのことですが、当時の研修はいかがでしたか。

沼崎:多彩な講師陣による講義はどれも刺激的で、目からウロコの連続でした。大いに学び、背中を押された感覚があります。

今では看多機の開設にあたり、6,500万円まで支援してくれますよね。看多機にここまで踏み込んだ支援を行うのは、笹川保健財団ならではだと思います。

――研修修了後、「結の学校」設立はスムーズにいきましたか。

沼崎:いいえ、開設までに2年以上を要しました。土地探しで難航し、事前審査も2度提出。建物を建てるには電気設備、火災報知器、食品を扱うための基準など、細かな制度を一つ一つクリアしなければならず、そのハードルは想像以上でしたね。

家族の力も借りながら乗り越え、ようやく2016年4月の開設に漕ぎつけたという感じです。

「結の学校」の朝礼の様子

多職種の緊密な連携で、4つのサービスを一体で提供する

――あらためて「結の学校」の特徴を教えてください。

沼崎:「人々の暮らしと命のために」。これが「結の学校」の理念です。利用者さんの生活に寄り添い、日常を支えながら命も守る。暮らしと医療の両立こそが、私たちの考える在宅支援です。


慣れ親しんだ自宅で、その人らしく生き続けられるように、必要な支援を必要なときに届け、時には預かりも行う。「泊まり」「通い」「訪問看護」「訪問介護」を提供することで、暮らしの延長にある支援を実践しています。

現在(2026年3月時点)のスタッフは35名。看護師や保健師、介護職員、ケアマネジャー、作業療法士など多職種が在籍し、緊密に連携しながら支援にあたっています。

例えば回復期のリハビリでは、医療的な視点を持つ看護師と、生活支援を担う介護職員の協働が欠かせません。職種の枠を超えて意見を出し合い、その人にとって最善のケア方針を導き出すことを大切にしています。

看護師とともに利用者とコミュニケーションを交わす沼崎さん(右端)

――情報連携のために取り組んでいることはありますか。

沼崎:朝礼では夜勤担当からの申し送りを全員で共有し、夕方のカンファレンスでは一日の出来事や利用者さんの症状変化を確認します。これは毎日欠かせません。

さらに“イベント報告書”を活用し、転倒やヒヤリとした出来事、物品の破損などを対策とともに記録。月1回の安全管理委員会でも振り返りを行い、再発防止につなげています。

情報とケア方針を徹底して共有することが、質の高い支援の基盤だと考えています。

――スタッフの働き方についてはいかがですか。

沼崎: 特定の役割に固定するのではなく、スタッフ全員が全体像を理解し、幅広く対応できる体制づくりを目指しています。

私は個人的に、家族の介護のために仕事を辞めてしまうことには反対なんです。だから「結の学校」は、一般的なデイサービスのように利用時間が一律で決まっているわけではありません。利用者さんやご家族の事情に応じて滞在時間を柔軟に調整できる、自由度の高さが特徴です。

だからスタッフに対しても、利用者さん一人一人に合わせて柔軟に対応する仕組みを活かし、働き方や生活状況を踏まえながら、希望を尊重したシフトを組むよう心掛けてきました。仕事は一度離れると復帰が難しい。介護と仕事を両立しながら続けられる環境を整えることも、事業所の大切な責任だと思っています。

スタッフとコミュニケーションを取る沼崎さん(左)

もしもに備え、手を取り合って自助努力の意識を高めるのが自分たちの役割

――「結の学校」の存在意義をどう考えていますか。

沼崎:人生100年時代といわれますが、平均寿命と健康寿命には差があります。地域包括ケアシステムの中で看護機能の底上げは火急の課題と言えるでしょう。

しかし、いつまでもその人らしい暮らしを守るには、家族の自助努力も不可欠な要素なのです。例えば日頃からオムツ交換をヘルパー任せにしていると、災害時に支援が届かなければ困ってしまう。だからこそ私たちは、ケアを提供するだけでなく「一緒にやってみましょう」と、実際の行為を見せながら支えることも大切にしています。

私が地域包括ケアシステムの概念「自助・互助・共助・公助」の中で一番大事に思うのは「自助・互助」です。自助努力が低迷しないよう伴走することも、看護師の大きな役割だと思っています。

同時に、ご家族が不安にならないための受け皿づくりにも取り組んでいます。事業所内の多目的ホールとコミュニティルームは福祉避難所(第二避難所)に登録。高齢者や障害者、医療的ケア児など、一般避難所での生活が難しい方とその家族を受け入れます。

ホテル避難では家族が全てを担うことになりますが、ここでは私たちが支えられるので、ご家族も安心して休めますよね。福祉避難所は全国的に不足していますが、福島市で進む個別避難支援プランの策定にも関わりながら、地域の安心をいつも考えています。

訪問看護先で母親と一緒に医療的ケア児のケアを行う沼崎さん(左)

広がる看多機の可能性。未開拓分野にも挑戦を

――今、「結の学校」運営面において課題はありますか。

沼崎:物価高騰の影響は大きいですね。福祉用具の修理や送迎車の維持費、感染対策の消耗品まで、あらゆる支出が増えています。

さらに近隣にナーシングホーム(※1)が増え、医療依存度の高い方がそちらに流れる傾向もあります。地域にとっては選択肢が増えて喜ばしいことですが、結果として重度者の受け入れ競争が起きています。

その中で私たちは、CVポート(※2)を留置している認知症のある方や、症状対応が難しい方も積極的に受け入れており、利用者層は変化してきました。

朝礼(取材日に行われた朝礼)でも、転倒を繰り返している利用者さんの話が出ていましたが、それは誰の責任でもありません。どんな状況であっても私たちはご家族に対して丁寧な説明と対話を重ね、誠実に向き合い続けるだけです。

※1.「ナーシングホーム」とは、看護師が24時間365日常駐し、医療的ケア(酸素療法、経管栄養、ターミナルケアなど)を必要とする人を対象とした介護施設のこと

※2.「CVポート(中心静脈ポート)」とは、皮下に小さなポート(リザーバー)を埋め込み、そこからカテーテルを中心静脈まで留置する医療機器のこと

「結の学校」のこれからについて語る沼崎さん

――今後の方向性や、目標について教えてください。

沼崎:事業所の規模は広げたいと思っています。受け入れの幅もさらに拡大したい。愛着障害のある方や医療的ケア児、特定妊婦の分野など、これまで十分に支えきれていない領域にも踏み込みたいと考えています。

そのためには助産師の配置など体制整備が必要で、雇用面の課題もあります。簡単ではありませんが、方法は必ずあるはずです。

私がいつまで所長でいられるかは分かりませんが、後進は着実に育っています。病院と在宅看護、それぞれの文化を昇華させながら、少子高齢化という時代の現実に向き合い、地域を包括的に支え続ける存在であり続けたいと思っています。

編集後記

日本の介護政策が「施設から地域へ」と大きく舵を切る中で、住み慣れた自宅で最期まで暮らし続けたいという願いは、今や切実な社会のニーズとなっています。しかし、重度化する高齢化や家族介護の限界といった壁は厚く、その隙間を埋める存在が急務です。

沼崎さんが「結の学校」で実践する“人を丸ごと看る”看護は、単なる医療提供に留まりません。家族の自助を支え、地域の避難所としての役割まで見据えたその活動は、看多機という仕組みが持つ無限の可能性を体現しています。

暮らしの延長線上で命を守る――その信念が、地域に安心の根を張っているのだと感じました。

次回からは、そんな「結の学校」の1日に密着。多職種が連携し、利用者やその家族の「生」に寄り添うリアルな現場の様子を、【前編】【後編】にわたってお届けします。

撮影:十河英三郎

日常を支えながら命を守る——看多機「結の学校」の1日に密着【前編】

日常を支えながら命を守る——看多機「結の学校」の1日に密着【後編】

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