ハンセン病は単なる疾病ではなく、最古から存在する感染症で、国境・思想・人種・宗教を超えた人類共通の課題である。私はこのような考えの下、2003年に初めてジュネーブの国連人権委員会（現在は理事会）を訪れて以降、何度も陳情を繰り返し、2010年に国連総会で192カ国すべての賛同を得て、「ハンセン病患者・回復者及びその家族に対する差別撤廃決議」および「差別撤廃のための原則とガイドライン」が可決された。

私は回復者団体「APAL」と共に、これを説明するために、インド各地のコロニーを訪問したところ、一人の老人が手を上げて「私は厳しい差別を受け続け、今まで一度として人間として認められてこなかった。本当に私たちに人権があるのか」と問うてきたことに心底驚くと共に、人権問題の解決こそが私の生涯にわたる使命であると覚悟した。

近年、世界各国で当事者の組織化が進み、コロナ禍にあっても、ハンセン病の制圧のための正しい知識の普及や偏見・差別をゼロにするための活動が、積極的に展開されている。そして、今号のテーマであるアジア太平洋地域も例外ではなく、インド、インドネシア、バングラデッシュ、ネパール、フィリピンなどではすでに当事者団体が設立されている。　

日本財団および笹川保健財団は、過去30年近くにわたって、世界各地のハンセン病当事者のエンパワメントや組織化を積極的に支援してきた。今後、彼らがそれぞれの国のハンセン病対策に積極的に関与し、ハンセン病制圧活動を担う有力組織になると私は確信している。なぜならば、彼らこそがハンセン病のことを誰よりも熟知しており、かつ過酷な差別の経験者でもあるからである。

WHOハンセン病制圧大使
笹川陽平

Leprosy Bulletin 108号