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2025年ささかわ未来塾九州スタディツアーin長崎・五島  開催報告

~日本の近代医学発祥の地長崎で「健康と人間の安全保障」を考える5日間~

笹川保健財団は、2025年8月18日から22日にかけて、長崎県五島市および長崎市にて「ささかわ未来塾2025」を開催しました。全国から集まった保健系の学部学生・大学院生20名が参加し、「地域と世界をつなぐ保健・医療・福祉の未来」をテーマに、多彩な講義とフィールドワークを通じて学びを深めました。


1日目:オリエンテーション・開講式・講義(五島市)

開校式ではまず喜多悦子会長から、なぜ未来塾を開くか ― いま世界で起こっていること」と題し、未来塾の理念と、現代社会が直面する課題への視座が示され、参加者と共有されました。

続く講義では、永田康浩先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科地域医療学分野 教授)より「離島・へき地医療」について講義が行われました。長崎県の離島が直面する地理的・人口的課題や、医療資源の偏在、高齢化の進展などが紹介されました。次に、因京子先生による「発信する文章の書き方」では、思考や感覚を明確に言語化し、論理的に伝える方法について解説がありました。

続いて、五島市役所を訪問し、文化観光課の松﨑義治課長より、市の人口規模や地理的特性を含む五島市の概要についてご説明をいただきました。さらに、2018年に世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に関し、五島市内に残る教会群の歴史的価値や保存の取り組みについて紹介いただきました。

五島観光歴史資料館では、五島の歴史や文化に関する展示を見学しました。館内では、五島の成り立ちや人々の暮らし、キリシタン関連の史料などが紹介されており、地域の文化的背景について理解を深めることができました。

2日目:フィールドワーク・講義(五島市)

大瀬埼灯台近くで、東シナ海を背景に記念撮影

フィールドワークでは五島の象徴的な景観や教会群を訪問しました。まず、遣唐使に随行した空海が講釈を開いた逸話が残る大宝寺を拝観しました。続いて、国境に近い東シナ海を望む大瀬埼灯台や白砂の美しい高浜ビーチを訪れ、国際交流の玄関口として、また安全保障の最前線としての五島の地理的特徴を実感しました。さらに、世界遺産の構成資産でもある井浦教会、水之浦教会、堂崎教会を巡り、人々の信仰と歴史に触れる貴重な機会となりました。加えて、遣唐使船寄泊地として歴史に名を記す魚津ヶ崎公園では、大自然を満喫するとともに、国境離島としての五島が持つ歴史的・地政学的な意味をあらためて考える時間となりました。

その後の講義では、五島で訪問看護に取り組んでいる貞方初美先生(在宅看護センターだんわ 管理者)より地域に根ざした看護の実際と課題について具体的な事例を交えて紹介されました。続いて、野中文陽先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 離島・へき地医療学講座(離島医療研究所)医師 )より遠隔医療の実践として、ICTを活用した医療提供の現状と可能性について解説がありました。これらの講義を通じて、地域の医療・保健活動を支える多様な取り組みについて理解を深めました。

3日目:長崎へ移動・フィールドワーク(長崎市)

シーボルト記念館を訪問する参加者たち

午前は五島市を出発し、船で長崎市へと移動しました。午後からは長崎の歴史と平和の歩みを学ぶフィールドワークを実施しました。まず、平和公園を訪れ、原爆投下の惨禍を伝えるモニュメントや慰霊碑に向き合いながら、平和への誓いを新たにしました。続いて、浦上天主堂を見学し、被爆によって破壊されながらも、信仰と地域の人々の力によって復興した歴史に触れました。

その後、一行はシーボルト記念館を訪問しました。ここでは、江戸時代に日本の医学・自然科学の発展に大きな影響を与えたシーボルト博士の足跡をたどり、西洋と日本の交流の歴史や医学の伝来について理解を深めました。

一連のプログラムを通じて、戦争と平和の歴史に直接触れ、命の尊さと地域医療のあり方について考える貴重な学びの機会となりました。

4日目:講義(長崎大学坂本キャンパス)

開沼博先生(東京大学大学院情報学環 准教授)からは、ご自身の研究や活動を通して「福島学」という視点を提示し、震災・原子力災害の経験から課題を発見し、対話・研究を通じて解決につなげる重要性を語られました。

続いて、大津留晶先生(長崎大学 客員教授)から、放射線被ばくと健康影響について講義が行われました。原爆被爆者の長期調査、チェルノブイリ事故、福島原発事故の教訓を紹介しつつ、「急性障害」と「晩発性障害」の違いや、福島県民健康調査の成果について解説いただきました。

その後、参加者が4班に分かれてグループワークを実施しました。各班では「放射線と健康影響について社会にどう伝えるか」「リスクコミュニケーションの在り方」などをテーマに議論し、発表を行いました。科学的な知識を一般の人々に分かりやすく伝える難しさや、誤解を防ぎながら安心を届ける工夫について、活発な意見交換がなされました。

大津留晶先生による講義の様子

続いて、緑川早苗教授(宮城学院女子大学生活科学部食品栄養学科 教授)から、福島県での甲状腺検査の経験をもとに、がんスクリーニングのメリットとデメリット、特に「過剰診断」がもたらす心理的・社会的な負担について解説されました。

その後、福島での甲状腺検査をめぐる実際の課題を題材に、4班に分かれてグループディスカッションを行いました。発表では、検査を受ける側の心理的負担への配慮や、情報提供のあり方に関する具体的な提案が出され、共有意思決定の重要性が改めて認識されました。

藤田則子先生(長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授)からは、カンボジアやアフガニスタンの事例をもとに戦争と戦後復興、そして女性の健康課題についてお話いただきました。

講義で登壇する小林尚行先生

小林尚行先生(共栄大学国際経営学科 教授)からは、地球規模のポリクライシス(気候変動、格差、紛争など)が健康に与える影響を論じられました。

一連の講義を通じて、参加者は原子力災害の影響や国際的な健康課題について幅広く学ぶことができました。

5日目:成果発表と閉講式(長崎大学坂本キャンパス)

最終日には参加者がそれぞれの学びを整理し、グループごとに成果発表を実施しました。

グループワークで意見を出し合う参加者
グループワークでの成果を発表する参加者

全プログラム終了後、閉講式を迎えました。

参加者一人ひとりに修了証が手渡され、会場には達成感と笑顔があふれました。講義やグループワークを通して得られた学びを胸に、それぞれの地域や現場に戻って次のステップへと進む姿勢が印象的でした。

「多くの専門家の講義とグループワークを通じて、自分の将来に向けた大きなヒントを得ることができた」

「仲間と真剣に議論することで、自分一人では気づけなかった視点に出会えた」

参加者からは、そんな声が寄せられました。

閉講式にて修了証を手にする参加者たち

ささかわ未来塾2025は、講義・現地体験・交流を通じて、次世代の人材が地域と世界の保健課題を考える貴重な機会となりました。

笹川保健財団は、今後もこうした人材育成の取り組みを継続してまいります。